かなりさぼってしまいましたが、『応天の門』続きです。己の才をどのように使うかで道真は悩みます。そして業平が通う女の家でちょっとした事件が起こり、是則が相談にやって来ます。
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業平の従者是則がもちかけた相談事とは、業平が通っている女の家の出来事だった。この手のことに興味がない道真は、さして乗り気のしないまま話を聞くが、その家で牛車を止めていると、必ずと言っていいほど牛が眠り込んでしまうと是則は言う。おかげで業平の滞在も長くなりがちだった。道真は誰も困っていないようだからと帰りかけるが、是則によると、その女は以前自分が付き合っていた相手だった。
道真は最早どうでもよかったのだが、是則は、世の中の不思議なことには仕組みがあると言ったこと、この裏にも何かあるのではないかと言うことから、道真への相談を決意したのだった。道真は仕方なく是則の頼みを引き受けるが、どう考えても主業平より家来の是則の方が、この手のことに理解があるようだった。
その女の家に向かった道真は、植えてあるのが薬草ばかりであることに気づく。そのせいか牛には飼葉が別に与えられており、是則が持って来たその中には紫陽花の葉が刻んで混ぜられていた。この植物は牛馬には有毒であり、故意に混ぜたのではないかと是則に話していたところ、業平が姿を現す。
事情を聞いた業平は、あろうことか是則の以前の女と知りながら通っていた。実は是則もその家で酔いつぶれたことがあり、業平は彼女を怒らせないよう穏便に姿をくらますことにする。業平は道真の試についても尋ねた。この試は知識量を試されるだけの形式的なもので、業平もその在り方に首をかしげる。一方で是則は、道真に密かに礼を言った。
さて試の結果発表の当日、道真と長谷雄は有兼が荷物を背負って出て行くのを目にする。有兼は「ただあなたが羨ましい」と言って出て行き、そして2人とも結果は不合格だった。橘広相は有兼が、自ら不正をしたと申し出て去ったことを伝える。
一方道真は、自分が不合格なのは贔屓と思われたくないが故の判断と言うが、要はただの実力不足であり、書かれていたのは書にある知識だけで、己で得た答えではないと一喝される。確かに菅原是善の子ともなれば、おのずと基準が厳しくなることもあるが、まだこの点では若さゆえの弱み、世間知らずが出てしまっていた。
道真は今まで出会った人々に言われたことを思い返し、さらにこれからまだ伸びると言われたことから、踵を返して大学寮を出ようとする。講義が始まるぞとの忠告にもかかわらず、道真はこう言った。
「学びに」
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この第8巻は、大学寮中心で物語が進み、道真は自分の才を如何に使うかで悩むことになります。実際業平も、学問よりもお前とやっていることの方が面白いと言っていたのに加え、暦の件で会った陰陽頭家原郷好からは、才とは機に恵まれるものと言われたこと、さらに、その偽の暦を作った古川幹麻呂の「お前には何でもできるだろうよ」というセリフなどなどが彼の脳裏をよぎります。このようないきさつから、道真は、学問とは何のためにあるのか、自分には何が足りないのか、考えを巡らせます。
その一方で、都では伎女の舞師の妖艶さが人々の話題となります。そして菅原家の別荘がある長岡では、美しく怪しげな尼僧が現れます。どちらも何やらいわく付きのようです。
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