『武将ジャパン』、大河コラム第36回関連記事、前半部分への疑問点です。
鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第36回「武士の鑑」 - BUSHOO!JAPAN
(武将ジャパン)
https://bushoojapan.com/taiga/kamakura13/2022/09/19/170929
1.そのころ戦場では、義盛の不意打ちがあっさりと見破られていました。
なぜわかったのか?
義盛は慌てふためいていますが、やはり兵法書理解の差でしょう。
進軍の際にズンズン歩いて鳥がバタバタと飛び去っていたら、一目瞭然でバレてしまいます。そもそも重忠は高所に陣取っています。
義時はまっすぐ来る相手に備え、守りを固めていました。
兵法書がどうこうと言うより、義盛は脇から攻めると口にしており、重忠もまたそれを見抜いていた以上当然かと思います。現に戦場で重忠は、敵軍に和田がいないと言っていますね。それとここでは鳥が飛び立つシーンなどはありません。
2.周囲に武士や郎党が集まると、あの計算高い義村ですら、こう宣言します。
「手を出すな! 誰も手を出してはならぬ!」
総大将同士が組み合って戦うなんて、それこそ兵法書通りじゃない。
それでもあの義村すら天意に呑まれたように見守るしかない。
武者さんとにかく兵法書にこだわりたいのは分かりましたが、この場合は昔から共に戦って来た戦友同士が敵味方となったことで、いわく言い難い何かにかられたからと思われます。
3.この二人の勝敗は何が分けたのだろう?
天命の差でしょうか。この場面はかなりおかしいように思える。なぜ重忠はとどめを刺さないのか?
私は天命ということにしたい。
重忠を見る義盛も、泰時も、義村も、何かに打たれたような顔になっている。
もう重忠は人ではない何かになったのかもしれない。
こんなにボロボロなのに荘厳です。
そもそも重忠は戦をしに行ったわけでもなく、また坂東武者の潔さにこだわっている以上、自分が有利になった状況下であっても、相手を討つのをよしとしなかったからではないでしょうか。
4.誇り高く、己の命より名を守った重忠。そんな巨大な星からすれば、保身に走る時政はなんと小さく醜いことか。
大江広元も、執権殿は強引すぎたと振り返っています。
御家人たちのほとんどは畠山に罪がなかったと語り、八田知家も同意。
先日も書きましたが、時政には時政の考えがあってのことです(りくの考えと言うべきかも知れません)。但し、そのやり方はあまりうまくなかったと言えるでしょう。仮に時政がりくほどの策謀家であれば、もう少し重忠をうまくあしらい、自分達の評価も落とさずに済んだ可能性もあります。無論この場合、別の形でトラブルが発生することもまたありますが。
5.「畠山殿を惜しむ者たちの怒りを、誰か他のものに向けては?」
またまた広元が恐ろしい提案をしてきました。
罪を誰かに押し付けよ、とのことですが、では誰に?
「重成に?」
時政が義時にそう言われてギョッとしています。
重成の場合、史実では最初からこれに加担していたと言われてもいるわけで、処刑されるのもやむなしではありました。ただ三谷さんの脚本では欲に目がくらみ、最終的に濡れ衣を着せられたという設定となっていますが。そして広元の「恐ろしい提案」ですが、取りあえず時政の面目を保ち、ことを極力穏便に解決するには、これしかなかったのではないでしょうか。
6.「わしはな、皆の喜ぶ顔を見ていると、心が和むんじゃ」
そうしみじみと語る時政は、やはり天命が理解できておりませんね。
時政はりくの言いなりだ。悪女とそれに翻弄される男、いわばマクベス夫妻のように思える。
時政とりくの老成できないバカップル。いたずらに歳っただけで、成熟はしていない。
この手の組み合わせは悪女論で語られがちですが、堕落させた女と堕落する男、悪いのはどちらなのか?
時政は優しい。気のいい頼り甲斐のある男。
その本質は不変のまま、しかし低い方へと流されました。
この『鎌倉殿』に於けるマクベスについて、別のコメントでも目にしたことがありますが、ちょっとそれはどうかなと思ってはいます。あとバカップル呼ばわりは、武者さんがりくを嫌いと言うこともあるかと思います。もっと客観的に見れば、それぞれの立場があることくらいはわかるでしょう。
その一方で、
「この手の組み合わせは悪女論で語られがちですが、堕落させた女と堕落する男、悪いのはどちらなのか?」
とあり、女性であるりくを一方的に責め立てるのは、やはり気が進まないようでもあるわけで、寧ろこういうことに対する武者さんの心理を知るうえで、興味深くもあります(これは小檜山氏名義の朝ドラ評も同じ)。
あと以前も書いていますが、りくを演じる宮沢りえさんが、三谷さんはりくをこれまでの悪女と同様には書きたくないと言っていたと、そうガイドブックでコメントしています。
それと本質的に時政は坂東武者で、御家人は昔からの仲間であり、幕府の中枢は身内であるため、そこが見方の甘さにつながったとも言えるでしょう。
ところで時政の「和む」という言い方について
「『和む』という時政の言葉も、サイコパスでもなんでもなく、普通の人間がやらかしがちなよくある過ちでしょう。ダメ大河でもありがちで、具体例を挙げますと、2019年『いだてん』でこんなシーンがありました」
とあって、『いだてん』と『青天を衝け』に対する批判というか誹謗中傷と言うべきものが長々と書かれているのですが、例によって例の如くなのでここでは省略します。
7.所領の分配を尼御台に任せると言い、広元もこれには納得です。
別に恋愛感情ではなく、このあまりに尊い何か特別な存在に心酔しています。
広元は色気がある方ではない。
比企能員が設定した宴で美女たちのお酌を受けていてもムスッとしていた。
そんな広元が甘ったるくなるとすれば、それは尊敬できる相手だからです。
と言うより、広元はそもそも比企能員のような武者に馴染めていないし、政子に対しては、頼朝の未亡人という意味で尊敬はしていても一線を超えることなく、寧ろ時政にぶつけるとすれば、彼女ほどの地位でないと難しいと読んだからではないでしょうか。しかし「甘ったるくなる」と言う表現もどうかと思います、「女性に寛容な態度を取る」とでも書いてほしいものです。
8.政子本人は断ろうとしますが、それでも広元は、尼御台から御家人に所領を与えてやって欲しいと粘る。
自分が口を出せば政(まつりごと)が混乱すると警戒していました。彼女は頼朝の言いつけを心に留めている。なんと貞淑で素晴らしい女性なのでしょうか。
りくがあまり好きでない(しかし女性であることで否定はできない)ものの、政子は大好きと言っていい武者さんらしさがここでも現れていますね。無論彼女も、かつては夫のすることにあれこれ言っていたわけで、尼となってから、いくらかは卓越した物の見方をするようにはなりました。
9.「そのさき、あなたが執権になるのですか?」
「私がなれば、そのためになったと思われます」
「私が引き受けるしかなさそうですね」
「鎌倉殿が十分に成長なさるまでの間です」
政子にそう言う義時。この対話は重要だと思います。
姉も、弟も、どちらも権力が欲しいわけでもない。
どうでしょうね。義時の場合は、いずれ自分が執権にと考えていて、取りあえず冷却期間を置いたようにも見えますし、この人が権力を握ったら握ったで、色々な事態が出来することになるのですが。
あと
10.幼主が成長するまで母が政治を行うことを、東洋史では【垂簾聴政(すいれんちょうせい・御簾の向こうで政治を聞いている)】と称します」
たぶんこれを出してくるだろうなと思いました。ただし必ずしも幼帝の母親というわけでもなく、当時の皇后や皇太后が政を行っていたと言うべきでしょう。かの西太后も、そうだと言われています。
11.7月8日――尼御台の決めた恩賞の沙汰を二階堂行政が読み上げています。
動揺したりくが「執権殿をさしおいて政子がしゃしゃりでるとは!」と怒り、政子が口出しすると政(まつりごと)が混乱すると責めている。自分だって散々引っ掻き回していることは全く無視。
時政は怒り、脇息を蹴り飛ばします。
りくも驚くほど、時政は激怒しているのでした。
はっきり言って、政子と義時の密談など、りくは知る由もありません、政に関わらないと言った政子が権力欲を出して、ああいう場に出てきていると思ったでしょうし、しかも執権たる自分の夫を差し置いてとなるわけですから、怒りをぶちまけたとしても無理はありません。しかし
「政子が口出しすると政(まつりごと)が混乱すると責めている。自分だって散々引っ掻き回していることは全く無視」
とありますが、政が混乱するとは言っていません。りくが言っているのは
「なぜ政子がしゃしゃり出るのです」
「政に関わらないはずではなかったのですか」
であり、なおかつ父である執権殿(時政)を差し置いたことで憤懣やるかたないわけです。
それと
「自分だって散々引っ掻き回している」
と書くのなら、どこをどう引っ掻き回しているのか具体的に書いてほしいですね。