さて『応天の門』の続きです。前回、道真は書庫を漁っているのを父是善に見とがめられた際に、このように尋ねます。
「兄上は殺されたのですね」
父はそれを否定しますが、さて真実はいかに。
***************************
道真には優しかった兄の記憶があったが、その兄の死に際の様子が気になっていた。父是善は流行病で死んだと言うが、道真は加持丸の件の後、あれは狂犬病だったのではと思い、書庫で兄の日記を探すが、是善はそれをとがめる。そして兄が藤原に殺されたと主張する道真を遮るように、それを二度と口にするなといい、緊急の用で宮中へと出かけて行った。
白梅は道真の兄について知りたいと思うが、女官たちは頑なに口を開こうとしなかった。そして女官頭の桂木が、長兄の吉祥丸と道真は7つ離れており、その間にもう1人男児がいたが早世した。そして吉祥丸も亡くなったことを教え、白梅に、このことについては口外しないようにと釘を刺される。
是善は宮中で、帝から意外なことを聞かされる。帝の生母である染殿の后(藤原明子)の生霊が、寝所に現れたのである。夢ではない証拠に、手布が落ちていた。帝から、母に会いたいと頼まれる是善に、基経は藤原氏のことであるので、この件から身を引くように言う。后は基経の義姉であった。
その後基経は后の女官の遠山を叱責し、ことを表沙汰にしないように命じる。后は気の病で引きこもっており、遠山は看病のためそばに侍り、薬粥を后に無理にでも与えるようにしていた。それはあたかも、后に何かを盛っているようでもあった。そして、近いうちに七日七晩の祈祷が行われることになる。
その当日がやって来た。基経から祈祷の警備を頼まれた在原業平は、見目のいい僧たちが進む中、ある香りがすることに疑問を抱く。一方で道真は食事も摂らず、整然と、思慮深く綴られた兄の日記に目を通していた。そして、兄がいまわの際に「来るな!」と罵倒するように叫んだことを思い出す。それは、兄の死の2日前のことだった。
*************************
兄吉祥丸の死と藤原氏とは、何か関係がありそうです。しかも兄の病状は、加持丸の狂犬病にそっくりでした。兄はなぜそのような病気に罹ったのでしょうか、また藤原氏とその病気はどのようなつながりがあるのでしょうか。
しかも帝の母君である染殿の后は病で、遠山が看病を続け、果ては祈祷まで行われているものの、実子である帝が生霊を見たり、手布が帝の寝所に落ちていたりと、何か裏がありそうです。藤原氏出身の后は、あるいは基経たちに利用されようとしているのでしょうか。なお手布というのはこの時代、神事に用いた装身具のことで、後に手ぬぐいやハンカチの用途で使われるようになりました。
スポンサーサイト