『応天の門』、この間の投稿から2か月以上経ってしまいました。長岡京を訪れた道真と業平ですが、そこで、青海尼と名乗る尼僧に出会います。
*************************
指の間から黄金や米を出し、村人に施す青海尼に業平は見覚えがあるようだった。そんな業平に道真は、まさか尼にまで手を出しているのかと気色ばむ。しかし業平は、彼女の香の匂いに覚えがあっただけだった。青海尼は業平の牛車の牛まで自由に操り、2人に背を向けたままその場を去る。やがて菅原家の別荘では、桂木(菅原家の女官柏木の姉)と下男が出迎えてくれた。業平は下男に馬を準備させ、水を飲ませた後門前につないでおくように命じる。
道真は、業平の鷹狩は翌日の予定であると聞いていたため、このことを不審に思う。そして業平と道真はまたも連れだって出かけるが、その場に猪が現れる。このため道真は落馬し、腰を打った上に、馬が走り去ろうとする。するとあの青海尼が現れ、馬を鎮めて一同を驚かせる。青海尼は道真が指摘した通り、吉草根(カノコソウの根)の香りで馬を落ち着かせていた。業平からどこの寺にいるのか尋ねられた青海尼は、自分は遊行の身だと答える。
そこで道真は、この辺りは野生動物も多いことから、自己紹介をし、菅原家の別荘にお泊めしたいと申し出る。青海尼はそれを承諾し、業平はいつからそんなに信心深くなったと訊かれる。しかし道真の真意は信心ではなく、なぜ遊行の尼僧にふさわしくない高価な吉草根を持っているのかということ、そして、馬を鎮めた時の身のこなしが普通の尼僧ではないこと、この2つの理由を知りたかったのだった。
柏木と下男は、青海尼をまるで仏でもあるかのように迎え入れ、道真は傷の手当てをして貰いながら、柏木にその理由を尋ねる。柏木は青海尼は御仏の化身、生き神様であると言う。実際下男も、青海尼が起こした不思議な出来事を業平に話して聞かせる。また年齢は二百歳とも言われ、道真がそれを否定すると、柏木は本気になって腹を立てた。
青海尼は元々仙女の血を引くと言われ、1人の時もあれば、御仏の守りの化身である、瓜二つの童女を連れている時もあった。さらに村が危機に瀕している時には、必ず現れるとも言われていた。青海尼は薄粥と白湯を口にしただけで休んだと柏木は言い、物は食べるのかと道真は納得する。さらに彼女が神仏であれば、この傷も治してほしいと言う道真に、柏木は、御仏のお力があればこそこの程度で済んだと答える。結局尼の前で殺生はできないと、業平は鷹狩を延期し、また青海尼が不老不死の美女であることから、かの国師と尼とがだぶって仕方ないようだった。
その後業平は道真の許を訪れるが、道真は急にこれを見てくれと右手を突き出す。道真は多少手こずっていたようだが、やがて指の間から砂を出して見せた。道真によれば、要は青海尼は固めた穀物や砂金を握り、指でほぐすことで、あたかも米や黄金が出て来るように見せているのだと言い、かつて昭姫が同じようなことをしていたと話す。しかも芸として見せるのではなく、単に貧しい者に施すなら、何もこのようなことをしなくても、米や金を与えればいいわけで、道真はその点に引っ掛かっていた。
その時京から早馬が来た。宮中で諍いがあり、源融が重傷を負ったと言う。一命は取り留めたものの、すぐ業平に戻ってきてほしいという知らせだった。
***********************
さて青海尼、如何にも霊験あらたかといった振舞いで、村人の尊敬と信頼を集めています。別荘の柏木と下男に取っては、この尼はさながら生き神に等しい存在のようですが、それが道真は気になって仕方ないようです。しかも尼が行っていた「奇跡」は、昭姫の手品と似たようなものでした。なぜこのようなことをするのか、そして高い吉草根をなぜ持っているのか、馬の扱いに慣れているのはどうしてなのかと疑問に思う道真。
そして業平もまた、この尼と国師が似ていることが気になるようです。以前嗅いだ香りと似ているというのは、国師の香と同じであるとも考えられます。さらに道真が、恐らくは青海尼が使っている手品のからくりを見せた時、京から早馬がやって来ます。源融が宮中の諍いで、重傷を負ったということでした。何やら血なまぐさい事件のようですが、このことと青海尼、そして国師は何か関係があるのでしょうか。