まず、能登半島での地震に遭われた方に、お見舞い申し上げます。
今回は以前書いていた、中尾亘孝氏のJリーグ観(1991年当時)に関して。その当時出版された中尾氏の『15人のハーフ・バックス』から少し引用してみます。
ここでちょっと回り道となりますが、看過できない問題が発生したので触れてみようと思います。
それは、サッカーのプロ化です。
(中略)
その前に、サッカーがW杯に出られるかどうかという疑問に答えておきましょう。まことに御同情にたえない次第ですが、ノーです。ジャパンがオールブラックスに勝つより確率は低いといえそうです。それはどうしてか、現場に限って原因を追究すると、
①日本独自の理論がない ②人材が揃わない ③学閥、派閥の足の引っ張り合いが激しい
このようになっています。このJリーグが発足して既に30年ですが、その30年で状況はかなり変わって来ていると見るべきでしょうし、理論不足、人材不足や派閥などを裏付けるものがほしいですね。無論この時点で、サッカーのプロ化は無理だと言う声がまだ強かったのも事実でしょう。
しかし
「ノーです」
「ジャパンがオールブラックスに勝つより確率は低いといえそうです」
はちょっとどうかと思います。そしてこの7年後に、サッカー代表はワールドカップに出場しており、その時以来一応毎回ワールドカップ本大会に出場していますが、ラグビー代表はまだオールブラックスに勝ってはいません。南アフリカに勝ったことはありますが。
しかも、サッカー代表のワールドカップ初出場時に中尾氏は、スポーツ紙は「優勝か」などと書いているが、初登場のチームに望めることはせめて1勝などと書いています。無論それはその通りなのですが、とかく針小棒大な傾向があるスポーツ紙の一面の見出しを、なぜわざわざ引き合いに出すのか、よくわかりません。
また
プロ化構想発表から実行までの移行期間が短すぎる点に、ナニやら公表されていない背景がありそうです。
などとも書かれていますが、このプロ化構想は80年代後半には始まっていたことが、その後に報道または出版されています。無論その当時わかっていないことが多かったのは事実でしょうが、関連メディアの情報を拾って行けば、もう少し詳しい経緯が見えて来たのではないでしょうか。
そしてなぜプロ化するのかに関して、
現状の企業アマ制度の枠内では、世界選手権出場なんて夢のまた夢であるという認識は当然です 。
実はサッカーでは、80年代には既にプロ選手も認めていましたが、まだアマチュア(社員)選手の方が多かったのは事実でしょう。この点に、今のリーグワンの現状を見る思いがします。(後述)
それに加えて、
でも、「日本のサッカーをもっと強くして、W杯に出る」― この目標めざして、具体的な戦術、戦略を示さずに、サッカーをプロ化すればいいのだといささか飛躍した結論に飛びついたかのように見えることは否めません。
ともありますが、いくら何でもそこまで単純ではなかったと思いますが。元々はJSL(日本サッカーリーグ、Jリーグの前身)を如何に活性化するかというのがスタート地点だったようです。
その次はプロ化の条件に関してです。
問題はプロ化に当たって、虫のよすぎる条件がついていることです。
①フランチャイズ制
②チーム、クラブ名から企業名を取る(外す)。 ③クラブ組織内でジュニア育成
全面的に賛成です。支持します。(中略)欧米では当たり前のこうしたスポーツのあり方は、ここニッポンの土壌に移植しようとすると、それはそのまま”革命”に他ならないということを別にすれば、申し分のない到達目標です。回りくどいいい方をしてしまいましたが、123のすべてがかなりの難問です。2などは不可能でしょう。
実際Jリーグは、すべて企業名を取ることに成功し、選手のユニフォームのロゴにのみ企業名を入れるにとどめています。なぜ「不可能」だと中尾氏は思ったのでしょう。そして他にも、3は10年20年のタイムスパンで考えたとしても難しいと書いていますが、90年代の終わり頃には、高校サッカーの出場選手がクラブのユース組織所属ということもありました。
またこれも前に書いていますが、2002年ワールドカップでキャプテンを務めた宮本恒靖氏は、ガンバユースでプレイし、同志社大学経済学部に通っていました。尚現在JSPORTSで放送されている高円宮杯のU18リーグでは、クラブのユースと高校が同じレベルで対戦しています。
しかしどうもこのシステムに中尾氏は賛同できなかったようで、
サッカー協会首脳部の決断は立派ですが、協会首脳部にこうした改革が”革命”だという認識があったのでしょうか。まったくもって不可解なプロ化騒動です。企業アマ制度の否定のみならず、学校体育をも否定しているのですから、否定した相手に甘えることは許されないはずです。
と書いています。
革命であるかどうかはともかく(中尾氏は結構この言葉がお好きなようですが)、
「まったくもって不可解なプロ化騒動です」
とは如何なものでしょうか。ちなみにこの時点で川淵三郎氏の名前が登場していませんが、あまり気に留めてはいなかったのでしょうか。
Jリーグの発表はこの年の7月に行われていますが、前述のように、マスコミ発表の時点で既に構想は固まっていたはずであり、それを段階的に実行に移すというものだったと思われます。さらに学校体育を否定するとも言っていないはず。無論当面は高校生、あるいは大学生を新戦力とするのはやむを得なかったでしょう。取りようによっては、大学を安定した若手供給の場としているラグビーを、やけにちらつかせているようにも見えます。中尾氏の推しのチームもいますからね。
一方先ほど触れたリーグワンの現状に関して。クラブ運営はかなりプロ的になっていますが、選手のすべてがプロ契約でなく、実質企業アマ的なクラブも多く、また選手の育成組織としてアカデミーを設けてはいますが、高校生以上は学校の部活がベースとなっています。ひとつ前にも書いていますが、安定した若手供給の場が大学または高校しかないのもどうかとは思います。
本当はこの状況をこそ改善して行くべきかと思いますが、運営サイドの発言が限られているせいもあり、どこまでグランドデザインを描けているのか疑問に思えて仕方ありません。
(2023年5月6日加筆修正)
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