昨日あらすじをご紹介した、「聖女の救済」の続きです。実は私、これはリアルタイムで観ていて、北海道の風景がやけに印象に残っている割には、肝心の夫殺しに至るまでの伏線がもう1つぴんと来ず、結局DVDのお世話になりました。ここで思うのは、なぜ真柴彩音が1年という猶予期間を設けて、その間夫を監視し続けるという、湯川の言葉によれば「意志の強さ」を感じさせる、ある意味しんどそうな行動に出たかです。
1年経ったら妊娠するかもわからない、あるいは、夫がもう子供はいいよというかもしれない。だから待ったのだといえるかもしれません。しかし前者の方は、綾音が避妊をしていたという時点でアウトです。後者は、綾音がドラマで口にしていましたが、彼女もどのくらい本気でこれを信じていたのかは不明です。いずれにしても真柴義孝は、子供の頃に両親を亡くした以上、自分の家族というものを求めており、子供ができなければ即離婚の可能性は高かったと思われます。
結局綾音の行動は、何か夫に乱暴された、あるいは自分のお金や資産を奪われたための復讐ではありませんでした。夫の義孝は、結婚前に津久井潤子という女性と付き合っており、その潤子が綾音を流産させるわけで、いわば子供が生まれると「いう希望を、夫の前の恋人に覆され、なおかつ夫は子供をほしがり、1年経ってできなければ離婚だとまでいう。その一連の行為への復讐とも取れますが、既に潤子はその1年前に静岡の実家で自殺しています。しかも、夫が潤子をそそのかして流産させたというわけでもなさそうです。
つまるところ綾音にとって、夫がいなくなればその時点ですべては完結し、その後自分が逮捕されても特に構わなかった、そのようにも考えられます。これはやはり同じ第2シリーズの「演技(えんじ)る」の女優、上原敦子が、殺人やそれによる収監さえも自分の演技に利用しようとしたのに似ていますが、ただ綾音にはそこまでの欲はありませんでした。浄水器を通したヒ素入りの水をバラに与えることは、岸谷美砂にいわせれば証拠隠滅ですが、見方を変えれば、わざわざヒ素の残った水をバラにやり、バラを枯れさせて土にヒ素を残すことで、大きな証拠を残したともいえるのです。恐竜の化石の「土」とも共通するものがあります。
また、タペストリーも大きな伏線です。義孝、綾音がそれぞれ離婚、毒殺という目的に向けて定めたタイムリミットは1年であり、それに向けてのカウントダウン的な意味合いがあるのが、このタペストリーだからです。製作に1年かかるということは、綾音はこれをXデーまでの時間稼ぎに利用していたと同時に、常に居間に陣取ることで、夫の動きを監視し、夫がキッチンへ入ろうとするのを暗黙のうちに阻止していました。また湯川がこの事件を解こうとして、壁に方程式を書き連ねるものの、今回は解けなかった。その壁が、タペストリーの裏の部分というのも暗示的です。
湯川といえば、この事件には物理が関係しないと冒頭で口にしていたように、どこか彼の得意分野でないがゆえの歯切れの悪さ、いつもの切れのなさがこの回では描かれていて、その意味で視聴者が様々に突っ込める回のようにも感じられました。結局北海道の、かつて通っていた中学で再会した時に、湯川は自分の仮説を話し、東京の岸谷には、その仮説を手紙にして研究室に置いておきます。検証はできなかったものの、綾音がその仮説を認め、後に自白したことで、湯川の仮説は裏付けられたことになります。またこの時初めて、湯川は転校生でこの中学で理科に興味を持ち、高校に入る時点で東京に戻ったことが明かされています。風変わりかどうかはともかく、理科が好きな転校生というと、どうも『古畑中学生』を思い出してしまいます。
そして、インターフォンのセンサーカメラに映っていた紫の水玉傘の女性、宗教の勧誘に来た女性ですが、彼女が録画されたことにより、さらに綾音のアリバイが裏付けられることになりました。結局彼女もさほどに関連はなかったわけで、いわば綾音のアリバイのために登場した感もありますが、その後の場面で、岸谷の先輩の太田川が、この傘と似たような柄のネクタイをしていたのには笑ってしまいました。しかし湯川が子供たちに、ポットのお湯の不思議さを伝えられても、なぜそうなるのかを噛み砕けなかったのは、やはり彼らしいというべきでしょう。それと冒頭で、バドミントン大会の景品であるコーヒーメーカーでコーヒーを淹れつつも、「コーヒーメーカーではインスタントコーヒーの味が出せない」などというところも、また「らしい」です。
最後の部分、落雷に関する話で幕引きとなりますが、そういえばこの前後編の間に放送された「内海薫最後の事件」も最後の場面は雷で、それが第2シリーズ第1話「幻惑(まどわ)す」へとつながって行くことになります。第2シリーズは雷に始まり、雷に終わったというべきでしょう。
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