この回はまず、おはつの手術によって仁の存在が消えかける場面が登場します。その中で仁に見えるのは、自分の先祖に当たる人物が、成長したおはつと思しき女性と結婚し、披露宴を挙げているところでした。さらにその後、自分の実家が見えて、子供の頃の自分と思われる少年が出て来ますが、これも自分の子供時代とは似ても似つかぬ子でした。このおはつを助けると、自分という存在が消えてしまうのではないか、仁はそう感じたわけです。もちろん、自分自身がその場から消えかけている以上、おはつを助けようにも助けることは不可能でした。
これには、かつての友永未来の写真と、それに伴う彼女の運命が暗示されているようにも思えます。第1シリーズの終盤で野風を救ったため、未来の存在はやはり消えてしまうことになります。もちろん野風はその後子供が生まれるわけで、彼女の血は続いて行くのですが、その代わり未来の存在が消えてしまう。もしおはつが何かで生きながらえて、南方仁の先祖と結婚し、何世代か後に生まれた男の子が仁と名付けられた場合、このドラマの主人公の仁は消え、代わりに別の南方仁が存在するわけです。これについては、恐らく完結編の最終回で謎解きがされるはずです。
また、おはつの手が熱かったというのも、非常に示唆的です。仁以外の人物は熱くは感じないわけですから、仁に向けての何かの信号、あるいは予知と取れるわけです。その後仁は、川越に出かけて藩主夫人の手術を行い、帰りに再び宿泊したところで彼女のけがを治療することになるのですが、このけががそもそも仁の紙飛行機によって起こったものというのもまた暗示的です。見方を変えれば、仁の存在が消えることのないよう、紙飛行機を作って飛ばし方を教えるという運命をたどったとも考えられます。これもまた「歴史の修正力」なのでしょうか。これは特に暗殺された著名人などが、多少の猶予期間はあっても結局世を去る、そのことのみならず、未来の人間である仁が、未来に戻るために生存し続けるという意味も込められているようです。
そして坂東吉十郎の鉛中毒が登場します。かつては白粉に鉛が多く含まれていたため、舞台役者のみならず、芸者や遊女などでも鉛中毒に罹る人が多かったともいわれています。それを和らげるため、仁はキレート剤があればと考えます。このキレート剤とは、恐らくエデト酸(エチレンジアミン四酢酸)のことと思われます。鉛を体外に排出する働きがありますが、この時代にそれを入手するのは不可能でした。一旦回復したものの、やはり舞台に立てなかった吉十郎は、息子の與吉相手に最後の芝居をし、自分より芝居の方を大事にする父親をよく思っていなかった與吉も、初めて父を見直すようになります。
そして仁が考えていたペニシリンの粉末化ですが、これは咲の思わぬミスにより、実現化します。龍馬の亀山社中でもペニシリンを扱いたいといわれていて、仁は長崎へと向かうのですが、そこでまた意外な光景を目にすることになり、また意外な人物と出会うことにもなります。
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