実に久々に『応天の門』です。武市丸関連で周囲が色めき立ち、その結果不思議な事件が立て続けに起こります。
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業平は例の不思議な少年、武市丸についての相談を道真に持ちかける。しかし道真は、牛車が燃えたくらいでと素っ気ない。業平はそれ以外にも事件が起こっていると話すが、道真は、それは検非違使の仕事だと切り返す。しかし武市丸自身も病にかかり、人死にまで出ている以上、業平も道真を頼らざるをえなかった。しかし道真は、自分が口を挟んでいい事件なのかと逆に尋ねる。
ともかく道真は、まず燃えた牛車を調べることにした。煤の中に油染みがあったことがわかり、道真が車の下を調べたところ、石を発見する。それは温石(おんじゃく)だった。元々は体を温めるのが目的の温石だが、それを使うような季節でもなく、また石は高温で焼かれたらしくひびが入っていた。すぐに火をつけるというよりは、その石の埋み火を利用して牛車を燃やしたと道真は考える。道真は業平に、その日の衣に焦げがないか確認するように勧める。
これで業平は、やはり武市丸に近づくなという、自分への警告のためだったことに気づく。さらにその後、牛車を止めていたそばに寝ていた宿無し者が、事件当日に現場近くで怪しい者を見ていたことがわかる。その者によれば、男は日野家の門の火事の後は姿を消しており、しかも汚い身なりをしていたものの、ヒゲをきれいに剃っていたらしい。素人の変装であると道真は見抜く。
その時業平の配下の者たちが、急にあちこちがかゆいと言い出した。道真は、それはたぶんノミだから、塩を溶いた湯で身体を洗った後、強い酒で拭くようにと言い、また具合が悪い時は、首の後ろを炙って温めるといいと教える。配下の者たちは、驚きながらも彼の言を受け入れる。そして汚い身なりのヒゲのない男というのは、橘治臣(おさおみ)と考えて間違いなかった。放火の原因は不明であるにせよ、病人がいるところにぼろを着て一晩いれば当然感染もするし、実際火を放った後帰ってから具合が悪くなり、亡くなったのである。
そして牛車を燃やした犯人は日野唯兼だった、唯兼は武市丸を愛しており、それを業平に奪われたことに腹を立てていたのである。屋敷の門が焼かれたこともあり、火災があったとしても、自分が疑われることはないと踏んでの犯行で、業平が諦めてくればそれでよしとしていたのである。これで万事解決かと思われたが、その時小雪の屋敷では、武市丸を一目見ようと大勢の者たちがつめかけていた。武市丸は何も口にしようとせず引きこもり、姉の小雪もなすすべがなかった。
ついに武市丸は群衆に向かって
「うるさい、色ボケジジイども!」
と一喝し、自分は文章生になるから引き取るようにと声を荒げる。
実は武市丸は声変わりを迎えており、そのため病と称して屋敷にいたのである。業平は、今回の件は周囲が勝手に殴り合ったようなものであるから気にしなくていいと言い、また武市丸は、最初は死のうと思ったが、自分の尻を狙う奴らのために死ぬなど、馬鹿らしくなってしまったと答える。声変わりを迎えたことで、自分でも強くなった気がすると武市丸は言い、その後も文が届くことはあったが、突っぱねているようだった。
そして業平は常行に、多美子のことについて尋ねる。その常行は多美子に会いに行くところだった。多美子は小雪の話を面白がり、会いたいというが、その多美子の枕に呪詛が縫い込められていたことがわかる。入内前の屋敷の床裏の人形共々、女官の玉枝の仕業らしかった。宮中で穢れは出せないため、多美子には、玉枝に縁談が来たという理由で里下りをさせたが、黒幕は「染殿」、常行に取って伯父に当たる良房のようだった。常行は最早内裏のしきたりはどうでもいい、多美子にあだなす者は自分が斬り捨てると決意する。
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事件の取り調べは検非違使の仕事であると一度は断り、その後調査に加わることになった道真ですが、相変わらず色恋沙汰も関心なく、例によって淡々と調査を行います。しかもノミに食われた時の治療方法を伝授したため、業平の配下の者たちは、学者らしいぞと噂します。というか、一種の変人扱いといった方が正しいかも知れません。
しかしこの武市丸を巡る事件、要は武市丸が愛しい周囲のおじさまたちが、勝手に互いを貶めようとしたその結果でした。当の武市丸に取っては迷惑な話で、幸い一連の事件も落ち着いたこと、さらに声変わりが始まったことから、自分も文章生として生き、役職につく道を選びます。
そして入内した多美子の身の回りに、またも怪しげな事件が起きます。入内前の床裏にも呪詛の人形があり、こちらは毒を盛った深雪という女の仕業と思われていましたが、実は玉枝という女官がやったことでした。
多美子はこれに関しては何も知らされず、別の女官が気を利かせて玉枝を里下りさせますが、この件の黒幕はどうやら基経の父、藤原良房のようです。異母兄で、この入内にも関与した常行は気が気ではありません。多美子に何かあった場合は、実力行使に出ることを考えます。
さてこの次の回ですが、久々に源融が登場します。
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