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ベイカー寮221B/Baker House 221B

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『風花帖』-52

(だが出雲の許しを得て捕らえた吉乃を、強引に奪い返すとは余りに大胆過ぎる。そのようなことができるはずがない)
勘十郎は胸の中で一旦は打ち消したが、すぐに、あの新六ならやろうとするかも知れない、そういう思いが湧いて来た。家老の命によって捕らえた吉乃を助ければ、命は捨てなくてはならないが、新六ならば平気で吉乃のために死を覚悟するのではないか。

(あの男ならやりかねない)
かつて御前試合で、重臣の息子である自分を新六が容赦なく打ち据えてケガまで負わせたのも、吉乃のためだった。

吉乃が危機に陥っているとすれば、あの男は何を措いてでも助けようとするのではないだろうか。そう思った瞬間、勘十郎はひどく衝撃を受けた。もし屋敷に捕らえている吉乃を新六に奪われでもしたら、出雲に高言した策のすべてが水泡に帰してしまう。

小宮四郎左衛門たちが藩を割って出国しているのである。その対応で焦慮に駆られている出雲は、勘十郎の失敗を許すはずがないだろう。あるいは、今の騒動の責めを勘十郎に押し付けるかも知れない。

「新六め」
勘十郎はうめき、指図を待つ下役には目もくれずに玄関へと向かった。今こうしている間にも、新六が吉乃を奪って行くのではないかと焦る気持ちが、勘十郎の中に湧き、新六めと改めて歯ぎしりしたくなる思いだった。

その新六は小宮屋敷を去った後、追跡する者たちを巧みにまき、勘十郎の屋敷の門前に立つと、周囲に誰もいないのを見定めたうえで築地塀に沿って歩き、裏門へと回った。裏門に通じる道に人通りはなく、新六は裏門近くの築地塀に手をかけ、身軽に乗り越えた。

庭に飛び降りた新六は腰をかがめ、石燈籠の陰に身を隠した。呼吸を整えて屋敷内の様子を探り、さほどに警固の手配をしていないのを感じ取ると、そろりと動き出した。そして新六は音も立てずに広縁に近づくと、雪駄を脱いで懐に入れ、広縁に上がると、刀を手に下げて、人の気配を感じさせないようにして歩いた。

女中たちが片付け物をしている部屋の前を通ったが、足音を忍ばせ、風のように通り過ぎて行く新六に、誰一人気づく者はいなかった。新六はそのまま長い廊下を曲がり、奥へと進んだ。

吉乃を閉じ込めておくなら、奥にある小部屋だろうと新六は見当をつけていた。中庭に面した縁側に出た時、女中が奥の部屋から出てくるのが見えた。茶碗を下げているようだった。その女中が広縁に跪いて頭を下げ、障子を閉める仕草を見た時、中にいるのは女人ではないかと新六は思った。

そして座敷に入り、女中が広縁を歩いてこちらの方にやってくるのを、座敷の障子の陰でやり過ごした。また、中庭に家士らしい2人の男が所在無げに佇み、座敷に時折目をやっているのも見えた。
(間違いなさそうだ)

新六はにこりとして座敷を見回した。奥に納戸があるのに気づき、その戸を開けてそっと入り、棚を足掛かりに手を伸ばして天井板を外した。刀を先に天井裏に置き、その後ゆっくりと体を持ち上げた。薄暗い天井裏だが、格子からわずかながら光が射しており、新六はしなやかな獣であるかのように天井裏を這い、奥座敷の上へ近づいた。

用心深く天井板を動かすと、下の座敷に女人がいるのがわかった。髷と首筋、そして肩先を見ただけで、新六はその人物が吉乃であることが確認できた。


新六がついに、勘十郎の屋敷へとやって来ます。しかし勘十郎にしてみれば、命を捨ててでも吉乃を守ろうとしかねないこの男が、野に放たれるのは厄介なことでした。何せかつて吉乃のために自分はケガをさせられてもいます。さらに吉乃を奪われるということは、自分が出雲に得意げに策を語ったものの、それが無駄骨に終わるのみならず、自分がこの騒ぎの責めを負わせられかねないことをも意味していました。

新六の行動に関しては吉乃の夫源太郎も、新六が自分を庇うのは、吉乃のためではないかと考えていました。但し源太郎は庇われる、あるいは守られる方であるのに引き換え、勘十郎の場合は、新六の敵となることを意味していました。吉乃の扱い方の違いが、新六に敵意を抱かせるかいだかせないかの違いとなっているわけで、勘十郎は正に、新六の敵意を一身に浴びる存在となってしまったのです。

しかしこの新六の一連の動作、まるで忍びのそれですね。彼は一応武士であるわけですが、夢想願流の使い手でもあり、この流派を取得したことが、このような動作を可能にしたのかと思われます。無論勘十郎の屋敷の方でも、まさかこの男がこのような形で現れるとは見当もつかなかったでしょうが、何せ新六の登場の仕方は、普通の人間の意表を突くと言っていいものでした。


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[ 2024/02/20 05:00 ] その他 | TB(-) | CM(0)
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『西郷どん』復習の投稿をアップしている一方で、『鎌倉殿の13人』の感想も書いています。そしてパペットホームズの続編ですが、これも『鎌倉殿の13人』終了後に三谷氏にお願いしたいところです。

他にも国内外の文化や歴史、刑事ドラマについても、時々思い出したように書いています。ラグビー関連も週1またはそれ以上でアップしています。2019年、日本でのワールドカップで代表は見事ベスト8に進出し、2022年秋には強豪フランス代表、そしてイングランド代表との試合も予定されています。そして2023年は次のワールドカップ、今後さらに上を目指してほしいものです。

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