実は最近、本専門のブログも起ち上げたのですが、そこはたまにしかアップしていないのと、『真田丸』絡みでもあるため、今日はこちらでこの本をご紹介しておきます。
『中世騎士物語』 ゲルハルト・アイク著、鈴木武樹訳 白水社 20年ほど前に出た復刻版ですが、翻訳そのものは1960年代のものであるため、ちょっと古めかしく、今なら出版禁止用語だなと思われる表現も出て来ます。どちらかといえば少年向けですが、反面読みやすいともいえます。「ロランの歌」「エルンスト公」「アーサー王と円卓の騎士」そして「タンホイザー」の4つの物語が収められていますが、その「アーサー王と円卓の騎士」の中の「トリスタンとイゾルデ」について。トリスタンはコーンウォールのマーク王の甥であるものの、養父母に育てられ、成長した後伯父と再会して寵愛を受けます。その後アイルランドに、金髪のイゾルデをマーク王の王妃として迎えに行くものの、イゾルデの母の媚薬により2人は恋仲になり、それがもとで処罰される破目になって森に逃げます。しかし結局トリスタンはコーンウォールを出て、カルエーで別のイゾルデ(白い手のイゾルデ)と結婚しますが、本当に愛しているのは金髪のイゾルデでした。それを知った白い手のイゾルデは、夫を騙して死に至らしめ、やがて金髪のイゾルデも亡くなります。
このトリスタンには、『真田丸』で梅を偲ぶ信繁がどこかだぶります。まずハンディのある恋愛であること、それを乗り越えてでも愛を突き通す姿勢が窺えること、会いたいと思った人に生きて会えないといった点です。実際トリスタンも、イゾルデとの愛が発覚して処刑寸前だったのを逃げ出し、森でイゾルデと不自由ながらも楽しい生活を送るものの、結局離れ離れになり、白い手のイゾルデと結婚しますが、常に心は金髪のイゾルデのことで占められていたわけです。(しかし、白い手のイゾルデにしてみれば気持ちいいものではなかったでしょう)ハンディのある愛は、『ロミオとジュリエット』などにも共通するものがあり、実際このような心理状態は「
ロミオとジュリエット効果 」と呼ばれています。偶然ではありますが、ロミオは結婚後、ジュリエットのいとこのティバルトを殺めてしまい、信繁も祝言を血で汚されてしまいます。
また『真田丸』の方は、古事記の「天孫降臨」での、ニニギノミコトとイワナガヒメ、コノハナノサクヤビメに見られる、バナナ型神話(短命や死をモチーフにする神話)の類型という方もいます。これも当たっているといえそうです。ちなみに「天孫降臨」では、コノハナノサクヤビメの子が不義の子ではないのかとニニギノミコトに問われ、火中出産で無実を証明する場面があります。実はこの火中出産は、先日書いた神明裁判の一種です。またやはり騎士物語の「ローエングリン」では、決闘による裁きが登場します。
そしてここでも伯(叔)父甥の登場です。もちろん古今東西を問わず、特に父の弟とは次の皇位(王位)継承者であったり、家臣であったりしたわけで、トリスタンも伯父のマーク王に騎士として叙任され、寵愛を受けます。それゆえ、イゾルデと不義の関係になったことを、マーク王はひどく嘆きます。以前「
上杉景勝とハムレット 」に書いていますが、伯(叔)父という親族が与える影響の大きさが窺えます。
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