それから正月時代劇『家康、江戸を建てる』についても書いておきます。
水を制す
天正18(1590)年、徳川家康は豊臣秀吉により関東へ転封させられた。しかし中心地とするべき江戸は低湿地で、地下水には海水が混じっており、ここに町を作るためには、人々の飲料水を確保する必要があった。そこで家康は、菓子司の大久保藤五郎に白羽の矢を立てる。この藤五郎は戦場で家康の代わりに脚を撃たれ、再び戦には出られぬようになっていた。これは身代わりになったためだと思った藤五郎は、従者の安兵衛と江戸へ赴き、良質の水の確保に腐心する。ようやく飲める水を献上した藤五郎は、主水という名を授かる。しかし工事にはかなり手間取った。
家康の重臣である伊奈忠次は、氾濫のもととなる利根川の流れを変える普請に手間取っていたが、その後成果を上げて行った。一方で藤五郎は武蔵野の地主、内田六次郎の助けを借りて、七井の池から上水を通そうとしていた。やがて工事が進み、市中に樋を通すようになった時、春日清兵衛という青年が現れる。この清兵衛は六治郎の村の者でなく、熟練の職人をと要請するが、藤五郎と六次郎は反対する。自分のつてで集めると清兵衛は主張するが、家康の重臣で金庫番でもある大久保長安一味が工事の妨害を企み、清兵衛の職人集めも水泡に帰した。
そのような中、六次郎の村の者たちは清兵衛に直接教えを乞い、工事は着々と進行して行く。さらに藤五郎は伊奈に頭を下げ、利根川普請の職人たちを貸し出してもらった。その後水は江戸へ行き渡るが、肝心なところで失敗してしまう。これにはそれなりの月日がかかると見た藤五郎は、清兵衛に跡目を譲る。かつては役目に夢中な藤五郎に反発した娘絹も、母と2人で父を出迎えるようになって行った。その後藤五郎は再び菓子作りに戻るが、藤五郎不在の間家康はその間菓子断ちをしていたことを知る。また藤五郎は、自分が遣わされたのは、身代わりになったからではなかったことを知る。そして藤五郎はその後、再び水道工事に戻ることはなかった。
金貨の町
京の後藤家は彫金で有名で、大判作りを請け負っていた。橋本庄三郎はその後藤家の職人だった。しかし主人の徳乗やその弟長乗は、彼の手柄を自分の物にしてしまう。その庄三郎は、家康の命で長乗の弟と江戸へ出向き、大判を作ることになった。しかし江戸滞在が引き延ばされてしまう。徳乗の娘早紀と夫婦約束を交わしていた庄三郎だったが、それを邪魔立てしようとする企みだった。庄三郎たちが滞在する志村家では、娘の栗が気を利かせて、京の味を食膳にのぼせる。
家康の狙いは実は褒賞用の大判ではなく、一般にも使える小判を作り、全国に流通させようとしていた。そんな家康に庄三郎は、天下を握る野望を見て取る。しかし小判のことが漏れてしまい、秀吉の圧力も加わって、小判作りの計画は窮地に陥ってしまう。これを漏らしたのは、庄三郎の同僚で、やはり江戸へ来ていたものの、京へ戻っていた与一郎だった。しかし庄三郎は小判作りを主張し、それに後藤の名を刻み込むべく、後藤家に戻って駆け引きのすえ猶子となる。
その時既に早紀は、江州屋へ嫁入りしていた。久々に会った早紀はそっけなかった。その後江戸へ戻り、小判作りを進める庄三郎だが、太閤秀吉の薨去後に家康と石田三成とが対立、関ヶ原の戦いが起きる。で石田方の敗北が決まった後、庄三郎は家康名義の金子に関する高札を、混乱の最中にある京に立てる。それは庄三郎が、徳川家康のお墨付きをもらったことを意味していた。いまいましげな表情を見せる徳乗。そして庄三郎は再び早紀に出会うが、早紀は、庄三郎の手紙をすべて懐に持っていた。庄三郎はその手紙の内容を、悉くそらんじる。
まず全体的な感想ですが、この時代とかく政治的な駆け引きが表に出がちな中、治水や小判鋳造といった点を取り上げたのは評価できます。しかしちょっとわかりづらいところもありました。どちらもそうなのですが、家康の都市計画として描きたいのか、その人物を掘り下げて描きたいのかが曖昧だったように見えます。これらの人物をそれぞれ、BS時代劇3回分くらいで描けば、もう少し面白くなったのではないでしょうか。徳川家康や大久保長安が登場しているのに、ちょっともったいないなと思いました。それにしても高嶋政伸さん、正月時代劇のレギュラー化しています。
それから「水を制す」に関して。佐々木蔵之介さん演じる藤五郎、生瀬勝久さんの演じる六治郎のキャラがなかなかいい。この2人が主役でもう1つ土曜時代ドラマ的な物が作れそうです。松重豊さん演じる伊奈忠次、当初は敵役かと思っていましたが、意外や意外ではありました。江戸の上水道(神田上水)作りにも、当然というかかなりの苦心、苦労があったわけですが、最後に水が噴き出すシーンは、まだまだこの計画が途上段階にあることを物語ってもいました。そこで清兵衛、昨年の『風雲児たち~蘭学革命篇~』の平賀源内同様、何だか変な人物だなと思ってはいたのですが、最終的にはこの人に委ねられたのですね。家康の「菓子断ち」には泣けます。
そして「金貨の町」ですが、どう見ても
柄本佑さん=寅王丸
吉田鋼太郎さん=嘉納伝助、津田監物
吹越満さん=小野和泉守、足利義昭
のイメージです。
特に吉田さん扮する後藤徳乗が、高札をこんなもの呼ばわりするところに、『花子とアン』の「こげなもん」がどうしても連想されます。「水を制す」同様、主人公が陰謀に巻き込まれそうになりながらも、何とか自分の役割を成し遂げて行く筋立てになっていますが、こちらの主人公の方もまた、なかなかシビアな経験をしています。またどちらかといえば家康との接点は、この人の方が大きいかもしれません。実際職人の身でありながら、関ヶ原まで駆けつけていますし。最後の早紀への自分の手紙をそらんじるシーンが、ちょっと『シラノ・ド・ベルジュラック』の最後の部分を思わせます。もちろんこちらは代筆ではありませんが。
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