さて、浅倉緑郎に匹敵するもう1人の「悪人」、村木重雄の登場です。この第4話と第5話もセットで、それぞれ前編、後編的扱いになっています。
荒川の河川敷で若い女性の遺体が見つかる。その遺体の耳には、本来両方にあったはずのピアスが片方しかなかった。それは、13年前に都内で起きた、ある女性殺人事件にも共通するものだった。亀山薫は、その13年前の事件を担当し、今は退職して屋台を経営している佐古から渡される。佐古は、それを被害者の遺族から譲り受けたのだった。今度の事件は、その時のと何か関係があるのだろうか。
そして杉下と亀山は、イヤリングと違ってピアスは外れにくいこと、また、ピアスが片一方外れた女性の殺人は、全国でそれまでに10件起きていた。日本の場合は全国規模の捜査機関でなく、都道府県レベルの捜査であるため、犯人はそこを突いていて、あちこちの地域で似たような殺人を繰り返していたのだった。しかも同じ場所では事件は起きておらず、今回もたまたま荒川の河川敷で発見されたものの、元々は埼玉での殺人だった。
13年前の事件は、村木重雄という予備校講師が有力な容疑者だったが、証拠不十分で不起訴になっていた。村木の元を訪れた杉下と亀山は、そこで捜査一課と鉢合わせをし、しかも村木に自殺未遂までされてしまう。幸い事なきを得たが、そこへやって来た、経営コンサルタントをやっている妻の順子は、大声で夫を叱咤し、バッグで殴りつける。唖然とする一同の前で、村木は服従の体を示し、順子と共に去って行った。この奇妙な夫婦関係を目の当たりにした杉下は、村木が容疑者とされたのがトラウマとなり、診察を受けている精神科医の内田美咲の元を訪ねる。
内田によれば、村木夫妻の関係は支配と隷属と呼ばれるものであること、またこの事件の犯人は真面目で、出張や転勤など各地を飛び回る仕事をしていること、ピアスを片方だけ持ち去るのは、自分だけにわかる共通項であることを告げる。ピアスは元々魔よけのためであったが、それを外すことで、持ち主を征服した気分になれるのだという。ということは、持ち去ったピアスを妻に渡すことは、本来の夫婦関係の逆転があるのだろうか。また、順子の左耳は明らかに変形していた。
結局その後の調査で、村木は大手予備校の教師で全国を飛び回っており、講義の日程そして場所と、殺人事件の発生日時及び場所とがぴったり合致した。しかし遺体は高い所から川に投げ込まれており、交通事故で脚を負傷した村木には至難の業だった。しかも、村木はその後、捜査一課が家宅捜査に入った隙を見計らい、マンションの屋上から身を投げて自殺してしまう。
家宅捜査の末出てきたピアスは7つで、残る3件分の証拠品は見つからなかった。共犯者が順子であれば同じ場所から見つかるはずだから、他に犯人がいるとにらむ。しかも直近の件に関しては、埼玉で行われた殺人であるにも関わらず、荒川の河川敷で発見され、しかも被害者は東京の人間だった。犯人が被害者を埼玉の人間だと勘違いしたのは、彼女が埼玉のデートクラブで働いていたからだった。しかも、店長は女性客もあるから、犯人は男に限らないという。
そして村木の妻順子は、捜査一課の取り調べに楯突きながらも、事件当日はアリバイがあったこと、そして、内田の助手の青年の安斉と会っていたと話す。この2人は不倫関係にあった。そして杉下は、直近の3件はすべて、内田の講演が行われた場所で起こっていたことを突き止める。しかも杉下は、内田から村木が描いた不気味な絵を渡されていた。内田は、自分がこの絵に隠されたヒントを見逃していたと自分を責める。一方で、犯罪心理学者である彼女の論文には、どこか彼女自身が、悪に惹かれるのを示唆するものがあった。彼女はこの事件に絡んでいるのか?
しかし、被害者日高鮎子の最後の客は男だった。しかも内田は、安斉の部屋に儀式に使うような一隅が設けられていることを知る。彼は、村木の悪の継承者であることを自認していた。それに気づいた安斉は内田を人質に取り、屋上に出て杉下、亀山を前に、自分だけでも飛び降りようとするが、そこを亀山が体を張って阻止する。
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浅倉禄郎の殺人鬼ぶりとはまた違い、大手予備校教師という前職のせいか、真面目で気弱そうである一方で、カリスマ的、しかも妻に「隷属」しているという位置づけの村木の殺人は、どこか象徴的です。そして、わからないように違った場所で事件を起こしながらも、ピアスを持ち去るという共通項があるために、むしろ探られやすくなってしまったともいえるのですが、なぜそこまでしてピアスを持ち帰りたがったのか、そこには妻との関係がありました。しかも、自分がかかっている精神科医のアシスタントを、自分の悪の後継者として取り込む辺りはなかなか強かで、そのぶん浅倉のような「憐み」が与えられず、自分で自分を葬り去るような格好になったとも取れます。そして後継者である安斉もまた、気弱そうで真面目そうな人物というのが興味深いです。
ところで、この中で特に村木が口にする「ウィム・パティオール」とはラテン語で、「私は圧迫に耐える」の意味との由。しかし安斉の部屋の、儀式に使われるようなスペースは正直結構不気味ではあります。
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