『武将ジャパン』「大河コラム」への疑問点ですが、本題に行く前に。
割と最近ですが、NHKBSプレミアムの『明鏡止水 ~武のKAMIWAZA~ 』という番組が再放送されており、弓術の日置(へき)流が紹介されていました。この日置流は室町時代に確立された弓術で、他に、鎌倉・室町、江戸の将軍家に、弓術や弓馬術、礼法を教授した小笠原流も登場しています。あと居合もありました。一応NHKのサイトに内容がアップされていますので、置いておきます。
「五の巻 弓馬の道・居合」
(NHK ONLINE)
武者さん、以前弓矢は源平合戦をピークに廃れたなどと書いていたことがありましたが、ところがどっこい、その後もちゃんと弓術は発展していたのです。こういうのをきちんと観ているのでしょうか。
では前半部分の疑問点です。
鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第19回「果たせぬ凱旋」 - BUSHOO!JAPAN(武将ジャパン)
1.これまでこの兄弟は、天才義経と、それに嫉妬する兄・頼朝という構図が多かったものです。
本作では、タイプが異なる天才同士の対決になっている。
2.ここで実務役の九条兼実が出てきました。
彼の衣装はフォーマルスーツですね。すごく真面目に仕事をしたい――そんな意思が見える人物ですね。
3.そりゃそうなんですよね。検非違使は京都の治安を守る。伊予守は伊予国を統治する。東京にいなければいけない警視総監が、愛媛県知事を兼任するようなもので、無茶苦茶なのです。
4.当時の貴族は、とにかく先例が大事であり、それを破らぬためにも日記を残しました。
そんな九条兼実からすれば、もう、ブラックな法皇に仕える羽目になって胃痛がたまらない日々なんですよ。
5.しかも、鎌倉には大江広元がいます。かつては兼実の部下であり、優秀だけど下級貴族で、いわば契約社員止まりだったような存在です。
1、これに関しては、前も書いたように昔の大河でも似たような描写のがあります。どちらかといえば、重厚な兄と軽い弟的解釈といった感じですが、ただし『義経』は多少違っています。こういう時に引き合いに出すためにも、DVDが出ている源平大河は観ておいてほしいし、10年ルールからは外すべきでしょうね、そう頻繁に作られるものでもないし。あと言っては何ですが、あまり頼朝に「天才」という印象は受けません。
2、フォーマルスーツとは衣冠のことでしょうか。真面目に仕事をしたいからと言うよりは、この時代のみならず、公卿であれば帝や上皇、法皇の御前ではこの服装なのですが。
3.その少し前に、義経は必ずしも伊予で暮らさなくてもよいと言っており、ならば「愛媛県知事」との比較はできないのではないかと。
4.日記の名前も書いてほしいところです。九条兼実は『玉葉』ですね。 本当はこちらもこの大河の原作として使ってほしかったです。あと胃痛がたまらないのは、この人の場合、宮廷政治特有の様々な事情もあったと思われます。
5.下級貴族と契約社員は、ちょっと違うのではないかと思いますが。
6.「ありがたきこと」とかなんとか言う知康。こういうプライドも何もない腹芸を、兼実ならできないでしょう。
7.すかさず義時が法皇の考えであり義経の意志ではない、断りきれないのだとフォローをするものの頼朝は取り付く島もありません。
「それが腹立つ! わしより法皇様を取るということだ。もう帰って来んでいい、顔も見たくないわ!」
8.政子は妻としてわかっています。夫・頼朝は、心の底では義経が愛おしくてたまらないのだと。
それをどうにかできるのは姉上だけだと、実衣はボソッとつぶやく。
政子は、それでも皆が頼みだと訴えます。彼女は周囲の協力を得ることが上手なんですね。きっと【承久の乱】でもこの力を見せることでしょう。
9.兄である源範頼はまだ壇ノ浦で宝剣を探していて、戻りがいつになるかわからない。無秩序な戦いを強行した義経に因果が祟っています。そもそも剣を落とさねばこうはならなかったのです。
10.(注・義朝の供養)それなら法皇もきっと許すと北条家の面々は納得。
しかし大事な点を見過ごしているかもしれません。相手の意表を突くと言う意味で、義経と法皇は似ている。法皇に、そんな人情は通用しないのです。
6.平知康はチーム後白河の一員なのですから、当然こう言うでしょうね。寧ろ
「法皇の側近らしく、抜け目なくありがたきことと言って、義経に有無を言わせない知康」
などと書いてあるのなら、まだ納得できますが。
7.これはあらすじと感想で書くべきだったかも知れませんが、頼朝は先を見据えているように見えながら、法皇が義経を取り込んで自分と対立させようとしているのに、なぜ気づかないのかと思います。本来フォローするのは義時ではなく、大江広元あたりかとも思いますし。
8.この場合周囲は身内なのですから、「周囲の協力を得ることが上手」と言うべきなのでしょうか。また彼女は御台所であり、よほどのことがない限り、周囲も協力してくるでしょう。
9.「剣を落とさねば」ではなく、「平家の女性が、剣と共に海中に身を投じるようなことをしなければ」ではないかと。 とはいえ帝と神器を擁した平家を相手にすれば、かなりの確率でこうなったかとは思いますが。あと範頼も、当然ですが命令を受けて剣を探しています。
10.相手の意表を突く云々、以前もこのコラムにこういう文章がありましたが、法皇と義経ではその突き方が違います。法皇の場合は、寧ろ相手を混乱させるとか、圧力をかけるといった感じではないでしょうか。ましてや義経が法皇のもとに取り込まれているのに、そうたやすくことが運ぶわけもありません。
11.広元も苦々しげに「法皇様に抗うのは難しい」と付け加える。
12.中世の女性たちは溜め込まない。女はいつでもそうだったのか?と言うと、そんなわけがありませんよね。
江戸時代や明治時代となると、妾に嫉妬しないことが賢いとされました。
『青天を衝け』では暗い顔のまま、ため息をついて妻妾同居を認めた主人公の妻・千代が「賢婦」の典型。そんなもの、現代で見習わなくてもよいのです。
13.この鞠を腋の下に挟んで脈を止めるテクニックは、推理ものでは古典的で定番です。
14.「本物かどうかわかりまへんて。急に見つかるなんておかしな話やもん」
「それもそうか!」
義経は納得してしまった。この二人はそっくりの気がする。
(中略)
彼女のこういう言い回しは苦手な人もいると思う。もっとしっとりと理解を示し、納得して欲しい。そんな頷き人形みたいなヒロインではないのが静。実に魅力あふれる女性ですね。
11.この広元のセリフ、些細なことではありますが、「法皇様に盾突くのは難しい」ですね。
12.武者さんまたこれを持ち出していますね。しかし中世の自由さ(あるいは原初的な部分)も、まだ近世のような家族というシステムが成立していなかったためで、その分不安定でもあったでしょう。
それにこの『青天を衝け』ですが、お千代は栄一にそれとなく圧をかけていますし、またくにも自分は妾だとわきまえていましたが。どうも武者さん的にはこう解釈しないと気が済まないようです。今後も何かにつけてこれを引き合いに出すのでしょう。
12.私が読んだのは江戸川乱歩の『影男』でした。こちらは毬ではなくゴム玉です。
14.この二人がそっくりと言うよりは、義経が一緒にいて安心できるのがこの静で、その意味で相性がいいのでしょう。里の方は家柄のつり合いはいいものの、ここまで行かないと思います。それと静はこの大河では「ヒロイン」ではないでしょう。寧ろ先日も書いたように彼女はリアリストであり、もっと言えば義経を行かせないための彼女なりの策だとは思いますし、こういう、自分に取って何が当座のメリットであるかを見抜くという点で、前出の知康も似たような部分があると思います。
あとこのシーン、「認知バイアス」を織り込んでいるようにも見えます。自分は行きたいと思っているのに行きたい、しかし静がそう言ったことで、何だそれもそうじゃないかと、自分のいい方、自分の行動を正当化する方向に持って行くわけですね。
スポンサーサイト