それでは『応天の門』の続きです。前回、藤原親嗣の邸の女官が失踪し、その後発見された死体から、様々な事実が浮かび上がって来ます。道真は捜査を開始しますが、そんな折友人の紀長谷雄が、女官の居場所を知っていると口にします。道真、長谷雄、そして業平はその居場所である双六宿に乗り込むのですが…。
あらすじ 道真は双六宿の女将昭姫に、三番勝負で自分が勝てば、長谷雄の借金を帳消しにしてくれるように頼む。しかしもし負けた場合は、業平に払わせるつもりだった。結局道真はあっさり三番勝負に勝ち、昭姫に「鬼退治をしたい」と切り出す。そこへ失踪していた小藤が現れ、親嗣は女官たちを何かにつけて散々殴りつけていたこと、松葉という女官がいつも味方してくれたこと、その松葉が殺されたこと、そして逃げ出した自分が昭姫に匿われたことを打ち明ける。
道真はすぐさま帰宅し、書庫に籠って鬼退治の方法を考える。その後昭姫に頼んで、松脂や猪の血などを準備させる。そのうえで、業平は使いを親嗣の邸にやり、女官に恋文を届けさせるが、その使いの者は「藤の花」「火にあぶられる」といった言葉を残して去って行く。それを見咎めた親嗣は彼女を散々に殴るが、一見したところ、それはやはりただの恋文だった。しかしその女官は「火にあぶる」にヒントを得て、燭台の火に手紙をかざして文字をあぶり出す。そこには、次の新月までにこれこれこういうことを準備し、当日はこのようにしろという指示が事細かに書かれていた。
その新月の当日、親嗣は酒を飲みながら眠ってしまい、目をさますと女官たちはみなおらず、しかも燭台が鬼火のように爆ぜており、おまけにそこかしこが血まみれになっていた。怖気づいた親嗣は誰かを呼ぼうとするが、そこに死んだ松葉の着物をかぶった巨漢が現れた。生きた心地もしない親嗣、そこへ業平率いる検非違使たちがやって来るものの、親嗣は彼らを邸内に入れようとしない。検非違使たちが去った後、今度は従兄の左大臣藤原良房が現れ、この件ではお前を庇えなくなったと言い放つ。
女官たちは昭姫の元に匿われていた。業平はそれぞれに新しい奉公先を世話すると約束するが、小藤は一人昭姫の元に残ると言う。貴族の館に仕えるのに嫌気がさしていたのであった。その後業平は、道真と共に双六宿を後にし、道すがら、何をやったのかと問う。道真がやったのは、まず松脂と鉄砂(砂鉄)を混ぜたものを、燈明台に沈めさせることだった。暗闇の中で爆ぜるので鬼火のように見えるからである。そして親嗣を酒に混ぜた薬で眠らせ、猪の血を辺りに塗り、そして仕上げは松葉の着物を昭姫の宿の大男に被せ、亡霊が出たかのように演出することだった。
2人は応天門の前まで来ていた。応天門の先は鬼の本丸だが、お前がいればいくらか政治は面白くなるかもしれないと話す業平に対し、道真は、自分は好きな本を読んでいればそれでいいと無愛想に返す。
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犯人はやはり親嗣でした。このような主人とあっては、それは逃げ出したくなる気持ちもわかります。偶然とはいえ、あざがあることが手掛かりとなって、道真は推理を導き出して行きました。しかし良房が突然やって来て、もうお前は庇えないぞと言う辺り、どうやら業平か検非違使から真相を聞かされたのではないかとも思われます。身内の派閥争いにより、結局親嗣は頼みの綱、もみ消してくれるであろう良房から見限られてしまったのです。
しかし道真のクールというか、いささかとりつくしまがないような姿勢には、末恐ろしさと青臭さが同居しているように感じられます。この辺りに、パペットホームズのホームズが重なる所以なのですが、道真が死体を見る事ができないのに引き換え、ホームズは散弾銃で撃ち抜かれた頭を平気で調べます。ホームズのあの逞しさはどこから来るものなのでしょうか。ともあれ、道真と業平の協力関係は、今後も続くことになります。
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