花燃ゆ43-この大河を振り返って 冒頭で、『赤毛のアン』の引用句について少しだけ触れています。この本は、松本侑子さん訳の『赤毛のアン』(集英社)で、どのような書物のどういう部分が、オマージュ、あるいは本歌取り的に引用されているか、訳者ノートに細かく記載されています。実は松本さんの小説はさほど読んでおらず、また彼女の方向性に必ずしも同意できるものでもありませんが、この試みは非常に面白いと思います。 引用句のみならず、その当時のプリンスエドワード島の人々の習慣や、有名人の風貌、そして英文学にはかなりの頻度で登場するハーブなども紹介されていて、『赤毛のアン』というより、この文学作品の謎解きをする一冊といえそうです。また、当時なぜパフスリーブが流行したか、その経緯についても述べられています。そしてもちろんマザーグースもありますし、アンが小舟に横たわっていて水が漏れる場面は、テニスンの『国王牧歌』が元になっています。
生憎ホームズ関連はなさそうです。これは同時代の、しかもかなり趣の異なる作品同士ということもありますし、カナダでいつごろからホームズが読まれるようになったかにもよります。本当は、アンが小説クラブを作って物語を書くところで、多少その影響があればと期待してもいたのですが。
やはり引用頻度が高いのは聖書、シェークスピア、そしてブラウニングやスコット、エドマンド・スペンサーなどの詩です。また登場人物の名前や、アンの想像上の名前であるコーデリア・モンモランシーの由来などについても説明がなされています。ちなみにカスバート兄妹はスコットランド系で、長老派(スコットランド国教)教会に通うという設定になっています。なおこの本は1993年の出版であり、訳者ノートを読んでいて、さらに追及できる点などもあって、その意味でも興味深い存在であるといえます。 ご存知の方も多いでしょうが、元々カナダはフランス領であり、その後七年戦争を経てイギリスの植民地になります。そのためか、フランス系の人物があまりよく描かれていないという特徴もあります。フランス色が一番強いこのケベックは、イギリス領となった後も宥和策が採られ、現在はカナダで唯一、フランス語を公用語とする州となっています。
スポンサーサイト