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ベイカー寮221B/Baker House 221B

パペットホームズ、大河ドラマなどの好きなテレビ番組やラグビーについて書いています。アフィリエイトはやっていません。/Welcome to my blog. I write about some Japanese TV programmes including NHK puppetry and Taiga Drama, Sherlock Holmes and rugby. I don't do affiliate marketing.
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『風花帖』-54

新六は言った。
「あの男は昔、素戔嗚神社で吉乃様に不埒な真似を致しました。あの時斬り捨てておけば、かほどに禍(わざわい)を被ることはなかったでしょう。生かしておけば、今後も吉乃様と菅様に対し、悪辣なことを仕掛けて参るに相違ありません」

「今家中は二つに割れて、騒乱が起きています。この最中に斬れば、騒ぎの中ゆえの刃傷沙汰と思われるでしょう。今こそ、禍根を断つ必要があるのです」
新六は、不敵な笑顔を吉乃に向けた。

吉乃の胸の中を、不意に悲しい思いがよぎった。
「新六殿はなぜ、そのように私によくしてくださるのでしょうか。私は申し訳なく思うばかりでございます」
「さて…それは私の心が命じることでございますから」
新六ははぐらかすように言い、目をそらした。

「では新六殿のお心は、どのようなことを命じているのでございましょうか。話していただきとうございます」
吉乃は切なげな目で新六を見た。

間もなく勘十郎が屋敷に戻ってくる。新六が勘十郎を斬るつもりでいるからには、命を賭した戦いになるだろう。今新六の思いを聞いておかなければ、吉乃はそう思った。
「されど私のこの心情については、私自身の身の上を語らねば、おわかりいただけないでしょう」

「お聞かせ願いとうございます」
吉乃はきっぱりとそう言った。
「左様ですか」
新六は少し考えてから、淡々とした口調で話を始めた。

印南新六の家に取って、吉乃の実家である杉坂家は主筋であり、印南家は小笠原家の直臣として取り立てられた。その後縁組を行い、杉坂家と印南家は親戚となったが、かつての主筋としての礼を忘れたことはなかった。新六は幼い頃に母を亡くし、父である印南弥助の手で育てられたが、その当時叔父の佐五郎が同居していた。

佐五郎は若い頃、江戸に出て剣術修業をしており、刺客として名を挙げ、道場を開くか仕官をしたいという夢があったが、いずれもかなわず国許に戻り、「厄介叔父」となっていた。その佐五郎はなぜか新六を気に入り、江戸で修行した夢想願竜を新六に仕込んでくれた。

新六は子供の頃から人付き合いが苦手で、友達と遊ぶとか出かけたりするようなこともなく、ひたすら自邸の庭で、佐五郎に剣術の稽古をつけて貰っていた。父弥助はそんな新六を見てこう笑っていた。
「佐五郎の子供の頃にそっくりだな」

佐五郎も、新六が自分に似ていると言っていたが、弥助のように笑ってではなく、寂しげにそう言っていた。あるいは、新六を憐れんでいたのかも知れない。その佐五郎は、新六が元服して間もなく病死したが、病床で甥に言い遺していたことがあった。

それは
「わしは、そなたに伝えられるだけの技は教えた。そなたには剣の才能がある。だがそれは表に出さず、おとなしく生涯を過ごせ」
というものだった。佐五郎がなぜそのようなことを言ったのか、新六にはわからなかった。

父弥助は佐五郎が亡くなって間もなく、こう話してくれた。
「佐五郎はお前が自分に似ているので不憫だったのだろう」
佐五郎は剣術熱心のあまり人と交わることもなく、ひとりで生きたのである。


勘十郎を斬ると決めた新六ですが、その理由として、まず吉乃を辱めようとしたことが挙げられます。しかしそれだけではなく、この藩を二分するような騒ぎに乗じて勘十郎を斬れば、騒ぎ故の刃傷沙汰であると思われる、だから斬ると答えます。前回、新六のように地味な人物が、特定の存在を貶められると、なかなか過激なものであったりすると書きましたが、この時の新六の言葉も、思いもよらず激しいものでした。

そんな新六に吉乃は、なぜここまでよくしてくれるのかと尋ねます。自分の心がそう命じるからだと答える新六に、ではどのようなことを命じているのかと問う吉乃です。これから先の勘十郎との死闘のことを考え、今聞いておくべきだと吉乃は考えたわけです。すると新六は、自分の心情については身の上話をしなければならないと言い、先ほどと違って、如何にもこの人物らしく、淡々と話を始めます。

印南家に取って吉乃の実家杉坂家は主筋だったこと、印南家には同居している(居候?)佐五郎という、剣の達人の叔父がおり、剣術の手ほどきを受けたこと、しかしその叔父は病没し、剣の才能を表に出さずに大人しく生きるように言ったことが語られて行きます。佐五郎は生涯剣のみに生きており、自分に似ている新六が不憫だったのだろうと弥助は言うのでした。なおこの部分、元々は口語体ですがここでは文章の形で書いています。


飲み物-冬のティータイム
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[ 2024/03/03 01:15 ] その他 | TB(-) | CM(0)
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『西郷どん』復習の投稿をアップしている一方で、『鎌倉殿の13人』の感想も書いています。そしてパペットホームズの続編ですが、これも『鎌倉殿の13人』終了後に三谷氏にお願いしたいところです。

他にも国内外の文化や歴史、刑事ドラマについても、時々思い出したように書いています。ラグビー関連も週1またはそれ以上でアップしています。2019年、日本でのワールドカップで代表は見事ベスト8に進出し、2022年秋には強豪フランス代表、そしてイングランド代表との試合も予定されています。そして2023年は次のワールドカップ、今後さらに上を目指してほしいものです。

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