幕府大番頭、法月一学の嫡男弦之丞は剣の修行に出たいと、許婚の千絵を江戸に置いて出かける。しかし剣を極めれば人でなしになると師に諭され、虚無僧に身をやつす。そして戻って来た江戸で、辻斬りの孫兵衛、スリのお綱と出会う。
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江戸に戻って来た弦之丞に、京都所司代松平左京之介は、父一学に会ったかと問い、弦之丞はまだ会っていない旨を伝える。そして世阿弥が阿波に、鳴門秘帖を探りに行ったことを教えられ、弦之丞は例の阿波の天堂一角の、鳴門秘帖にかかわるなという言葉を思い出す。これは幕府転覆計画の血判状であり、公家の藤村有村がその首謀者だった。有村は阿波に潜伏していた。阿波徳島は表向き二十五万石だが、藍玉利権のためそれよりも五十万石多い、実質七十五万石だった。それにより西国大名を動かそうとしていると左京之介はにらむ。
弦之丞は、剣は人でなしの道、それが正義に通じましょうかと疑問を呈するが、左京之介は密命であると言う。その時天井裏で物音がしたが、天井裏を槍で突いた弦之丞は、何もいない、ネズミでしょうと答える。実はそれは、2人の会話を聞いていた銀五郎だった。阿波に行くには命がいくつあっても足りぬと言う弦之丞だが、銀五郎はそれは男が立たない、旦那のためなら命はいらないとまで言う。千絵が行けと言えば行くつもりでいたが、前回門前払いを食わされたため、銀五郎に手紙を渡して届けてもらうことにする。
甲賀屋敷に忍び込んだ銀五郎は、そこかしこに張られた綱の一本に触れてしまう。これにより鈴が鳴らされ、甲賀衆が銀五郎を追う、その甲賀屋敷では、千絵は食事も取ろうとしなかった。多市は、周馬の言う弦之丞と、千絵の言う弦之丞の印象が違うのに疑問を抱く。その時周馬は賊が入り込んだことを伝え、弦之丞と左京之介が会ったことも知らせた。恐らく弦之丞が左京之介にそそのかされて、賊を送り込んだのではないかとの周馬の言葉を、千絵は頭から否定する。そして銀五郎は逃げる途中お綱と出会い、お綱は無意識に銀五郎が渡そうとした手紙をすってしまう。
結局銀五郎は橋の上でつかまり、串刺しにされて川に落ちる。そこへやって来た平賀源内が銀五郎を助け、このことが万吉のもう一人の下っ引き、熊によって知らされる。源内から、忍び姿の男たちに襲われていたことを聞かされた弦之丞は、甲賀者ではないかと考える。死んでもわっしは旦那のそばにいる、千絵のために阿波へ行ってくれと銀五郎は言い、息絶えた。その頃お綱は、手紙をすったことを悔やんでいた。自分の手と自分の業に嫌気がさしたのだが、そこへ孫兵衛が入って来て、手紙が阿波絡みであることから金になると悟り、お綱を倒して去って行く。
万吉は銀五郎の墓を作ってやり、男気のあるやつだったと弦之丞に話す。よほど旦那のことを気に入ったのだろうと万吉。弦之丞は阿波行きを決めるが、万吉は、なぜ甲賀者が銀五郎を襲ったのか不思議がっていた。そして孫兵衛は天堂一角の隠れ家に行き、手紙を見せる。孫兵衛も元々は阿波の原士だった。一角はいつも頭巾を離さぬ不思議な男と皆に紹介し、阿波関係の言葉がちりばめられた手紙を読む。差出人の名を見た一角は、自分が刃を交えた男であることを知る。孫兵衛も一角も、妙なところで弦之丞と関係ができていた。
一角は孫兵衛が、金がないことを知っていた。そこで手紙は買わぬが、おぬしの剣の腕を買うと持ち掛け、一角一味は孫兵衛と組むことになる。そして万吉は病の一学に会いに行き、弦之丞が左京之介から阿波行きを命じられたことを知る。左京之介の口のうまさを危ぶみ、万吉に支えになってやってくれと頼む一学。その弦之丞は、お綱から声をかけられていた。手紙のこと、それを孫兵衛が持ち出したことを話し、千絵様はきっと弦之丞を待っていると言い、さらに銀五郎が死んだことを聞かされたお綱は、お二人が会えなければ銀五郎も成仏できないと口にする。
手紙をすったのも何かの縁とお綱は、甲賀屋敷に手蔓があると言う。賭場で旅川周馬に、百両近い金を用立ててやっていたのだが、ろくに返してもらっていなかった。夜になって周馬を誘い出すから、そのすきに屋敷に忍び込むことを進めるお綱。なぜここまでしてくれるのかと問う弦之丞に、お綱は昔、湯島で自分を庇ってくれたことを話しかけるが、すぐに、番屋に自分を突き出さなかったからだと取り繕う。その夜、多市は千絵のために早すしを買って勧める。自分を案じてくれるのは多市だけだと千絵は言い、すしを口にする。千絵はどうやら周馬を信用してはいないようだった。
お綱は周馬を呼び出し、弦之丞は隙をついて屋敷に入り込み、中へと入って行くものの、やはり罠に嵌ってしまう。甲賀衆と斬り合いになる弦之丞、そこへ弦之丞の名を聞いた千絵が出て行くが、爆薬のために屋敷は火に包まれる。そして多市も、仲間を何人殺すと弦之丞に斬りかかるが、逆に斬られてしまう。駆け寄る千絵、そして弦之丞の援護射撃をするお綱。久々に弦之丞に再会できると思ったのも束の間、千絵は周馬に連れ去られてしまう。
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今回は、弦之丞の方は銀五郎を、千絵の方は多市を失ってしまいます。キャラとしては面白い銀五郎ですが、セリフがちょっと説明的な印象もあり。しかし銀五郎を見つけた平賀源内、芸者遊びをするとは結構なお大尽であります。それにしても『風雲児たち』の源内がこの弦之丞ですから、何かややこしいといえばややこしくもあり。それから銀五郎が死んでしまい、万吉の女房のお吉が「銀の字」を連発するシーンがありますが、やはり「〇の字」という呼び方は、こういう時代背景の方がふさわしいように思われます。
ところでこの源内を演じている正名僕蔵さん、『相棒』シーズン14の「物理学者と猫」で堀井教授を演じていました。猫が生きている世界、猫が死んでしまった世界それぞれをシミュレートする、「シュレジンガーの猫」の方法で、いくつかの世界をシミュレートする構成で、謎解きの面白さというよりも、「右京、風邪を引く」的な、どちらかといえばちょっとお遊び的な雰囲気のエピソードでした。
弦之丞の手紙ですが、どちらにしても予期せぬ方向に行く運命だったようです。しかしお綱はあの手紙全部読めたのですね。しかし孫兵衛も、あの手紙を売るなどというよりは、堂々と自分の腕を使ってくれと言えばよかったようなものですが、それはちょっとためらわれたのでしょうか。この孫兵衛が頭巾を片時も離さない理由、確かこの人はいわくつきなのですが、それは話が進むにつれて明らかになると思われます。
それとこう言っては何ですが、千絵が食事に手を付けない割に、あまりやせ衰えている印象がないのですが…。最初周馬が毒でも盛っていて、それを察しているのかと思いましたが、周馬は千絵と結婚する予定だからそれは考えにくいです。
しかしこれと大河がどうにもこうにもダブってしまいます。要は
公家中心で幕府転覆計画→発覚する→幕府の取り締まりが厳しくなる
このパターンですね。しかも竹屋三位卿藤原有村を演じている篠井英介さんは、『翔ぶが如く』で橋本左内を演じていました。松平左京之介が西国大名の名を挙げるシーンで、島津、毛利と言うところに、この2つはやはり幕府の仮想敵であったと納得です。この時の徳島藩の殿様、蜂須賀重喜公も公家との交流が頻繁にあったようです。さらに反幕府勢力一味のトップが天堂一角であることを考えると、この役に渡辺大さんがキャスティングされたのもうなずけます。
(2018年5月3日加筆)
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