先日「『河童』に関して思うこと」という投稿をしています。この中で河童が白樺の幹に手を回していたと思われる表現を、なぜか枝を集めていると書いていました。訂正しています。
ところでこの小説が風刺小説という点に関して、どこか違うように思うとも書いています。無論これが書かれた時代の観点からすれば、そのように考えられたとしても不思議ではないでしょう。ただ個人的には、無論書かれた時代も違えば、小説と漫画という点でも異なりはしますが、たとえば『ブラック・ジャック』などの方がかなり風刺的な印象を受けます。それとは別に、『若きウェルテルの悩み』をパロディ化し、冷戦下の東ドイツの青年が、思い切りこの作品をディスる『若きウェルテルの新たな悩み』という小説がありますが、それをもちょっと思い起こさせます。
そこで考えたのですが、この小説の中に登場する、昭和2年当時の様々なことを、解読してみると面白いかもしれないと思い、今後はそのような形でこの作品に関して投稿して行くことにします。登山に関しては既に前の投稿でご紹介していますので、その後の箇所に登場する、これはと思った点を次々挙げて行くことになりそうです。
尚私の場合引用元はネット上の青空文庫ですので、解説が付けられていません。そのため、この解読はすべて私の独断によるものであることをお断りしておきます。また他ジャンルの作品との絡み、比較もしています。
たとえば、冒頭で主人公(精神病患者第二十三号)が、S精神病院に入っていて、院長はS博士だとあります。イニシャルに加えて、東京市外とあることも併せて考えると、恐らく東京府巣鴨病院(現・都立松沢病院)であり、院長は榊俶(さかき はじめ)ではないかとも思われます。(巣鴨はこの作品発表時は東京府下ではあるが市内ではない)ただしこの作品が書かれた当時は松沢病院となっており、院長は呉秀三でした。
そして主人公がなぜ河童を捕まえようとしたかはともかく、追い回しているうちに何か穴のような物に落ちてしまいます。そこで気を失っていたのを助けられ、医者のチャックの家に連れて行かれるのですが、こういう異次元世界への瞬間移動というのが、かの『JIN-仁-』をちょっと思い出させます。尤もあれはタイムスリップではありますが、それはともかく。担架で主人公が運ばれたというのは、この当時救急車が存在しなかったのも一因でしょうし、何よりも主人公に河童の世界の街を見せるという目的があったかと思います。
それからチャックが透明な水薬を飲ませたとありますが、主人公が身動きもできないほど節々が痛んでいたということから察すると、消炎もしくは鎮痛効果があるものなのでしょうか。河童の薬というのもありますが、これはどうも膏薬のイメージが強いです。ちなみに石田散薬は河童が教えたと言われているようです。
この水薬が具体的に何であるのかはわかりませんが、実際、今でも水薬(液剤)で、鎮痛効果がある物は存在します。痛み止めを液剤にして、小型のボトルやプラスチックのアンプル様の物に入れた物で、透明な液剤としては、ロキソプロフェンナトリウム内服液(ジェネリック)などが挙げられます。もちろんこの当時はこの薬は存在しませんが。
後『水虎考略』というのも出て来ますが、これは江戸時代末期に編纂された河童の研究書です。ちなみにこの10年ほど後に、かのアマビエが瓦版に登場しています。
その後の、河童の体つきやサイズに関する記述ですが、長さはメートル法、体重はヤード・ポンド法で表記されていますので、いささかわかりづらくはあります。身長は1メートル前後、体重は10ポンドから20ポンドとありますが、20ポンドは大体10キロ弱です。さらに気温の表示が華氏で、ここで出て来る平均気温華氏50度は摂氏10度です。なのに着物を着ることをしないのは、河童が皮下脂肪が分厚いからだろうと書かれています。逆に主人公が服を着ている、特に恥部を隠しているのを河童に笑われる始末です。
この少し後に、主人公が万年筆を河童に盗まれてしまいます。万年筆といえば、余談ながら思い出すのが、今回の『半沢直樹』です。第1シリーズのネジを思わせますが、ああいうクラシックな形の万年筆を出してくるというのは、どのような意図があるのでしょうか。
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