『武将ジャパン』大河コラム後半部分です。
鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第19回「果たせぬ凱旋」 - BUSHOO!JAPAN(武将ジャパン)
https://bushoojapan.com/taiga/kamakura13/2022/05/16/168242
1.里は比企一族らしい。比企能員とその妻である道も、正攻法ではない手段で、利益を得ようとしていた。(中略)河越重頼の娘なのですが、ドラマでは父方の血統はすっ飛ばし、母方である比企の血を強調しています。
2.今年は殺陣にも気合が入っています。まだ武術の流派が確立するはるか前なので、荒々しい動きをし、迫力を出す。実にいい。最近の大河で「この俳優は剣道部に所属していた」という記述を見かけました。剣道の経験がないよりある方がよいとは思いますが、必ずしも当時を表現する上で相応しい動きになるとも限りません。(中略)漫画やゲームのような鮮やかすぎる殺陣になってもよくないんですね。その点、本作は、視聴者に中世日本らしさを想像させる、よい殺陣ではないでしょうか。
3.ムードメーカーの義盛が立つと、もう誰も拒めない。そしてそんな義盛に着火できる役目が、重忠にある。見事な連鎖反応が起きました。
4.いくら京都で人気だと言っても、肩を持っているのは戦に出なかった連中ばかり。一緒に戦った連中は、ついていこうとはしない。
5.もう一度あいつの元で戦いたいか?
否! 俺たちがそうなら、京都の連中もそうだろう。あいつをチヤホヤしている連中は、戦が何かわかってない連中だけだ。
とまあ、こんなふうに一点からどんどん手札を増やし、仮説を作り上げてゆきます。
ミステリだとシャーロック・ホームズが似た思考回路を使います。
日焼けして足を引きずっている医者となれば、アフガニスタン帰りだ!……簡単なことだよ、義時くん。
1、里が比企一族と言うのは、既に第13回で紹介されています。そして、土佐坊昌俊に静を暗殺させようとしているシーンですが、これを叔父と叔母である比企能員と、その妻道に重ね合わそうとしているのは無理がないでしょうか。そもそもこの当時、能員は頼朝の側近ではありましたが、そこまでの陰謀を企む人物ではなかったのですけどね。
「ドラマでは父方の血統はすっ飛ばし」
などとありますが、彼女のこのような行動が、本当に比企の血であると言い切れるのでしょうか。
2、「今年は殺陣にも気合が入っています」
前にもこのような記述を見た覚えがありますが、それぞれの大河で、それぞれの時代に応じた殺陣を指導しているだけだと思います。昨年しかり、一昨年しかりでしょう-一昨年の、ジャンプしながら相手を斬るのは違和感がありましたが。
それと
「最近の大河で『この俳優は剣道部に所属していた』という記述を見かけました。剣道の経験がないよりある方がよいとは思いますが、必ずしも当時を表現する上で相応しい動きになるとも限りません。」
吉沢亮さんのことでしょうか。剣道経験者ですが、剣術に不慣れな栄一をうまく演じていたと思います。ついでながら『花燃ゆ』の東出昌大さんも剣道経験者ですね。
3、「連鎖反応」とありますが、これは一つの物事がきっかけでまた別の物事が引き起こされるという意味で、この場合皆が上洛に同意したと言うか、コンセンサスを得たといったところでしょう。
4、義村のセリフを踏まえてでしょうが、「一緒に戦った連中」ではなく、その戦った連中の中の「命拾いした兵」にしてみれば、「無謀な戦ばかりの」大将にまたついて行こうとは思わないと言っていますね。要は懲りたということでしょうか。
5、「手札を増やし、仮説を作り上げて行きます」とありますが、義村自身従軍しており、京での噂も耳にしているでしょうから、義経とその兵たちについて、どのような状況であるか察しはついたでしょうし、多分に本人の経験によるものと思われます。あと武者さん、以前もホームズを出していたことがありますが(時代的に正しくありませんでしたが)、他のミステリも引用してはどうでしょう。それと
「日焼けして足を引きずっている医者となれば」
ですが、元々のワトソンは「左腕」を負傷しています。パスティーシュで左脚負傷となっているのはありますが。
6.ここまできて、やっと行家は自らが宿した死神に食われたのでしょう。
そんな行家と比べると、源頼朝という大物が義兄となっても欲に揺らがない北条義時は大した男です。ふるまいをわきまえた男に思えてくる。
ともかく源行家をいやらしく演じた杉本哲太さんが、お見事でした。彼がこの役で本当によかった。
7.綸言(りんげん)汗の如し。
天子の言葉は汗のようなもので、そう簡単にキャンセルできないということです。
ホイホイ撤回されるだけでは嫌で仕方ないので、せめてもの抵抗をしたのでしょう。こういうことをすると、権威が低下して信頼度も下げるため、禁じ手でもあります。
8.後白河法皇は、つくづくしみじみと、最悪だと思います。
彼は悪事を成し遂げようという思いはない。ただ、自分がエヘラエヘラしながら生きていければよい。
そのために周囲を平然と振り回します。プライドも何もあったものでもない。
(中略)
検非違使と受領を兼任しても別にいいし。宣旨なんて出して引っ込めて、引っ込めて出して……それでいいもん。
こんなルールも何もあったものじゃない相手に、まっとうな大人は対処ができません。
そしてそういうことをするから、武家の政権が成立することもわかる。
自分のことしか考えられない幼稚な人間は、実に罪深いことをやらかすものです。
9.お二人(注・西田敏行さんと鈴木京香さん)は奥州、つまりは福島県と宮城県の出身。後白河法皇当人の時代には、それこそ野蛮とみなされた場所の出身なのです。そんなお二方が京都に生まれ、人々を手玉にとる側を演じている。歴史っていうのは皮肉だと思いますし、痛快爽快なキャスティングだと思えます。
10.法皇と行家は、悪とは何か?ということを考えさせてくれる、秀逸な人物像でした。
流石にこの二人と並べるとかわいそうだけれども、里も悪い。
あの襲撃計画についてきっちり素直に説明して謝罪すれば、ああはならなかった。自己保身のために破滅します。
八重の言葉が真実をついていると思えます。
信じられないところが子ども以下としか思えない――そんな醜い大人が事態を悪化させてゆくのです。
6、まず行家と義時ですが、この両者は経歴も違うし、育った環境も異なっていると思われ、その2人を単純に比較はできないでしょう。逆に頼朝が義兄である以上、あまり差し出がましい振舞いはできないのではないでしょうか。義時の場合元々の性格に加え、それが寧ろ幸いしたとも言えますが。
7、「天子の言葉は汗のようなもので、そう簡単にキャンセルできないということです」
もう少し詳しく書いて貰えないでしょうか。一度汗が出たら体内に戻れないように、天子の言葉は一度口に出してしまえば、取り消せないということですね。それと今回も時折漢語を出して来ていますが、その前にドラマをきちんと観て、セリフを間違えないようにしてほしいと思います。
8、これは驚きですね。当時の宮中には様々な勢力がうごめいていたため、そのバランスを取るだけでも大変だったのではないでしょうか。実際あくの強いこともやっていますが、なぜ法皇がそうせざるを得なかったのか、そのことに関する考察が見えて来ません。単なる悪人扱いで、幕末大河の西国諸藩の志士、あるいは水戸藩関係者に対する視線と同じと考えていいのでしょうか。
9、もっと驚いたのがこれです。これはキャスティングをした側にも、俳優さんたちにも失礼ではないかと思います。三谷さんのことだから、この両名を今までと違った雰囲気で、人を手玉に取るようなイメージで面白く描きたいというのはありでしょう。
しかし
「奥州(中略)後白河法皇当人の時代には、それこそ野蛮とみなされた場所の出身なのです」
などとわざわざ書く必要があるでしょうか。そしてそれだけ武者さんに取っては奥州が大事な存在なのに、奥州藤原氏がやっていた北方貿易を日宋貿易などと以前書いていましたが、あれは一体何だったのでしょうか。
10、「法皇と行家は、悪とは何か?ということを考えさせてくれる、秀逸な人物像でした」
6でも義時と行家を比較していますが、流石に法皇と行家も単純比較はできないでしょう。何よりも、法皇を悪としてしか見られないというのがどうなのかとは思いますが。そして無論里も、同列に論じることはできません。彼女の場合は、どう考えても静憎しの思いがああさせたのではないでしょうか。
そして
「八重の言葉が真実をついていると思えます」とありますが、彼女に取っては子供たちの行動が基準であり、それのみですべてを判断することは当然できないでしょう。
あともう少し突っ込みたい部分はあるのですが、それは次の投稿で。