第33回「修善寺」後半部分です。それと先日投稿分を、少し直しています。
そこへ実衣が現れて仲章を呼ぶ。気まずくなった康信は慌ててその場を去ろうとしながら、韻律に乗せて、花鳥風月を感じるままにお詠みになるのがよろしいかと実朝に言うが、仲章はそれを否定する。和歌とは気の向くままに詠むのではなく、帝が代々詠み続けてきたものであり、帝のお望みの世の姿とありがたい考えがそこにある、それを知らねば学んだことにはならぬと言い、実衣も、和歌は政に欠かせぬものと口添えする。
さらに仲章は、和歌に長ずる者が国を動かすと言い、実衣もしっかり学ぶようにと実朝に教えるかたわら、康信にはお役御免と言った口調でねぎらいの言葉をかける。面目を失った康信は書物を携え、大急ぎで部屋を出たため転んでしまう。
再び修善寺。政子は妹で畠山重忠の妻ちえと共に、頼家の好物の干しあわびを持参して訪れていた。そこへ遠元がやって来て、頼家が息災であり、重忠と話をしていると伝える。しかし北条家の人々とはやはり会いたがらなかった。政子もそれを受け入れ、後でその様子を話してくれと遠元に頼む。ちえは不服そうだったが、政子は頼家の気持ちを汲んでやり、元気であることがわかればそれで十分だと言った。
猿楽の面を手に取る頼家に、尼御台に会ってほしいと重忠は言う。いたく心配しているからというのがその理由だが、頼家は、あの女子を最早母とは思わぬとまで言う始末だった。そして重忠と遠元の本領が武蔵であることを確認し、時政が武蔵守の座を狙っており、朝廷にそれを願い出ていることを打ち明ける。好きにさせていいのかと言う頼家に、どこからそのようなことをと重忠は尋ねるが、頼家は、味方になれば話すと言うのみだった。
鎌倉に戻った重忠は、時政にこのことを伝えるが、重忠は、頼家が都と通じているのではと疑っていた。あるいは後鳥羽上皇とかと疑うが、義時に軽はずみなことは言うなと注意される。重忠はさらに、頼家から聞いたとして、時政に武蔵のことはどのようにお考えかと尋ねる。時政は、武蔵を独り占めしようなどとは考えておらんと言い、重忠はご無礼しましたと頭を下げる。
そこへ八田知家が現れる。知家は手にした猿楽の面を投げつける。京へ向かう猿楽衆の一人を捕らえたのだった。しかも扇を持参しており、扇面には上皇へ、北条追討の院宣を願い出る旨が書かれていた。決まりのようだなと時政。義時も、頼家討伐を決意せざる得なかった。政子には、すべてが終わってから話すつもりでいた。
謀反だと言う義時と、それはなりませぬと止める泰時。時房は頼家の後ろに上皇がいる、このままでは大きな戦になるので、今のうちに火種を消すべきと泰時を諭す。院宣をお出しになるのかと問う泰時に、義時は、分からぬが、北条をお認めにはならぬだろうと口にする。上皇から見れば北条は一介の御家人であり、源氏を差し置いて他の武士に指図するのを許すはずもなかった。
上皇に文を出そう、言葉を尽くせばきっとと言う泰時を、義時は甘いと一喝する。頼家に死んでほしくないと泰時は言うが、それは義時も同じ思いだった。義時は言う。
「しかしこうなってしまった以上、他に道はない」
泰時は時房に窘められつつも、父上は間違っている、私は承服できないとその場を去る。修善寺に向かって、頼家に逃げるように言うと時房、しかし義時はそのまま放っておいた。
頼家に逃げてほしかったのかと尋ねる時房に、義時は違うと言う。息子にかつての自分を見出していたのである。その後義時は時房と善児の家へ行くが、善児もトウも不在だった。兄上に取って泰時は望みかと問う時房に、義時は、あいつの一途な思いが羨ましいと答える。ならば自分は兄上に取って何なのかと時房は尋ねるが、義時はそれについて考えたことはなかった。自分は泰時とは正反対の存在でありたいと言う時房。泰時が反対することは、何でも引き受けるつもりだった。
しかし義時は時房の言葉を聞く風でもなく、部屋の片隅にあった、宗時の遺品に目を泊める。善児も意を決したようだった。善児は自分が斬ると言う時房を、あれは必要な男だと義時は止め、私に善児が責められようかと自問自答する。そこへトウが戻って来る。
善児は薪割をしており、その側には小さな土饅頭があった。一幡の墓だった。そこへトウが義時を連れてやって来て、義時は善児に仕事だと言う。善児は無表情で返事をする。
泰時は修善寺へ行き、頼家にお逃げくださいと言う。逃げはせぬと答える頼家に、命を大事にするようにと懇願する泰時。生きてさえいれば道も開けると泰時は言うが、頼家は道などないと言い、最早覚悟を決めているようだった。最後の最後まで盾突くと言う頼家に、尚も逃げるよう勧める泰時だが、頼家はこれより京からやって来た猿楽が始まる、上皇様の肝いりだと言い、泰時にも観るように促す。
その頃義時は義盛を訪れていた。誰かと一緒に飲みたかったと言う義時に、なぜ自分なのかと尋ねる義盛。難しいことは考えずに、うまい酒が飲めそうだからと義時。義盛も難しいことは苦手だと言い、2人で笑うが、義盛の館には運慶が尋ねて来ていて、運慶はえにしであると言う。実は義盛も父親の勧めで、運慶に何体か仏像を作らせていた。都へ戻る前に、義盛は運慶にも酒を勧めていたのである。
運慶は、巴が峠道で拾った木像の修理をしていた。無論運慶は、普通はこういうことはしなかった。その仏像は、あるいは由緒があるのではと義盛は言うが、否定されてしまう。巴と義盛は客をもてなすための料理に取りかかる。運慶はその木像は、なかなか可愛い顔をされていると言う。
前に運慶に会ってから15年が経っていた。その義時に運慶は、悪い顔になったなと言う、色々あったからと答える義時に運慶は、まだ救いはある、お前の顔は悩んでいる顔だと言い、迷いがあるがその迷いは救いだ、悪い顔だがいい顔だとも言う。お前のためにいつか仏を彫ってやりたい、いい仏ができそうだと運慶は言い、義時は礼を述べる。
修善寺では猿楽が始まっていた。奏者はすべて顔を紙の面で隠していたが、1人指も口も動かさない笛吹きの男を泰時は見つける。また外へ出た鶴丸は、外に死体を見つけて中へ戻っていた。そして泰時は舞台へ上がって行って、その笛吹きに襲い掛かろうとする。面を取ったその男は善児で、泰時の襲撃をかわし、こう言った。
「あんたは殺すなと言われている」
トウもそこに現れる。そこへ鶴丸が走って来て、トウを阻もうとする。トウ、そして善児は抗う者たちをかわし、頼家は奥へと入る。善児が目ざす頼家は、屏風の陰に隠れていた。頼家と善児の攻防が繰り広げられるが、厨子の前に置かれていたはずの、「一幡」の名を記した紙が落ちているのが目に留まり、善児は隙を突かれる。
しかし頼家も手負いの状態だった。
「わしはまだ死なん」
そう言って善児にとどめを刺そうとする頼家を、背後から誰かが襲う。それはトウだった。トウがは今度は真正面からとどめの一撃を浴びせ、頼家は絶命する。
雨が降り出していた。動けずにいた泰時は何とか身を起こし、舞台の上の頼家の死体を見て号泣する。そこへ鶴丸も現れる。一方頼家から腹を刺された善児は、雨の中トウに最後の一撃を浴びせられる。トウに取って、善児は両親の仇だったのである。
正直言って、後半はやや疲れる展開でした。修善寺の頼家暗殺に加えて、運慶の話、義時の苦悩と泰時の反発、猿楽、そしてトウと善児の関係などなどを、20分余りの尺に盛り込んで来ているため、すんなりと頼家暗殺にたどり着けないもどかしさも感じられました。三谷さんも色々と入れたかったとは思いますが、1つか2つほど減らしてよかったかと思います。
では順番を追って見て行きます。三善康信が、源仲章の出現、そしてその仲章の和歌(この頃こういう呼び方はあったのでしょうか)の定義づけにたじたじとなり、転んでしまうシーンですが、これもまた三谷大河にありがちなコントシーンです。そして実衣は、仲章の意見をフォローするかのようです。彼らによって、後の実朝が作り上げられた感もあります。そう言えば実朝の「実」は、実衣の「実」でもありますね。
修善寺の頼家を政子とちえ、そして畠山重忠と足立遠元が訪れますが、頼家は政子とちえには会おうとしませんでした。政子は、今日は干しあわびを届けに来ただけと言いますが、結局会えぬまま今生の別れとなってしまったようです。その時頼家が、時政が武蔵守の座を狙っていると発言したことに加え、そしてその後、猿楽衆の1人が扇に書かれた密書を持って京へ向かっていたのが発覚したこともあり、ついに義時も頼家討伐を決断せざるを得なくなります。
泰時はこれに反対しますが、義時はその息子に甘いと言います。しかし泰時の姿は、かつての自分の姿でもありました。そんな義時に時房は、自分は泰時とは反対のやり方で兄を支えると言います。この後のことを考えるうえで、意味ありげなセリフです。そして義時は、善児に頼家暗殺を命じます。善児は猿楽衆の1人に変装し、修善寺を訪れます。この変装が泰時にばれてしまい、ひと騒動となるのですが、善児は泰時だけは助けるように言われていました。しかしこの猿楽衆に刺客が紛れ込むのは、『太平記』をイメージしてのことでしょうか。
そして突然と言うか、運慶がここに現れます。運慶は15年の歳月の中で、義時の顔つきが変わったと言いつつ、まだ迷いがある、悪いけれどいい顔だと言って、いつか仏を彫ってやりたいと言います。実際運慶は義時のために、薬師如来像と十二神将を作っています。
さて頼家暗殺。頼家も殺され、善児も殺されます。しかし善児が「一幡」の文字を見て、心が揺らいだかのように見える描き方は、ちょっと疑問です。実際一幡に対しては、愛情に近いものを持っていたとは思いますし、事前に一幡の墓が登場したのも、その心境を表すための伏線と言えます。ただここは難なく頼家を仕留め、その後で一幡の文字を見て気が緩み、待ち構えていたトウに殺されたという描写でもよかったかと思います。トウはやはりあの井戸端の少女であったようです。そして何回か前の投稿に、善児はトウに殺されるのではないかと書いたのが、図らずも当たってしまいました。
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