以前ご紹介した
、コミック『シートン動物記』 に収録されている「白いトナカイの伝説」です。時期的にクリスマスということで。
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春のノルウェー、ヨツンハイムの峰。メスのトナカイ、バーシムレに白い毛のオスの子供が生まれた。白い子の誕生を祝うフォセカルの歌を聴く、スベッカムじいさんと孫のクヌート。スベッカムじいさんはクヌートに、フォセカルは水の精や幸運の精ともいわれ、いい兆しがあると歌で知らせることを教える。しかしその時の2人には、それが何の兆しであるのか、まだ見当もつかなかった。
自然界の掟は厳しい。強い者、自分から学ぼうとする者だけが生き残る世界である。その年生まれたトナカイの子の中で、生き残ったのは例の白いオスの子だけだった。ある日、草を食んでいる白い子をクズリが狙っていた。自分を狙おうとしているクズリに、白い子は生えかけていた角で胴を突いた。母親のバーシムレがクズリを踏みつぶすも、白い子は何度も何度もクズリの体を突き続けた。
3年後、スベッカムじいさんはトナカイを追っていた。半野生のトナカイは、調教すれば橇を引くにはうってつけと言うじいさん。その中に、白いトナカイがいるのをクヌートが見つける。それはあの白い子の、成長した姿だった。じいさんは鞭でしつけるようなことはせず、徐々にトナカイに歩み寄り、心を開かせるようにした。その年のクリスマスの頃、スベッカムじいさんのトナカイ、ストルバックは氷上レースで次々と優勝し、ノルウェー全土に知られるようになった。
じいさんはストルバックが勝つたびに、引き具に銀の鈴を一つずつつけてやった。ストルバックには様々なうわさが飛び交うようになり、100キロの距離を20分で走ったなどという噂もあった。また、雪崩で埋まった村を救うために、65キロを駆け抜けて救援を呼びに行ったとか、クヌートが薄氷を踏み破り、川に落ちたのを救ったという話もあった。しかしフォセカルの予言は、これだけにはとどまらなかった。
その当時、ノルウェーとスウェーデンは連盟関係にあった。そして国会議員のボルグレビングは、反国王派の高官に接近して、金をもらっては国民を煽って独立させ、自分が権力を握ろうとしていた。ボルグレビングは宣誓書を作って仲間に署名させ、いざ状況が不利になった時は、自分だけ寝返るつもりだった。ボルグレビングの集会に行っていたスベッカムじいさんは、何かがおかしいことに気付いた。
じいさんは文字は読めなかったが、人を見抜く洞察力があった。集会の後、じいさんはボルグレビングの仲間に、宣誓書にボルグレビング自身の名前が書かれているかどうかを確認し、そこでみんなは初めて彼の悪だくみに気付く。じいさんは、次の集会が行われるニスチューエンへとストルバックを走らせ、ニスチューエンでは、ボルグレビングの署名がない宣誓書に、誰も署名しようとしなかったのである。
ボルグレビングは不意打ちを食らった思いだった。そして群衆の中に、一人だけ署名をしなかった、スベッカムじいさんを見つけた。ボルグレビングはニスチューエンでの失敗がばれないうちに、急いでベルゲンに向かおうと考え、じいさんにストルバックを借りたいと申し出る。じいさんは断るが、ならば反逆罪で牢にぶち込むと言い出す。じいさんは仕方なくストルバックと橇を貸すが、ボルグレビングのトナカイへの態度は、如何にも荒っぽいものだった。
ボルグレビングはストルバックを走らせ続けた。やがて嵐が来る前触れの雲が垂れ込め、ストルバックは歩を緩めた。こんな時、スベッカムじいさんならすぐに引き返すのだ。しかしベルゲンへの道を急ぐことしか頭にないボルグレビングは、ストルバックを容赦なく鞭で打ったため、今度はストルバックは猛スピードで、子供の頃を過ごしたヨツンハイムの方へと走り出した。ボルグレビングは悲鳴を上げたが、トナカイは走り続けた。
翌日、ボルグレビングはベルゲンには到着しなかった。何が起こったのかは定かではないが、ストルバックもボルグレビングも、目にした人はいなかった。スベッカムじいさんは、大きな鈴を手に持っていた。今度ストルバックが戻ってきたら、今までで最も大きな勝利を納めたストルバックの、引き具につける予定の鈴だった。じいさんは反逆罪に問われることもなく、その後ノルウェーは無血の独立を勝ち取って行く。
ヨツンハイムの峰の近くでは、今も雪嵐の夜には、白いトナカイが引く橇が現れ、橇に乗った男が、気がふれたように叫んでいる。そしてトナカイの角の間には小人が立ち、ノルウェーの幸運とストルバックについて歌うのである。
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如何にも北欧らしい物語といえます。イメージとしてはワイルドハント、あるいはカナダ東部の言い伝えである、
空飛ぶカヌー を連想します。この中で小人となっているのは、元々はトロールと呼ばれる妖精で、『ハリー・ポッター』のシリーズなどにも登場しています。
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