偽の暦を作っていた幹麻呂を咎めた道真ですが、お前は食い詰める心配がないからいいいよなとずばりと言われたことが、頭にこびりついて離れなくなっていました。しかも今度は大学寮で、とんでもない事件が起こってしまいます。
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道真が幹麻呂の言葉を思い出していたところへ、長谷雄がやって来る。結局幹麻呂は暦を作った時点でまだ陰陽寮に在籍しており、盗まれた商品の大部分は既に市に出回って、取り戻せない状態となっていた。これは最早極刑となってもおかしくなかった。さらに長谷雄が思っていた女性は、信心が足りないと出家してしまう。道真はそこで紀元道を学ぶため大学寮に赴き、橘広相に会おうとする。大学寮では口さがない学生たちが、道真に対して無遠慮な言葉をぶつけて来る。
広相は道真が陰陽寮に行かなかったことを喜ぶが、道真ははなから陰陽寮に行く気はなく、広相に頼みごとがあって来ていた。しかしその時蔵から出火したとの知らせがあり、道真は本が燃えてしまう前に水をかけて何とか火を防ぐ。水浸しになった本の殆どは写本で、菅原家にも同じ物があった。しかし自邸に同じ物があると言う道真に、学生たちは、あいつの家は俺たちとは違うからなと聞こえよがしに言う。その時、安野有兼が慌ててやって来た。昨日最後に蔵に入ったのはこの有兼だった。
有兼は鍵も戻したと言ったが、実は戻し忘れていたことに気づく。学生たちは皆、有兼がどの学閥にも属しておらず、対策(試験の一種)でも落ちている点でも疑惑の目を向けていた。しかしそういう有兼を道真は弁護し、その後一同は濡れた本を一枚ずつ乾かして、竹簡と木簡は陰干しにした。ダメになったのは5冊だけだったが、菅原家に写本があったことから、道真と長谷雄はその写本を作るように命じられてしまう。その時有兼が手伝いを申し出て来た。
有兼は道真とつるもうとしているのではと周囲の者は噂するが、道真はそれを無視する。そして菅原家で写本の作業が始まった。この時道真は珍しいことに、有兼の字の美しさを褒めて長谷雄を驚かせる。一方で道真は、出火の原因を探ろうとする。しかし有兼は火付けの容疑をかけられてしまう。誰かが役人に垂れ込んだようだが、後ろ盾のない有兼はこういう時は不利だった。しかしそこへ道真が現れ、火事の犯人はカラスだと断言する。
カラスは蜜蝋も食べるため、火がまだ残っているロウソクを加えて蔵に入ったのが原因だった。その証拠に小石や金釘、骨などカラスが集めそうな物がその近くにあった。その場に来ていた検非違使たちは訝しむが、道真がよく業平といるのを思い出して態度を軟化させる。それでも有兼に対して嫌味な口を利く学生たちに、道真はこう伝えた。
「陰口しか能のない馬鹿は帰っていいですよ」
有兼は道真に礼を述べる。その時橘広相が来て、他にも希望者がいたからということで、試が行われれることになった。試は5日後に行われることになり、道真と有兼は、互いが試を希望していたことを知る。
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まずこの中で登場する「対策」と「試」についてです。一見すると試の方がグレードが高い物に見えますが、実は対策と呼ばれる試験こそが最も重要であり、対策に合格することで官職に就くことが可能になったのです。それに比べると、試はそれほどレベルの高くないテスト程度のものだったようです。まず学生(がくしょう)が寮試に合格すると擬文章生(ぎもんじょうしょう)となり、さらに式部省による省試に合格して文章生となります。道真はこの文章生です。さらにその内2名の成績優秀者が文章得業生(もんじょうとくごうしょう)となり、最終的にこの2名が対策を受けて、合格すれば官吏となれます。尚この対策の問題を策文(問)といいます。
ところで前回は、お前は食い詰める心配がないと幹麻呂から言われた道真ですが、今回は写本が家にあると言ったことから、あいつは俺たちとは違うからなとまたしても言われてしまいます。その一方で、在原業平と知り合いであったことから、検非違使の追求の手を緩めることもできたわけです。しかしこの蔵の出火、道真の推理通りにカラスが犯人だったとしても、この回で登場した有兼はどのような人物なのでしょうか。後ろ盾がないということで、幹麻呂と多少似てもいます。
それにしても暦を信じた人たちから盗み出した品物や財宝は、かなりの数にのぼっていたようで、まるで詐欺商法です。しかも長谷雄の彼女は出家してしまいました。長谷雄が道真に本当に聞いてほしかったのは、こちらの方なのかもしれません。
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