第11回後半部分です。
家康は木の枝を削りつつ、忠勝に叔父ののんべえ殿こと忠真の様子を訊く。忠真は酒の飲み過ぎが祟り、手が震えて弓を引けなくなっていた。家康はいい薬がないか、薬草に凝っている瀬名に尋ねてみることにする。その時強風が吹き、身が冷えるのを防ぐために家康、忠勝そして康政は身を寄せ合う。3人は来ると言いながらやって来ない信玄は、案外気が小さく言えやすい怖気づいたのかもと康政。
甲斐の虎などと言っているが、正体は猫のように貧相な小男かも知れんと忠勝は言い、調子に乗った家康たちは猫の鳴きまねをしてみせる。するとそこへ坊主頭に顎髭をはやした巨漢が現れる。日が沈むと冷え込むとその男は茶を振舞い、家康は忠勝にこちらの住職かと尋ねるが、忠勝もその正体を知らないようだった。その男も家康たちが座っている岩に腰を下ろし、肝臓には野ブドウがよいと言う。
さらにその男は、猫は寝たい時に寝て起きたい時に起きる、あやかりたいとも言う。しかも堅苦しい場は苦手であり、肩ひじ張らない方が相手がよく分かるとも口にする。もしやと思う3人。家康は刀の柄を握るが、木の梢から忍びらしき者がこちらを窺っていた。そしてその男は串に刺した2つの団子を駿河と遠江に見立て、今川領を互いに切り取り次第で如何かと、その1つを家康に食べさせる。
家康は団子を半分ほど齧る。残りを信玄と思しきその男は平らげ、奥方様へと栗の実が入った包みを渡す。その後信玄は僧たちに転読をさせるが、兵が揃ったと山県昌景が現れたため、信玄は彼等に出陣の号令をかける。これにより武田軍の駿河侵攻が始まる。そして徳川軍も動き出し、遠江侵攻が行われる。家康は瀬名にやらねば武田に奪われると言い、お田鶴は殺さず降伏させると約束して出陣する。
遠江では、武装したお田鶴の一行が城下に姿を現す。お田鶴は店の団子に目を止める。いくらかと訊かれてお代は結構と店の老婆は言うものの、侍女が与えた金を素直に受け取る。そなたたちの暮らしは守ると言い、たれをかけた団子を受け取るお田鶴。その彼女に瀬名は手紙で和睦を勧めていた。そして鳥居元忠が開門を求めて、引間城にやって来る。
今川への恩を忘れおってと憤る飯尾の家臣。しかしお田鶴は瀬名の手紙に、今川の世が終わったと明言されていたのを思い出す。築山の庭の椿が花開こうとしていたその頃、引間城は徳川軍に包囲された。元忠は飯尾家の所領安堵と引き換えに降伏を迫るが、その時飯尾の兵の銃が火を噴く。元忠は引き下がり、忠次は撃ち返すように言うが、家康は打ちかかるばかりが戦ではないと忠次を制する。
一方武田軍は既に駿府に攻め込み、町のあちこちが火に包まれる。その知らせを聞いた家康は、武田軍の動きの速さに驚く。しかも武田の方は全くの無傷だった。また今川氏真の安否は定かではなかった。もう猶予はできない状態となり、夜明けまでに降伏せねば、総がかりで攻め落とすと伝えると数正は言う。夜になり、引間城に雪が舞い落ちていた。
お田鶴は雪を手のひらに受けた後、瀬名へ手紙を書く。同じ頃瀬名も雪を手のひらに受けていた。お田鶴は家康が過ちを認めたらすぐにでも築山へ行きたい、家康も連龍も過ちを犯した、今川家の恩を忘れて私欲に走り、この世を悪い方へと導いている、大きな間違いであると書き進める。
お田鶴の文面に合わせて、10年前の雪の駿府が再び現れる。駿府の幸せな日々、茶店団子の味、どのような相手と結婚したいのかを語り合い、嫁いだ後も仲良くしていたいと言ったこと、瀬名への詫びとして団子を口に入れたことなどなど。その駿府にはまだ義元も瀬名の両親も健在で、氏真はいつも当時の元康を相手にしていた。その元康、今の家康も駿府陥落がつらくはあった。
お田鶴は手紙を書き上げて懐にしまうが、いつの間にか夜が明けており、手紙を懐から取り出す。お田鶴からの連絡はなく、家康は家臣や兵に合図を送る。お田鶴は鎧を身に着けさせながら、かつてのように今川家の許に皆が集った、幸福な日々を取り戻さねばと言考えていた。やがてお田鶴の命で城に火がかけられる。一方徳川軍は攻め入る手筈を整えていた。
ところが中から門が開き、中は火の手が上がっていた。采配を振ろうとした家康に、平岩親吉がそのことを知らせる。老嬢ではなく自ら姿を現したお田鶴が、何を考えているか家康は察しがつき、思いとどまるように言う。しかしお田鶴は徳川の兵の中へ馬を走らせ、同じ頃瀬名は椿が咲いているのを目にする。お田鶴は再び今川家の支配により平和が来れば、すぐにでも瀬名の築山を訪れようとしていた。
お田鶴は瀬名と違い、寒さの中で一人であろうと、凜と咲く椿が、世に流されず己を貫いているようで好きだった。そしてお田鶴はその言葉通り、孤軍奮闘とも思える戦いで徳川勢の中へ馬を走らせ、徳川方の銃弾に倒れた。瀬名は椿の雪を払いながら、背後にお田鶴がいるような気がしていた。そしてお田鶴が心のたけを綴った手紙は、瀬名の許へ届くことはなかった。
後半、団子が大きな意味を持ちます。信玄の無理やりとも思える団子、お田鶴の、平和な暮らしの象徴とも思える団子。さらに徳川の戦の直前に、城下の店で見つけた団子を、お代は要らぬと言いつつも、侍女が差し出す金を受け取る老婆の姿勢に、自分が何をするべきかをお田鶴は読み取ったようにも感じられます。ところであの老婆を演じたのは柴田理恵さんですね。
しかし信玄。ああいう状況の中であれだけの巨漢が、何やら威圧的に現れ、しかも話の中身をすべて聞いているとあっては、家康たちは恐れおののくしかありませんでした。正に彼はまだ「岡崎のわっぱ」だったのです。信玄は、奥方に渡すようにと、去り際に栗を差し出します。いがだけが落ちていたのは、信玄または忍びがあらかじめ中身を抜いていたのでしょうか。
ところでこの信玄の背後の林。前半は如何にもVFX的だったのが、後半は照明を落としていることもあり、どことなくリアルな様相を帯びて来ます。信玄自身が欲しがっていたものが、ようやく形になりつつあるのと何か関係しているのでしょうか。その信玄の軍は、甲斐を発って10日も経たないうちに駿府を攻め落としてしまいます。
家康も最早ぐずぐずしてはいられません。お田鶴は降伏させると瀬名に言って出て行きますが、この場合兵力の差もさることながら、どう見ても家康の方に迷いが見えます。信玄にしてみれば、京へ上るための通過点であり、約束をたがえてでも落としておきたい駿府ですが、家康や家臣たちにしてみれば、そこはかつて自分たちが暮らした地でもありました。
それやこれやで攻めるのに時間がかかり、結局はお田鶴が自ら死に場所を求めるかのような形で、この戦いは終わります。瀬名とお田鶴の友情もまた、今川義元の死による東海地方の紛争に翻弄されたものとなりました。ちなみにこのお田鶴の甲冑は、女性の体型に合わせた、丸みを帯びたものだったとされています。
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