『はたらく細胞』本編第6巻です。
<たんこぶ>
栄養分と酸素を届けに来た赤血球(AE5803)は、白血球1146の同僚である4989に出会う。4989は、ここのところ1146はトラブル続きだから落ち込んでいないかと尋ねるが、赤血球は、1146のことだからマッタリしているはずだと答える。その時体内に抗原が侵入してくる。その抗原の一見可愛らし気な雰囲気も何のその、1146は飛び掛かって行った。その時、1146の活躍を見ていた血小板がいた。帽子を後ろ前にかぶったこの血小板は、うしろまえちゃんと呼ばれていた。
うしろまえちゃんは重い物を持ってのトレーニング中で、自分が非力なばかりに皆の足を引っ張っていると嘆くが、そこに血小板たちの先生である巨芽球が現れ、次の出血までに鍛えておくようにと告げて去っていく。この血小板に、失敗続きだった頃の赤血球が重なる1146は、うしろまえちゃんのやる気は、他の皆にもいい影響を与えると励ます。その時頭部で大きな音と激しい揺れが起きた。傷口がないため、これはたんこぶであることがわかる。
ここは血小板の独壇場だった。うしろまえちゃんは一次凝集が苦手だったが、穴が大きく開いており、他の細胞が落ち込まないためにも、彼らは一丸となる必要があった。巨核球は彼らのモチベーションを上げるために、一番頑張った子にはよい子ちゃん金メダルをあげると約束する。うしろまえちゃんも凝固因子を落としつつも必死に頑張り、巨核球は数の少なさを技術でカバーした血小板たち全員に、メダルを贈ることにした。
<左方移動>
好酸球と1146は、細菌との戦いでかなりの傷を負い、救急部隊を待っていた。好酸球は、例によって無茶した1146をかばおうとしたのである。彼のこの癖は、骨髄球の時から変わらなかった。元々同じ骨髄芽球である彼らは、白血球(好中球)と好酸球に分化するが、まだ一人前の免疫細胞でない以上、自分たちがなすべきことを理解するのは難しく、先輩である桿状核球に会うことにする。
この先輩は不思議な人物で、ボートに寝そべって詩を読んでおり、後輩たちが訪れて話を聞きたいと言い出した際に、いきなり立ち上がって、ひっくり返ったりしていた。彼は繊細そうな人物で生死について考えたりしていたが、ある時、生きることは死ぬことと見つけたりなどと言い出し、その時の先輩は、幼い骨髄球たちにはとても強そうに見えた。しかしその後左方移動で、桿状核球たちが前線にやられることになった。戦死者も多く、その後好中性、好酸性いずれの桿状核球の中にもその先輩の姿はなかった。
1146も好酸球も、その先輩の影響を受け、生死について考えたり、詩を書いたりとあまり免疫細胞らしからぬことをやっていた。しかし彼らは互いに勘違いしていた。1146はその人を好酸性の桿状各球、好酸球は好中性の桿状各球だと思っていたのだが、実はその先輩こそ、時々現れては謎めいた言葉をつぶやく、あの好塩基球だったのである。好酸球が口にした「子どもの頃の弱さとあの人の弱さが似ていた」はお気に入りのようで、彼らの会話を今後の詩作のためにメモさせて貰ったと言い、2人をうろたえさせる。
<ips細胞>
赤血球は網膜の桿体細胞に酸素を届けるが、そこに現れたのは好気性細菌だった。1146のお蔭で難を逃れるが、その1146はこの身体が最近ケガが多く、視覚に異常をきたしているのではないかと考えていた。眼底で2人は桿体細胞に出会うが、眼底は荒れ、桿体細胞は酒に溺れて自暴自棄になっていた。桿体細胞を含めた視細胞全体に、不具合が生じていたのである。
本体桿体細胞は光刺激を受け取って信号に変え、それを脳に送ることでものが見える仕組みになっていた。しかし他の桿体細胞たちは働けなくなり、しかも脳では彼らの言い分を聞いてくれなかった。彼は最後の桿体細胞であり、その自分がいなくなればこの体は失明する運命にあった。その時、まだ未熟な細胞が飛び込んでくる。この若い細胞は自暴自棄な先輩をたしなめ、脳に伝えたいことを手紙にして、赤血球に届けて貰うようにように促す。
この未熟な細胞は、本来の自分の居場所はわからなかった。しばらくそこに留まることにしたが、先輩の桿体細胞は最期の時を迎えていた。脳細胞は手紙を受け取るが、網膜細胞は再生能力が低くなすすべがなかった。体の中は真っ暗になって行く。しかしその時、桿体細胞から脳細胞に連絡が入る。例の未熟な細胞が、仕事を代わりにこなしていたのである。この細胞は実はips細胞で、他にも彼の仲間が続々と網膜にやって来ていた。
桿体細胞は脳細胞に、この身体の細胞たちに希望を失わせたくなかったと話し、脳細胞もそれに同意した後、桿体細胞は死を迎えた。彼の仕事は、ips細胞たちに受け継がれたのである。
まず言いたいこととして。そもそも本編があり、そしてスピンオフがあるのが本来の姿ですが、この第6巻を見る限り、『はたらく細胞BLACK』の後追いをしているように見えてしまいます。 元々本来の『はたらく細胞』本編は第4巻までは本来の路線でしたが、第5巻は乳酸菌関連になり、この第6巻ではかなり様変わりしてしまった印象があります。
免疫細胞の働きという本来の姿勢から、最新の医学のPRといった形に変貌したと見るべきでしょうか。恐らく従来の路線を継承しているのは「左方移動」までで、「ips細胞」になると、味の素のips細胞培養装置の名が登場しているため、味の素が提供する形になっています。
また「たんこぶ」はともかくとして、「左方移動」になると、これは白血球1146と好酸球の思い出話になってしまっていて、具体的な左方移動の様子が描かれていません。これはちょっとまずいのではないかと思います。
確かに左方移動(左方推移)は、感染症などで大人の白血球(分葉核球)が足りない時に、一時的に若い桿状核球が動員されて、血液中にその数が増えることを指しますが、これはどちらかといえば、正にその桿状核球が主人公の『はたらく細胞WHITE』第1巻の方が詳しく、わかりやすいです。 恐らくこの2つは大体同じ時期に発表されたのではないでしょうか。
「たんこぶ」には血小板たちの先生である巨核球が登場しますが、『はたらく細胞BLACK』第8巻にもやはり巨核球が登場することから、あるいはこちらもほぼ同じ時期に発表されたのではないかと思われます。
そして「ips細胞」。
実は、これこそ『はたらく細胞BLACK』でやってほしかったと思います。
細胞たちが働けなくなる、体の中が真っ暗になる、脳細胞がなかなか訴えを聞いてくれない。これらはすべて、BLACKのランゲルハンス島のβ細胞、血栓、薬の大量投与による赤血球の直訴を彷彿とさせるものであり、それゆえ何か後追いのようにも見えてしまうのです。事態のシリアスさからしても、この体(*)の持ち主と直接関係がある点を考えても、寧ろあちらの方がふさわしかったのではないでしょうか。
*本編では「体」となっていますが、BLACKでは「身体」ですね。
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