自分より小さい者、弱い者を助ける存在になろうと心に決めた小吉ですが、ある日川沿いを歩いていると、平之郷中の尾田栄作とその仲間が行く手を塞ぎます。栄作は妙円寺詣りで糸のいた下加治屋町郷中に負けたことで、仕返しをと企んでいました。栄作は刀を抜き、小吉は側にあった棒で応戦しますが、右肩を斬られてしまいます。郷中では抜刀は禁止されており、しかも目下の者を斬ったことから、栄作の父は息子と西郷家を訪れ、息子にその場での切腹を命じます。しかし吉兵衛と小吉は下級武士でもあり、あまり強く出ることもできず、喧嘩両成敗だとその場をとりなします。その時の栄作の勝ち誇ったような表情は、小吉の目に強く焼き付きました。
右肩の腱を斬られた小吉は、医者から刀を持つことはできないと言われます。刀を持てないということは、殿の側に仕える望みを絶たれたも同然でした。今度は自分が、いわばハンディを背負うことになった小吉は外へ出て、木の太い枝を握って振り下ろそうとしますが、それだけでも痛みを覚えるようになっていました。小吉は丘を上がって行き、斉彬と久光の兄弟がそこで狩りをしているところに遭遇します。小吉は斉彬の馬の前に這うようにして現れ、獲物かと思って鉄砲を向けた斉彬は、人間であったことに驚いてこう言います。
「あぶねえじゃねえか」
小吉は刀を持てなくなった自分に絶望して、生きていても仕方のない人間であると言い、目から涙をあふれさせます。そんな小吉に斉彬は言います。今までのように、侍が重い刀を2本も差して歩く時代は終わる、これからは弱き者の声を聞き、民のために尽くせる者こそが真の侍になるのだと言い、もし自分が生きていればまた薩摩に戻るから、真の強い男になっていたらまた会おうと言って去って行きます。無論この時期、斉彬が薩摩にいたという記録はありませんがそれはさておき。後に赤山靱負からCangoxinaの意味を知らされた小吉は、仲間と共にその名が外国の地図にあるのに驚き、その後城山に上ってこの字を石に刻み付けます。
リアルタイムで観た時、この城山の部分恐らく最終回の伏線であり、これで西南戦争まで描かれるなと思ったものです。しかし弱き者の味方になると決心した小吉が、自ら刀を持てなくなってしまい、また下級武士ゆえの不条理を味あわされることになります。これで殿の側に仕えるという夢も捨てざるを得なくなりました。恐らく右肩を斬られたシーンが登場したのは、この大河が初めてではないかと思われます。ちなみにこの時の医者を演じたのは、ご先祖が薩摩藩の医師であった山下洋輔さんです。
しかし斉彬と偶然出会ったことが、その後の自分の生き方を決定づけることになります。ちょっと偶然杉という感も無きにしも非ずですが、ともあれ斉彬の「弱き者の声を聞き」と「子供は国の宝」は、彼の一生を通しての信条となりました。また侍が重い刀を差す時代は終わると言ったのも、刀を持てない小吉の背中を押した感はあります。ともあれ、彼は農村を見て回る役に付くことになり、そして出会った「弱き者」を助けようと、死にもの狂いになるのですが…。
小吉(渡辺蒼、手前)と馬上の斉彬(渡辺謙)
『西郷どん』公式サイトより
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