この回は、ちょうど先日書いた「
頭でっかちの殺人 」の1つ前の回でした。囲碁の棋士である小田嶋佐吉が、妻で女流棋士のさくらから懐中電灯で撲殺され、電話連絡をしようとした直前に死亡したものの、さくらはその時間帯に、テレビ番組の打ち合わせで出かけていたこと、しかも家にいる夫佐吉から電話がかかって来たことなどから、アリバイがあるとみなされます。しかし例によって古畑は、その1つ1つを崩して行きます。
特にこの小田嶋さくらは、夫からだらしがないとしばしば叱られており、それが殺人の一因であったといえますが、正直いって彼女のアリバイ作りと証拠隠蔽工作は、衝動的な殺人ということもあって、かなり隙だらけでした。彼女の言に従えば、佐吉は電気がつかない暗闇の中で麻婆豆腐を作っていたことになり、また整理整頓好きの佐吉にはありえないような、ラー油の瓶の蓋の緩みがあることに加え、さくらが2階の寝室に、コーヒーをカップ3杯分も持って上がっていること、しかも、夫の遺体につまずいたはずに、卵を落としてできたしみの位置がおかしいことなどなど。
この麻婆豆腐は結局古畑が食べようとしますが、ラー油の瓶を中に落としてしまい、結局食べることはできませんでした。ちなみに古畑任三郎関連のあるサイトによれば、妻が夫を殺した後に外出してアリバイを作り、帰宅後通報して、自分の手作りの食事をふるまうというのは、ロアルド・ダールの『おとなしい凶器』の引用であると指摘されています。
そしてさくらもいつまでも隠せないことを悟り、自分の犯行を認めます。しかし、この事件にはもう1つ不思議なことがありました。それは、小田嶋家の猫がまるっきり餌を食べようとしないことでした。実はさくらは、猫の目の前で殺人を犯したわけなので、何かそれが影響しているのかと、TVを観ている側としては思うわけですが、実はさにあらず…でした。餌を食べなかったのは、その日に限って2回分の餌を与えられていたからなのです。
これは、古畑が燃えないごみをチェックした時点で判明しました。1つはきれいに洗い上げられたキャットフードの缶で、これはきれい好きな夫佐吉が捨てたものでした。それとは別に、まだ餌の一部が残っている空き缶も見つかり、これはさくらがあげた2度目の餌でした。この2つを並べた古畑が、「1つはきれいに洗ってあり、もう1つは…」と両者を比較するところは、やはり三谷幸喜氏が脚本の、パペットホームズのホームズが、「最初の冒険」でゆで卵の殻の剥き方を比較して、「1つはきれいに剥いてあるが、もう1つは雑だ」という場面を思い起こさせます。
しかしこの中の猫の表情、これがまた実にいいです。『古畑任三郎』には時折猫が登場しますが、この回も猫好きの方にはお勧めかもしれません。
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