久々に『応天の門』です。道真と安野有兼は試を受けることになります。その前の大学寮の火事で、道真はこの有兼を庇っていますが、相変わらず他の学生たちは、道真のことをよく言いません。
************************
普段大学寮に来ない道真と、貧乏ながら真面目な有兼が一緒に試を受けることになり、周囲の者は道真のことをとやかく言っていた。有兼はこの試に合格し、紀元道で身を立てるつもりでいた。ただ有兼は道真に助けられた件で、菅家に取り入ったといわれており、そのことを気にしているようだった。道真ははっきりと、自分は政治にも富にも興味がないと言う。
しかしなおも大学寮では、父是善が事前に問題を教えるのでないかと囁き合う者たちもいた。しかし是善は今回の試には関わっていなかった。道真も自分の力を見るためと割り切り、あたふた試験勉強をすることもなく試に臨む。そして試が始まった。道真は有兼が、よどみなく筆を動かすのに驚く。そして最初の試が終わり、しばし休憩となった。
道真は有兼に話しかけるが、有兼はしきりに左袖左の汚れを気にしているようだった。道真はそれを不審に思う。そして再び試が始まり、やはり有兼は躊躇することなく筆を動かしていた。しかしその最中に、文字を書きつけるための木簡が落ち、有兼は慌ててそれを右手で拾った。しかし左側に落ちたのだから、この場合は左手で拾うのが自然であった。
試が終わり、道真は有兼に木簡の件に加えて、書く速度が速く、しかも誤字を削るための小刀の使用が少ないことを問いただす。そして左袖の汚れは、実はあらかじめ書いてあった文字を消したことを見抜く。しかし有兼は開き直り、自分には後ろ盾もないからこうするしかない、あなたとは違うんだと答える。道真はこう言って有兼と別れる。「残念です」
一人家路をたどる道真に長谷雄が話しかけて来る。これで認められて、もう一つ上の試験である対策を受けることになったら、自分から離れて行くようで寂しいと長谷雄は言う。しかしその一方で呑気に、偉くなっても遊んでくれと言う長谷雄に、道真は一人で考え事をしたいと伝えて帰途につくが、その時業平の従者是則が話しかけて来た。
道真は、業平には忙しいと言ってくれと是則に頼むが、是則は業平のことではなく、個人的に相談したいことがあると言う。しかもそれは、業平には内密にしてほしいということだった。
************************
滅多に大学寮に来ない、しかも是善の子の道真がいきなり試を受ける、しかも真面目で努力型の有兼と一緒ということで、大学寮の学生の多くは有兼に同乗していました。そして道真も、有兼の能力は認めてはいたのです。しかし、試の最中に不正、所謂カンニングをやっていたことがわかり、道真はがっかりします。しかし貧しくて後ろ盾もない有兼は、こうするしかなかった、あなたとは違うと言います。これは暦の時と同じパターンです。尚この当時は木簡に文字を書き、誤字は小刀で削って書き直しました。「刀筆の吏」という言葉の通りです。
スポンサーサイト