第35回。アメリカ元大統領の、ユリシーズ・グラントが来日することになります。栄一もあれこれ考えを巡らせ、お千代は上流層の夫人たちから作法を教わり、また彼女たちは着る物にも頭を悩ませます。これには岩崎弥太郎も動き、元大統領であるグラントに精一杯もてなしをしますが、グラントには最早、日本のために骨を折るだけの力はありませんでした。
その後グラントは、栄一の家を訪れたいと言い出し、栄一もお千代も新しい飛鳥山の邸宅を整え、日本風にしつらえた部屋で和食器で料理を振舞います。実はこの料理は煮ぼうとうだったのですが、濃い味付けがグラントのお気に召します。実はグラントは田舎の農場の出でした。グラントはアジアに於ける列強の支配のもと、日本が独立を保つのは大変だが、自分はそれを願うといい、相撲も気に入って、栄一と一番取ってみせます。その後上野公園での歓待も成功しました。
グラント離日後、政府が国力を高める中で三菱は政府の保護のもと、海運業を独占していました。北海道の開拓事業は終わって民間払下げとなり、さらに一方で自由民権運動が高まるようになります。そんな中、栄一はグラントのもてなしを仕切ったお千代の才覚に惚れ直していましたが、その頃コレラが流行の兆しを見せ始めていました。
第36回、三菱の一人勝ちが続く一方で、栄一たちは貧民の救済を考えます。栄一が院長を務める東京養育院でも財政難に陥っており、税金を充てるかどうかで暗礁に乗り上げていました。うた(歌子)にはかつての宇和島藩士の息子、穂積陳重との縁談が持ち上がり、両親のことを聞かれたうたは、両親とも働き者であること、母お千代は芝居好きであることなどを放して聞かせます。自分のことは聞かないのかと訝るうたに穂積は、あなたのことも聞きたい、そして自分のことも話したいと言い、その2人を栄一と千代が窓越しに見ていました。
一方藩閥政治糾弾の声が高まる中、薩長勢に取って邪魔者である大隈重信は下野するはめになります。そして薩長を叩く新聞の姿勢もエスカレートし、五代友厚も頭を抱えます。その五代は栄一にこう言います。
「おはんはおいに比べてずっと欲深か男じゃ」
そして五代は、岩崎と栄一がどこか似ていると言います。さらに栄一の風帆船会社は、三菱に対抗するべく他社を合併させることになり、また政府が援助することが決まりました。しかし下野した大隈は、三菱の支援で政党を作ろうとします。
その年の春、うたは穂積と結婚し、栄一は自分も汚い大人になった、若い2人が羨ましいと言いますが、お千代は、栄一は昔から攘夷活動をしたり、京へ行ったりと欲深かったと言われてしまいます。その頃渋沢家では、健康のため牛乳を飲むようになっていました。しかしお千代は病気になり、床に伏してしまいます。病名はコレラでした。これは周囲の知るところとなります。その頃喜作は、共同運輸会社の立ち上げのための会合に出席していました。行かねえでくれと言う栄一に。お千代は逆に生きてくれといい、世を去ります。明治15(1882)年のことでした。
明治に入ってから特に感じることですが、やはり栄一の実業家としての人生を描くには、かなり急ピッチであるかと思います。元々若い頃、たとえば攘夷活動とか円四郎に誘われて慶喜に仕えるとか、あるいはパリ行きなどをメインにしたかったのでしょう。その分実業家としての彼の人生の描写が、ちょっと物足りない印象も受けます。
人間関係なども、もう少し突っ込んでくれたらなとは思います。ただやはり近代物になると、あまり創作を入れられないということもあるでしょう。これは幕末も入っていますが、近代を舞台にして実在の人物を主人公にするのなら、大河でない方がいいのではないかと前にも書いていますし、その方がうまく行くと思います。
一方で、ユリシーズ・グラントが煮ぼうとうに感激してみせるシーン、元々田舎の農場の出であり、いわば「百姓」であることに栄一は気づきます。これでちょっと思い出すのが、織田信長が味の薄い京料理には顔をしかめ、田舎風の濃い味の料理を喜んだという話です。『国盗り物語』の原作にも登場するエピソードです。
それはともかく、その後の栄一は貧民対策に頭を悩ませる一方で、娘が結婚し、そして妻が病死します。娘うた’(歌子)の相手の穂積陳重、宇和島藩士の息子ですが、後の中央大学の創立者の一人でもあります。
ちなみにこの当時流行していたコレラ、流石にドラマの中では出て来ませんが、激しい下痢と嘔吐が続く病気です。そのため水分補給が必要になり、『JIN-仁-』でお馴染みのように、経口補水液や点滴による治療が行われます。仁先生が明治15年にタイムスリップしていれば、お千代も助かったのでしょうか。あと経口感染する病気なので、汚染された食物や水によって感染します。無論本来であれば、胃酸がコレラ菌を殺してしまうのですが、菌の一部が小腸に達してしまうと、コレラの発症となります。
スポンサーサイト