『武将ジャパン』大河コラム、後半部分の記述への疑問点です。
鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第37回「オンベレブンビンバ」
- BUSHOO!JAPAN(武将ジャパン)
https://bushoojapan.com/taiga/kamakura13/2022/09/26/171052
1.本作は、誰かが一つ間違えた瞬間がハッキリとわかります。
前回の稲毛重成も、その瞬間がありました。畠山重忠の惣検校職を与えると時政に持ちかけられ、一瞬乗り気になった。顔がパッと明るくなった。
ああいう反応をしたからには、稲毛重成が清廉潔白にも思えなくなる。罪に対して処罰が重いことは確かですが。
稲毛重成は、元々これに加担していた疑いありという説もありますし、何よりも重成でなくても、ああいう役職を与えると言われたらそれは乗り気になるでしょう。別に本作だけではなく、他の作品、仮に武者さんが批判している作品であっても、そういうシーンは少なからず出て来ます。
2.尼御台に知らせるか?と尋ねられると、「しゃしゃり出てくるからそれはいい」と憎々し気に返す実衣です。
彼女はどうにも尼御台こと政子の権力を軽視しています。いつまでも姉と妹でもないのに、どうにも危うい。
実衣は実朝の乳母ですから、その辺りの権限は強いのではないでしょうか。後に出て来る時元の不満(自分と実朝の待遇に差があり過ぎる)も、恐らくは、こういうところに端を発しているように見えます。
3.そのころ鎌倉では、のえが泰時の妻・初にマウンティングしていました。
なんでもどこかで京都の話をするようです、初が一生縁のない話だと返せば、まだ若いのに、と意外そうに答えるのえ。
彼女は夫に出世して貰いたくてたまらない。高い官職についてもらって、向こうで雅に暮らしたいようで、りくそっくりですね。
本作では、源頼朝や大江広元のように京都を捨てたらよいのですが、そうでないと危険であり……。
のえとりくとは違いますね。りくは伊豆の領主時代に結婚している以上、夫にはっぱをかけて出世させて来たところがあります。一方のえは、既に地位を得ている義時と結婚しており、それによって自分もそれなりの待遇をと目論んでいるふしがあります。
あと「京都を捨てる」と言うより、「如何に京都(朝廷)と距離を置くか」でしょうか、この場合は。
4.そしてここで注目したいのが、飲食物と食器です。
茶碗で茶を飲んでいると思われ、高坏には「点心」が盛られています。
点心というと、現代日本だと飲茶で楽しむ軽食としておなじみですが、この時代は、抹茶と共に中国から伝わった茶菓子を「点心」と呼びました。
(中略)
亀屋清永の「清浄歓喜団」は、香りが強烈ではあるものの、一度は味わう価値があるお菓子であり、『平清盛』に続いての大河出演と思われます。
義時が八重に片想いしていた頃は、軽食はせいぜい餅かドライフルーツでした。それがこんな茶と点心を楽しめるなんて、凄い進歩じゃないですか。
手にしている茶碗も、薄くて軽い、宋の白磁でしょう。
これが茶であれば、茶の話題がもう少し登場してもよさそうなものですが…。それはともかく、
「義時が八重に片想いしていた頃は、軽食はせいぜい餅かドライフルーツでした。それがこんな茶と点心を楽しめるなんて、凄い進歩じゃないですか」
時代が進歩したと言うよりは、そういうのを楽しめる身分になったということでしょう。庶民はやはり干し果物などを食べていたと思われます。この間の、政子が高価な紙を取り寄せる描写しかりです、一方で時政と時房は餅を食べていますし。
あと点心云々。元々点心とは、ここに出て来る茶菓子(私はあらすじと感想で揚げ菓子と書いています)のことで、
「亀屋清永の「清浄歓喜団」は、香りが強烈ではあるものの、一度は味わう価値があるお菓子であり、『平清盛』に続いての大河出演と思われます」
とも書かれていますが、ここの商品、以前やはりこのコラムに、坂東の食物との比較で出て来た覚えがあります。しかしその時は、比較としてあまり適切ではありませんでした。またこういうのを書きたいのであれば、あらすじとはまた別の記事で詳しく書くべきかとも思います。
ちなみに「清浄歓喜団」のURLです。
https://www.kameyakiyonaga.co.jp/year01.html
(亀屋清永サイト)
5.時元も、もう終わりましたね。悪い方向へ踏み出した。
人はなぜ教訓を間違えて学ぶのか?
時元は、父・阿野全成が頼朝生前に粛清されなかったことを教訓とすべきでした。彼は無欲であり、それで生き延びた。
この回で初登場の人に、「もう終わった」もないかと思いますが…実際乳母子である自分なら、もっと出世してもいいはず、そういう野心はあったでしょう。
6.彼女(注・実衣)はことあるごとに自分と政子の違いをわきまえず、軽んじるようなことを言ってきました。そんな母から政子とその子を軽んじる態度を学んだら危険でしかありません。
実衣はむしろ率先して政子親子を重んじる姿勢を、やりすぎと思えるぐらいに徹底すべきでした。
今となってはもう手遅れで……よりにもよって義村の前で本心を語ったことが、後々響いてくるでしょう。
既に前にも書いていますが、実衣は実朝の乳母です。頼朝に取っての比企尼、頼家に取っての比企能員と道の関係を思えば、大体察しがつきます。そして時元の実朝への待遇の不満が、後々響くとありますが、実際彼は実朝暗殺後挙兵して討伐されています。ただこれはあくまでも北条の視点であり、逆に北条は既にこの時、朝廷から将軍を迎える手筈を調えており、源氏の血を引く者たちは、その企てに邪魔であると言う理由で滅ぼしたという説もあります。
7.それにしても……義村は裏切ったのでしょうか?
彼はなんだかんだで、いつも義時についていることを踏まえれば、ある意味忠実といえます。
義村は美味しい立場にいます。
有力御家人として突出しているだけに、陰謀の助力を頼まれ、それを義時に売り飛ばせばうまい汁だけが待っている。
実によい位置を手に入れました。
頼朝生前は不満があったけれども、義時がそうなりつつある今は楽しくて仕方ないでしょうね。
この場合「裏切った」には
時政を裏切った
義時を裏切って時政につくが、その時政の言を裏切って義時に洩らした
の2つの意味がありそうですが、この場合は後者にも取れると思います。
そして有力御家人として突出しているということは、敵を作りやすく、その本人も時と場合によっては裏切り者として狙われやすいため、うまく世渡りをして行かなければ、生き残ることはできません。ですから、ただ単に「よい位置を手に入れた」とは言えないでしょうね。
8.時政が謎の掛け声を言い出します。
「オンベレブンビンバ~オンベレブンビンバ~」
どうしちゃったのかと実衣。ついに頭にきちゃったのかと声をひそめていると、なんでも「大姫のおまじない」だそうです。
これを唱えればいいことがあるとかで、政子も覚えていると自信満々。
「ウンダラホンダラゲー」
そして義時もまた覚えていると言い出し、真面目な顔で。
「ピンタラホンチンガー」
こうなると一同黙っていられないのでしょう。時房が「プルップルッ」と続き、政子が「ちょっと!」と止める。
実衣が集中して思い出そうとしています。
「ウンタラブーポンパー……違う。ああ、全成殿がいてくれたら」
「がんばって!」
「ウンタラプーソワカー」
「近くなったんじゃない!」
「プルップ!」
時房、プルプルはもういいから。
「ウンタラ……ウンタラクーソワカー」
それだ! それよ!
そう言い合いながら、義時はそれでいいと言い出します。
「ボンタラ! ボンタラよ!」
「ボンタラクーソワカー」
一同はそれだということで、何度も笑いながら繰り返しますが、正しくは「オンタラクソワカ」だとナレーションでツッコミが入ります。
ここの部分、かなり長いのですが、要は時政の「オンベレブンビンバ」が元々大姫が教えたまじないであり、本当は何であったかということで、その場にいた一同が、めいめい自分が考え出したまじないを出し合う場面です。尚、この後にナスの畑の話も登場します。恐らくこれが、最後の父と子の団欒であろうと時政も思っているわけで、楽しくもちょっと切ないシーンでもあります。
しかしその後の部分なのですが、
9.楽しいようで、決裂している北条家。
同じ言葉を聞いていても誰一人一致せず、間違った結論を出す。
これは感動的なのかどうか。
私にはあまりに酷いと思えます。
うーむ、どこをどう解釈したらこうなるのでしょうか。
「一致しない」「間違った結論」などと言われても、別にこれは北条が今度どうあるべきなのかといったシリアスな話題でもなく、あのまじないは何だったかな、これかあれかとみんなで談笑し合っているわけでしょう。
10.そして課題も見えてきた。
先程の会話で、のえが『源氏物語』を話題にしました。共通の認識としての教養があれば、話は通じ易くなる。
『麒麟がくる』では、駒、駒に伝えた光秀の父、駒の話を聞いた光秀が“麒麟”が何であるか共通認識があるから、話が進んでいました。
当時の北条一家にはそれがない。
だからこうして楽しそうに酒を飲んで浮かれはしゃいでいても、同床異夢に陥ってしまうのではないでしょうか。
さてこれもどうでしょうか。
互いが互いの意見を、さほどシリアスでない場で述べ合うのは別に悪いことでもないと思いますが。それとのえは、あの場で源氏物語や京都のことを話題に出そうとして、全然相手に受けていませんでした。あの場での共通の話題は、寧ろ実朝のことだったのではないでしょうか。
それとここでも『麒麟がくる』。もうこれは武者さんの病気と言うか、これこそ唯一無二の理想と言った作品であり、ことあるごとに、これを引っ張り出さないと気が済まないようですね。そしてその後で
11.人は、同じ血を引いているとか、愛があればわかりあえるほど単純でもありません。
教養、宗教の教義、そして法律など。人ではない“基準”を用いて頭の上に置くことで、意見の一致ができ、秩序が保たれます。
「人ではない“基準”を用いて頭の上に置く」て、具体的にどういうことでしょうか。要は一族だけという理由だけでは、寧ろしがらみもあって意外とばらけやすく、そのため、組織をまとめるための方針なり、法的基準なりが必要と言いたいのでしょうか。
12.源実朝が義盛の館から帰ろうとしています。
そのとき義盛が、鎌倉殿を「武衛」と呼びたいと言い出しました。唐の国では親しい仲を武衛と呼ぶと。誰から吹き込まれたのだと時元が言っています。
「そうだそうだ、みんな武衛だ」
そこへ三浦義村がやって来て、執権殿が心配していると実朝を連れ出します。
この場面では、哀しいかな義盛も悪い方へ踏み出しました。
義盛は勘違いした。
鎌倉殿という権力者と距離が近づきすぎた。鎌倉殿なら俺にいいようにしてくれるんじゃねえか。そう勘違いするようになりました。
まずここですが
「誰から吹き込まれたのだ」と言っているのは八田知家ですね。
そして、「そうだそうだ、みんな武衛だ」は、ここの部分だけ見ると義盛のセリフに見えますが、実は義村のセリフで、こう言いながら和田館に入って来て、実朝を連れて行くわけです。そもそも上総広常に「武衛」呼びを勧めたのはこの義村ですからね。しかしこういうの、原稿にする前にもう一度チェックして貰えないものでしょうか。
あと義盛は、登場シーンを観る限りそこまで色気を出していたと言うよりは、寧ろこの人の地の部分が出ていたように思います。
そしてこれより少し後の部分では、
13.そもそもが、あの「武衛」呼びだって義村のでまかせ由来です。
並の神経の持ち主ならば、罪悪感からか、やってやった満足感から自分が発信源だとこぼしていてもよさそうなものですが、それを義村はしません。
とあります。
ならば尚更義村がこのセリフを言ったことをきちんと書き、それに関連付けるべきでしょう。
14.たとえば今週のサブタイトル「オンベレブンビンバ」が出た時点で、推理合戦が始まりました。
検索をして何も出てこなかった時点で、私は放棄しました。イタリア語由来もありますが、これはありえないとわかります。
時代がもっとあと、戦国時代末期で、かつスペイン語、ポルトガル語、ラテン語由来ならあるかもしれない。
外国語の知識があるからには、登場人物の頭に浮かんでもおかしくはありません。
しかしこのドラマの人物では誰一人としてイタリア語を知らない。
ゆえに候補から外せます。
それでもこうした現象が起きるのはなぜか。
SNSでそういうことを呟き、誰かにハマれば拡散され、自己承認されたようで気持ちがよいでしょう。
しかし、そこが危険な気がするのです。
「オンベレブンビンバ」は、話の中身を理解するうえでさして役に立ちませんよね。
SNSではドラマをネタにしたハッシュタグも多く、画面写真を貼り付けた大喜利状態にもなっています。
このサブタイ、確かにネット上で色々詮索されてもいたようですが、皆も遊びでやっていたこともあり、そこまで目くじらを立てる必要もないかと思います。私は話題に上っていたオランダ語とイタリア語の組み合わせかと思いましたが、何だか不自然だから、あるいは仏教関係の言葉かなと思いました。それにこの言葉、放送前は何も登場人物が使っていると決まっていたわけではありません。そこまで突き詰めて考える必要もないでしょう。
それに皆楽しみながらやっているのですから、それをSNSでつぶやくなと言う必要もないと思うし、話の中身を理解するうえで役に立たないなどと言うのも、武者さんがそう思っているわけで、時政の心情が現れているなと受け止める人もいるのではないでしょうか。
そしてこちらは前半部分ですが、こういう記述もありました。
「義時が、今までで最も輝いているのではないでしょうか。
彼には邪悪な喜びも味わって欲しい」
一方で、これは一度過去の投稿で引用したものですが、武者さんは小檜山氏名義でこういうツイをしています。
https://twitter.com/Sei_Kobeee/status/1562261701617397760
「義時のなんちゃら」系のお菓子、一体何を味わえというのか!と怒りながらひっくり返したくなるな…。義時の心の味なんて、むしろ食べたくない。
何だか矛盾していますね。