延び延びになっていましたが、第六巻最終話です。源融が庭に植えたがっていた桜ですが、何やら、怪しげないわれがあるようです。
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源融が牛車の簾を巻き上げて見たものは、木の下に立っている女と、木から下がっている縄だった。女は輪にした縄の先に頭を入れ、首を吊ろうとしていた。慌てふためく融だったが、業平や従者たちは、そのようなものは見えないと口々に言った。
しかもその女の周囲には、人魂のような青白い光が見えていた。融は自分にしか見えないのかと思い込み、業平は従者に見てくるように命じるが、その間に女が首を吊ってしまう。融はこの木にたたりがあると言って牛車をその場から離れさせる。しかしこれは、道真たちが仕組んだことだった。
桜の下にいた女はカナメで、首を吊るふりをして、長谷雄に支えてもらっていたのである。青白い光は、強い酒と銅を染み込ませたぼろ布に火をつけていたのだった。恐らくこれで融は驚いたはずだと、道真たちは効果を確信する。またカナメは、これを浸した湯でかぶれた部分を洗うようにと、杉の葉を炙ったものを長谷雄に渡す。
結局桜の移し替えは取りやめになった。融を見舞った業平は、あの木は夫婦桜といって、昔一組の男女が木の下で将来を誓ったものの、夫の方は防人に出かけてそのまま戻らなかった。それを悲しんだ妻は首を吊り、それ以来その桜には怪しい噂があると話した。それを信じた融は、あの桜を引き抜くことはできぬと涙を流す。
さらに業平は、あの桜から融の庭へ小川を引けば、散った花びらが水に乗ってやってくると言い、融はそれを受け入れる。しかしその一方で融は道真の才を認めており、あれを使って何をするつもりかと業平に問いただすのだった。
業平は菅原邸を尋ねた。ことがうまく行ったこと、人を縛るは恐怖でなく情であり、それを使うのが処世の術と話すが、道真はいい加減勉学に集中させてくれと言い、また桜の方もこれ以上腐食しないように、処置をしておいたと話す。その知識を笠に着た言い方が、業平にはおかしかった。
その一方で鷹狩をしていた清和天皇や藤原常行は、急な雨に見舞われ、常行の父良相の別荘で雨宿りをする。しかしすべてがお膳立てされたような雰囲気を、常行は不審がる。さらに妹の多美子までがその別荘に来ており、しかも良相は多美子をおそばにと帝に進言する。
この入内は、たちどころに宮中で噂となった。しかも身内である藤原良房は出し抜かれた格好となった。そして常行は、参内していた業平にあることを依頼する。それは意外なことに、多美子をさらってくれという依頼だった。さもないと妹は殺されると常行は言う。
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桜の木を利用して、源融に一泡吹かせた業平と道真ですが、一方で融は、業平が道真を使って何をやろうとしているのか、不信感を募らせます。そして藤原良相は娘の多美子を入内させ、高子を帝にと企んでいた良房の先手を打ちますが、良相の子である常行が、別荘での出来事に疑問を抱き、そして業平に、こともあろうに入内した妹をさらってくれと頼む辺り、この入内にはかなり裏がありそうです。
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