1週間前に大河枠特番で『国盗り物語』の名場面が紹介され、その時明智光秀を演じた近藤正臣さんがゲスト出演していました。その近藤さん、実は『相棒』にも、かつての中学教師の役で出演しています。
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裏DVDの摘発の帰り、杉下は同窓会に向かう元中学教師の岩田から、吉村という元教え子に間違えられる。その吉村はその日欠席しており、また杉下とは外見もかなり異なっていたが、杉下は吉村になりすまして会場の料亭「松乃郷」に向かい、同行の甲斐を隣室で待たせて会に出席する。岩田は40年前に廃校になった中学の教師で、写真部の顧問をしていた。その場で辻という男が何度か話を切り出そうとするが、岩田にはぐらかされてしまっていた。やがて一同が岩田にプレゼントを渡し、本物の吉村が玄関先に置いて言ったと思しき紙袋を、吉村となっていた杉下も手に取る。
しかし中をのぞいたところ、手製の爆弾があるのに気づいた杉下は、甲斐と共に客や従業員を避難させ、甲斐に爆発物処理班に連絡を取らせた。その時仲居の文恵が戻って来て、ことの次第を聞いて驚く。また心臓に持病を抱えている辻と、この騒ぎで体調を崩した岩田は病院に搬送された。他の者たちは取り調べに応じた。文恵は例の紙袋を仲川に渡したと話す。またかつての生徒たちのうち、この同窓会を計画したのは弁護士の仲川で、2月5日ごろに同窓会の通知を出していた。
杉下右京(向かって右から2人目)に声を掛ける岩田(同3人目)
(テレビ朝日公式サイトより)
杉下たちは、辻の鞄から新聞の切り抜きを見つけた。それは俳句の投稿欄で、姫小百合というペンネームの投稿が掲載されていた。杉下は、同窓会で見た昔のアルバムに姫小百合の写真があったのに気づき、甲斐と2人で、終活と称して荷物の整理をしている岩田の家を訪ねる。2人は警官であることをあかし、例の切り抜きを見せる。「姫小百合」の歌にはこう詠まれていた。
在りし君思いて山を見上ぐればつゆ遥かなる夏ぞ忘れぬ
辻がこれを持っていたことと姫小百合の写真から、この「君」は副顧問で、廃校の年の夏に、生徒を連れて山に撮影旅行に行った間宮ではないかと尋ねる。一方岩田は別のグループと海へ行っていた。しかし岩田はそれには答えず、間宮は美人で高嶺の花だったと話す。その傍らには、貰い物らしい菓子があった。この短歌の掲載は2月3日付の新聞で、その2日後に同窓会の知らせが行ったことに釈然としない杉下は、仲川の事務所を訪ね、辻について尋ねる。しかし仲川は選挙準備を理由に2人を追い返そうとすし、岩田と間宮の関係について訊かれても知らぬ顔をする。
甲斐は親子三代で山岳救助隊をしている家から資料を借りて来る。その中には中学のアルバムもあり、間宮は確かに美人で生徒の憧れになりうる教師だった。その後2人は再び仲川、そして同じく同窓の遠山に会う。仲川は渋るが、遠山は間宮を心配させてやろうと、辻と自分とで、仲川が崖の方に行ったと伝えたことを話す。間宮はそこで崖から落ち、帰らぬ人となっていたが、中学生だった彼らはそれを打ち明ける勇気がなかった。
しかも辻はそのことを岩田に話し、岩田も辻を許していた。遠山が事件後その話をしなかったのは、岩田自身が爆弾犯の可能性もあるからだった。杉下と甲斐は再び岩田を訪ねて問いただすが、岩田はその質問には答えず、裏の物置のスコップを取りに行かせる。その時置かれていた化学肥料に杉下は目を留める。その成分は爆弾の成分とほぼ一致していた。しかし同窓会に出ていたのは、山に行った生徒たちだけでなく、岩田自身が引率して海に撮影旅行に行った生徒もいた。生徒思いの岩田が、真犯人を庇おうと、自分に目を向けさせているのではないかと杉下は疑う。
一方仕事が忙しいと欠席した吉村は、実は失業中でその日は家にいた。吉村も取り調べを受け、仲川の気持ちもわかると言って、辻と言い争いになったこと、さらに失業後は岩田の家に頻繁に通っていたことがわかる。その後捜査一課と杉下、甲斐は仲川が客を待っていた松乃郷に行く。これがばれたら弁護士の信用問題にかかわると言う仲川だが、伊丹は自作自演を疑う。そして仲川も、ついにある人物から助言を受けて同窓会を開いたと打ち明けるが、しかし誰であるかについては言葉を濁した。
杉下たちは羊羹を持って磐田の家を訪れる。菓子から話題を吉村に移し、最近会っていたにもかかわらず、杉下を吉村と間違えて同窓会に引っ張り込んだこと、辻の話を遮ったことは如何にも不自然だったことをほのめかすが、岩田は気分がよくない風を装って2人を引き取らせる。しかし岩田の家の玄関先にあった同窓会通知に、2人は不信感を抱く。そして彼らは、例の料亭の仲居の文恵が住むマンションを訪れた。文恵は自分が疑われていることに気づく。
同窓会のあて名の字は、かつて彼女がホワイトボードに仲川の名を書いていた時と同じ筆跡だった。また投函されたのは仲川の事務所の近くではなく、文恵の部屋がある浦和だった。それに加えて杉下は、仲川が常連客であるにも関わらず、取り調べの際、文恵が仲川のことをただ幹事さんと言ったことも気になっていた。文恵はならば確かめてみるように言い、杉下は仲川の携帯に電話をする。すると着信音がすぐ近くから聞こえて来た。文恵は訪ねて来た仲川の後頭部を殴って、隣の部屋の押し入れに隠していたのである。幸い仲川はまだ息があった。
文恵は仲川と不倫関係にあり、結婚の約束をしていたにもかかわらず、自らのイメージダウンを恐れる仲川と対立していた。そして同窓会の計画を吹き込み、吉村の名を使って、自分で作った爆弾を会場に持ち込むようにさせたのだった。爆弾の材料も作り方も、文恵はネットから情報を得ており、しかもこのような事態を引き起こしたことに、さして悪気もなさそうだった。杉下と甲斐はまたも岩田を訪れ、辻の回復状況を伝えると同時に、姫小百合の写真について話を切り出す。
岩田はかつて間宮に本心を打ち明け、その時姫小百合を渡していた。しかしその後間宮は見合いをし、断ったにもかかわらず2人の関係はぎくしゃくしていた。それが修復されないまま間宮は帰らぬ人となり、岩田は間宮のカメラのフィルムを現像して、姫小百合が撮影されていたのに気づく。間宮はそれを岩田に渡し、仲直りするつもりだったのだ。しかも間宮は、その姫小百合を遷していて足をすべらせたのだった。岩田は辻もこのことで悩んでいたことから、本当は自分が悪いのだと言おうとして言うことができず、良心の呵責を覚えて涙する。杉下は言う。
「真実を話すには、今からでも遅くはないと思いますよ」
その後花の里で、幸子が秘密にも色々あると言うが、甲斐は杉下には秘密が多い、私生活が見えないからと口を出す。そして一度家へ行ってみようと言うものの、わざわざ来なくていいと杉下から一蹴される。
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杉下が岩田という元中学教師から、吉村なる人物と間違われて同窓会に出席します。しかし岩田はそのことは承知済みで、逆に吉村の不在を逆手に取ったともいえます。教え子たちは表面上はにこやかでしたが、かつての写真部副顧問間宮の死を巡って確執が生じていました。磐田は爆弾を仕掛けたのが教え子の関係者であること、交際していた間宮の不慮の死は、自分たちに責任があると考えている教え子がいることなども知っており、だからこそ彼らでなく自分に目を行かせるようにしたとも言えます。教え子のことを何度も口にすることから、生徒思いの一面が窺えますが、一方で、間宮に嘘をついた3人のうち1人が真犯人かと思わせる設定にもなっています。
しかしこの事件の犯人は、仲居の文恵でした。不倫相手の仲川が約束を果たさなかったこと、さらにその仲川が、かつての事件を巡って、自分の信用に傷がつくことを恐れていることに目をつけ、同窓会の計画を持ち込みます。手製爆弾を持ち込んだのも無論文恵で、しかも同窓会が開かれている時は、自分に被害が及ばないよう外出していました。彼女にしてみれば、仲川もその仲間も恩師もどうでもいい存在でした。しかし筆跡や、常連客の仲川の呼び方などから、杉下が疑惑の目を向けることになります。それにしても、なぜ通知があそこにそのまま置かれていたのか、岩田がそのことを暗に知らせようとしていたのでしょうか。
爆弾も未遂で終わり、誰かが派手な殺され方をしたわけでもない反面、結構込み入っていて、しかも心理面が描かれたエピソードです。杉下と甲斐が頻繁に岩田を訪れるのも、相手にプレッシャーをかけるのが狙いのようですが、最後でそれが一転し、岩田自身が涙を流しながらすべてを告白するに至ります。ちなみに爆弾の材料を購入し、ネットで作り方を探すというのは、あの「ミス・グリーンの秘密」と似ています。こちらは、妹を殺された復讐にミス・グリーンこと二宮緑が仕組んだことです。
尚この姫小百合なる花ですが、オトメユリともいい、東北地方など限られた地域にしか生息せず、環境省のレッドリストにも入っていて、なかなか貴重な植物といえます。岩田に取っての間宮も、そういう実に貴重な存在だったのでしょう。
ところで「松乃郷」なる名前、「花の里」をもじっているようですね。
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