ベースは地方の旧家を舞台にした横溝正史風、それにイギリスのミステリー風味を加えた、伏線の多い展開なので、何度かに分けて書こうと思います。まずはあらすじからです。
物語は昭和30年(1955年)12月23日に遡る。富士山を見上げる早蕨村(さわらびむら)の、こじんまりとした、しかしその実かなり贅を凝らしたホテルから、セーラー服を着た2人の少女が森へと出かけて行った。1人は、この早蕨ホテルに宿泊中の、橘元子爵の娘瑠璃子、もう1人はホテルの経営者の、二百郷(におごう)洋蔵の娘・朋子だった。しかし散策目的の森の中で、瑠璃子は不意に姿をくらませてしまった。
それから57年が経過した、平成24年(2012年)の12月24日、雪の舞うロンドンの邸宅で、75歳の朋子が他界した。臨終に立ち合った弁護士、石川は、かつてスコットランドヤードで研修をしていた杉下右京にそのことを伝える。朋子の最期の言葉「ヒナギクじゃなかった。茜が危ない。あの子を助けて」というのが気になるというのだ。朋子は茜の大おばだった、茜は両親が既におらず、二百郷家の主として、かつての早蕨村の屋敷で、柴田久造と宮島加代の使用人2人と共に生活をしていた。杉下は、プライベートな知り合いということで、甲斐亨と共に二百郷家に向かったが、屋敷は空き巣騒ぎの最中だった。
茜が話すところによると、瑠璃子が「神隠し」に遭った日の夜に、ホテルは火事で焼けてしまっていた。朋子はかろうじて一命を取り留めたが、両親は焼死し、更に同じ日に友人もいなくなるという災厄の日となった。この日は一体何があったのか。村の郷土資料館にある宿泊客の名簿を調べていた杉下は、ある人物が偽名で宿泊していたことを突き止める。さらに、そのホテルの常連だった永沢元子爵の備忘録によれば、その人物はとある警察官僚に瓜二つの人物だった。
朋子の予言通り、空き巣以外にも二百郷家、特に茜の周辺で奇妙なことが起こる。杉下と甲斐が事件解明を進めて行く中で入手したスクラップブック、それを狙っている人物がいた。それは、離れた空家に住んでいる自称ライターの男、遠野弘明が持っていたものだった。他にも、茜が今関わっている養蜂の箱が荒らされており、そして何よりも、茜と使用人たちも何かを隠している雰囲気だった。また、村人たちにいわせると、二百郷家は華族の財宝を預かっており、それをこっそり売りさばいている「泥棒」であるともいわれていた。
そんな折、山岸昭和文化記念館の職員、佐武が殺される、その日は仕事納めの日だった。この記念館には、昭和時代の文献が多く展示されており、犯人は明らかにその中の特定の文献、永沢元子爵の備忘録を狙っていた。盗まれた備忘録のデータベースを見た杉下は、永沢元子爵と縁続きと思われるある人物が怪しいと睨み、その後、旧華族関係の便覧で再確認を行うが、実は茜も同じことを考えていた。
その一方で、「出店」と呼ばれる、警察庁が密かに所有していると思われる公安部隊もまた、この二百郷家に狙いをつけていた。彼らの目的は「国枝文書」で、これは戦後、新警察法に基づく警察庁が作られた際の様々な画策、表に出ない話を、警察官僚の国枝史貴がまとめた、いわば内部告発文書であった。このため「出店」は二百郷家のみならず、出入りする遠野の服にも盗聴器を仕掛け、絶えず盗聴を行っていて、文書のありかを掴もうとしていた。また、警察庁長官の父からこの件について連絡をもらった甲斐は、頑なにそれを拒否する。
しばらくして、二百郷家から次々と盗聴器が発見された。このため、杉下と甲斐が茜から聞き出した、手掛かりになるような話もすべて筒抜けになっていた。また、茶の中に有害物質が入っており、当時家にいた者がすべて病院に行ったことから、家には茜と訪ねて来た遠野だけになってしまう。外に出ていた杉下と甲斐が戻ったところ、遠野は茜を人質にし、財宝の隠し場所を教えるよう2人に迫る。
鍵は瑠璃子のスクラップブックにある、『不思議の国のアリス』のお茶会のイラスト、そして空き巣に会った部屋の柱時計にあった。杉下はそこで、遠野は実は永沢元子爵の孫の公彦であること、彼も備忘録の閲覧者の1人であったことを明かす。そして、遠野=永沢の服に盗聴器を仕掛けていた「出店」もそこにやって来て、国枝文書のありかを探そうとする。しかしそこに新たな人影が現れた。山岸昭和文化記念館の職員殺しで、犯人を追っていた警視庁の捜査一課の3人の刑事、伊丹、三浦、芹沢だった。
結局遠野=永沢は逮捕され、「出店」もその役割を終えた。そして肝心の国枝文書は、カビのせいでぼろぼろになっていて、とても読めるような状態ではなかった。その後杉下と甲斐は、ホテルのポーターであった柴田久造が、「神隠し」に関わっていたのを明らかにする。柴田はあの事件の前日、瑠璃子と二百郷洋蔵が相次いで隠し場所を訪れていたのを目にしていた。この時期、ホテルは左前になっており、柴田は洋蔵のために、財宝を少しずつ売りさばこうとしていて、瑠璃子にそのありかを尋ねたのだった。しかし瑠璃子は、そばにあった流れに身を投げ、頭を強打した。
柴田は取り調べを受けたが、時効ということで刑罰は受けなかった。茜は、柴田が蓮華畑に埋葬したという瑠璃子の遺体を、富士山の見える丘に埋葬し直す。墓を訪れた杉下と甲斐に、自分は今後も養蜂を続けるといって去って行く茜。東京では、この一件で警視庁が、警察庁を相手に恩を売っており、捜査一課では例の3人が、それぞれのやり方で新年を祝っていた。そして杉下と甲斐は、雪の舞う中を東京へと戻って行くのだった。
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