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ベイカー寮221B/Baker House 221B

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『風花帖』-55

江戸で剣技を磨いたものの道場も開けず、仕官もできなかったのは、叔父佐五郎が陰気で影が薄く、ひとに嫌われるほどではなかったものの、疎んじられ、忘れられて放っておかれたからだと、父弥助は言っていた。そんな叔父に似ていると言われたことが、新六にはよく理解できなかった。

しかし長じるに従って、次第にわかって来たのだった。新六自身ひとから憎まれるほどではないが、何となく疎んじられまた目障りに思われて来た。弥助が隠居して勘定方に出仕するようになってから、新六はそのことを改めて知った。

特に意地悪をされるわけではないが、周囲にひとが集まらないのである。ひとりきりでいるのは幼い頃から慣れていたが、命じられた書類を書きあげても誰も見てくれるわけでもなく、「そこに置いておけ」と、顔も見ずに指示される有様だった。

新六は耐えるだけの日々を送ったが、叔父に鍛えられた剣術の技量を示せば、周囲が自分を見る目も変わるのではないかと思い、城下の道場が行っている素戔嗚神社の奉納試合に出たのである。佐五郎は剣の才能を表さずに、おとなしく生きよと言っていたが、新六自身ひとに認められたいという欲はあった。

自分が剣術に優れていると示すことで、家中の人々に見直され、親しく交わってくれるのではないかと新六は思った。そこで奉納試合に臨んで勝ったが、新六自身が望んだような評判は得られなかった。この試合で敗れた相手は、負けを屈辱に感じてはいたが、誰も自分を認めることはなかった。

どころか夢想願竜が姑息だとそしり、卑怯な嵌め手を使うなどと非難されもしたが、やがてそのように言われることさえなくなった。結局夢想願流を使う変わり者とだけ言われ、腕前そのものについては無視され続けたのである。

新六は知らず知らずのうちに、すべてを諦めるようになった。佐五郎がそうであったように、どれだけ努力しても力があっても、人に受け入れて貰えない。そういう巡り合わせの者はいるのだと考えるようになって行った。しかし印南家の屋敷が火事になり、杉坂家の屋敷に住むことになってから、吉乃が新六に親しく笑いかけ、話しかけてくれたのである。

これは新六に取って初めての経験だった。当時吉乃はまだ12歳か13歳で子供らしさがまだ残っており、他家の男である自分にも気兼ねなく話しかけてくれたのだと新六は思った。

若い女人と話すなど初めてのことで、戸惑って顔を赤らめたのではないかとも新六は思った。しかし吉乃はそれがおかしいと言って笑い、その笑い声を聞くだけで、頑なであった新六の気持ちもほぐれた。何よりも、杉坂家の中庭に面した縁側で、ほころびかけた梅を見ながら吉乃とたわいもない話をしていると、今までにない幸福感を得ることができたのである。

このおかげで、吉乃の父である監物とも畏まらずに話をすることができたのだが、ただ、その生活がいずれ終わる時が来るのはわかっていた。新六の父弥助が仮住まいしていた親戚の家で亡くなり、新六自身は杉坂家を出て、一家を構えることになったのである。

そんな折、新六は監物から思いがけない話を聞いた。親戚の間で、自分と吉乃を娶(めあわ)せようという話が出ていたのだった。新六さえよければ縁組の話を進める、どうかと言われ、新六は天にも昇る心地で頭を下げて、是非ともお願いしますと伝えた。

監物は穏やかな表情で微笑み、新六にこう言った。「ではいずれ吉乃に伝えるが、それまでは内密にしておくように」新六は嬉しさのあまり、部屋に戻っても体の震えが止まらなかった。


新六の話が尚も続きます。地味なタイプで、周囲に人が集まらないのが悩みの新六は、父に叔父佐五郎に似ていると言われたこと、それがなぜであるかということを理解するようになります。佐五郎もまた、ひとから疎んじられるタイプであり、それゆえ剣の腕を磨きながら、剣術家として大成することはなかったのです。そのため、叔父から剣の才能を表に出すなと言われてはいたものの、自分の剣の腕を披露すれば、皆の見る目も変わるのではないかと思い、奉納試合に出ることになります。

この試合で新六は勝ちますが、だからと言って周囲が見直してくれるわけでもなく、変わった剣術を使うやつとだと言われるようになり、剣の腕そのものも認められないという、報われない日々を送るようになります。ところが印南家の屋敷が火事になり、新六が杉坂家に住むようになってから状況が変わります。杉坂家の娘吉乃が話しかけたり、笑いかけたりしてくれるようになり、自分は疎んじられていないという思いから、新六の気持ちは段々とほぐれて行きました。杉坂家の縁側で吉乃と過ごす時間は、至福の時だったでしょう。

しかし父弥助が亡くなり、この杉坂家での日々も終わりを迎えることになります。しかしそんな折、吉乃の父監物は、新六に吉乃との縁組について話します。新六に取っては天にも昇るが如き気持ちで、是非ともお願いいたしますと監物に頼み、監物もまた、いずれ吉乃に伝えるがそれまでは内密にするようにと言い渡します。剣の腕は認められなかったものの、自分自身を吉乃が認めてくれ、しかもその吉乃を妻として迎えることができる。大きな喜びであったはずですが、そこで例の素戔嗚神社の件が起こります。

飲み物-華やかなティーカップと紅茶
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[ 2024/03/05 05:00 ] その他 | TB(-) | CM(0)
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『西郷どん』復習の投稿をアップしている一方で、『鎌倉殿の13人』の感想も書いています。そしてパペットホームズの続編ですが、これも『鎌倉殿の13人』終了後に三谷氏にお願いしたいところです。

他にも国内外の文化や歴史、刑事ドラマについても、時々思い出したように書いています。ラグビー関連も週1またはそれ以上でアップしています。2019年、日本でのワールドカップで代表は見事ベスト8に進出し、2022年秋には強豪フランス代表、そしてイングランド代表との試合も予定されています。そして2023年は次のワールドカップ、今後さらに上を目指してほしいものです。

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