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天文18(1548)年。駒は東庵の家を出て、音曲のする方向へ向かっていた。そこには旅芸人の一座がいて、駒は男たちが張っていた綱をするすると渡り、喝采を浴びる。東庵はその様子を見て呆気に取られるものの、座長の伊呂波太夫と久々の面識を果たす、一座が京に戻って来たのは5年ぶりで、途中尾張でも芸を披露し、信秀が東庵から双六で勝ち、10貫を巻き上げたことも知っていた。ただ美濃は野盗が出るため立ち寄っていなかった。駒は、昨年美濃に半年間いたと太夫に話す。
伊呂波太夫と東庵の会話には明智光秀の名も出て来た。かの松永久秀がそのように言っていたと言う。その久秀は、実質的に京を動かしていた。東庵は駒に、太夫は顔が広いと言うが、太夫は東庵こそ公家の間で有名であると口を挟む。しかし駒はどこか上の空で、太夫はそんな駒を外に連れ出して団子を食べる。駒はかつてその一座で、太夫とは姉妹のようにして育てられており、滅多に弱音を吐かない子だった。駒は好きな人が遠くに行ってしまい、それでどこか気が晴れないのだと話す。
つらいことがあればいいこともあると慰める太夫に、駒はいいことが1つあったと打ち明ける。子供の頃自分を助けてくれた侍が、美濃の人物であったことがわかったのだった。太夫はその侍の持ち物に桔梗紋があったことを教える。駒は地面に、牧から貰った扇の桔梗を描いてみせ、太夫はうなずく。駒は一目散に東庵の家へ戻り、仕舞ってあった例の扇を取り出して涙をこぼし、自分を救ってくれたのは明智の人物だったことを悟る。
その年の11月、安城城に今川軍が侵入して城主織田信広(信長の異母兄)を捕らえた。明智光安と光秀は、尾張で何かある度に道三に呼びつけられるようになっており、その日も登城したところ、信広と竹千代の人質交換を信秀が言って来たと言う。しかし竹千代を渡せば、三河は実質今川の支配下となり、尾張は虎のそばの猫の如く、おびえて暮らすことになりかねなかった。このため盟約を見直す必要があり、光秀は表向き帰蝶に会うことにして、探りを入れるように命じられる。
末森城では、信広を見殺しにできない信秀と、信長の間で意見が対立していた。信長は兄は戦下手であり、自業自得だと言ったうえで、竹千代は渡さぬと言う。この信長の態度に信秀は戸惑い、土田御前は怒るが、信秀はわずかな器量の良しあしで変えてはならぬと妻を制する。一方熱田に着いた光秀は、菊丸から味噌を仕入れ、那古野城へと運ぶ。菊丸は竹千代が那古野城に移されたと言い、探りを入れるが光秀は知らぬ存ぜぬだった。光秀は、今川と織田どちらに竹千代がいるといいのか尋ねるが、菊丸はどちらでもいい、どこからも指図されない国を将来作り上げればいいと答える。
光秀は帰蝶に目通りし、まず味噌を運ばせるため人払いをした後、光秀に向ってこの尾張行きの本音を突く。そこへ信長が農民のような姿で、獲物の猪と、帰蝶の土産に野の花を持って帰って来た。信長はいきなり鉄砲を取り出し、どこで作られた物か当ててみよと命じる。光秀は美濃の国友村の物だと答えて信長を感心させる。また信長は以前熱田で光秀に会ったこと、その熱田行きは帰蝶に命じられていたことなどを話し、さらに母を喜ばせようとして釣を始めたが、喜ばれたのは最初のうちだけであったこと、しかし漁師たちが褒めてくれるためそれが楽しいといったことを話して聞かせる。
すると近習が来て、昨日この城に入った竹千代が目通りを願っている旨を伝える。竹千代は将棋の駒と盤を持って現れたが、信長は乗り気ではなかった。竹千代はそんな信長に父が討ち果たされたことで、気づかいしているのかと言い、自分は母を離縁した父は嫌いだった、討ち果たされたのは仕方ないと言う。そうして将棋が始まったが、信長は光秀を呼び止め、もう少しここに滞在しろと言い、宿のための金を工面してやろうとする。帰蝶はそんな信長を、ようわからぬお方と言い、光秀に何かと相談するやもしれぬと言う。
一方味噌を一緒に運んだ菊丸は、既に帰っていた。しかしそれは嘘で、三河の間者でもある菊丸は、信長と竹千代の人質交換の話をし、竹千代がいずれ今川は打つべき、ならばその懐に入りたい、敵を討つには敵を知ることとまで言い、信長が迷うなら自分はどちらの人質でも構わぬと言う。
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『サウンド・オブ・ミュージック』に「ひとりぼっちの山羊飼い」という曲が出て来たのを思い出しましたが、それはともかく。冒頭からいきなり駒、東庵、伊呂波太夫と架空の人物のシーンが15分ほど続きますが、あれ、もう少し短くできなかったものでしょうか。やはり池端氏が脚本を手掛けた『太平記』と似たような展開にしたいのかもしれませんが、こちらはいくらか実在の人物(足利高氏、佐々木道誉、楠木正成など)も絡んでいたかと思います。そしてここで、駒を助け出した侍というのが明智の人物であることがわかりますが、ここもセリフ中心でストーリーが動いている感があり、ちょっと物足りなく感じます。
そしてまたも光秀が、今度は道三の命令で、盟約見直しのため熱田に行かされます。ここで菊丸の味噌を仕入れ、表向きは帰蝶に会いに行くとして様子を見に行くわけですが、何だか架空の人物、また主人公とはいえ当時の記録がない人物が、悉く間者もしくはそれに近い存在になっているようにも見えます。
ともあれ菊丸と共に那古野城へ行くものの、その菊丸は早々と帰ってしまったことを光秀は知らされます。しかしこれは嘘で、三河の忍びでもある菊丸は天井裏に潜んで、信長と竹千代の話を盗み聞きしていたのでした。こうなると、光秀に「竹千代がどちらに付こうがどちらでもいい」と言ったのも建前のように感じられます。
その竹千代ですが、この年齢にはふさわしからぬ大人びた言葉を並べます。母を離縁した父は嫌いだ、討ち取られて当然だなどとまで言い、さらに今川を討つために懐に入るとまで言ってしまうのですが、これはちょっと後世からの視点が入っているようにも取れます。しかし岩田琉聖君、よくこれだけのセリフ覚えましたね。
尤も今川義元は何と言っても海道一の弓取りであり、その今川を非力な松平が倒すとは、仮にこれが子供の考えであったとしても、ちょっと難しかったでしょう。あるいはこの話を聞いて、後年信長が竹千代の手助けをする形で、桶狭間の奇襲を仕掛けることになるのでしょうか。しかし竹千代、後の元康さらに家康は、今川の太原雪斎に教えを受け、正室築山殿まで紹介してもらうことになりますし、果てはその正室を離縁どころか、殺してしまうことにもなるわけなのですが。
信長が「ようわからぬお方」と帰蝶の目には映るようですが、要は両親から嫡子としてそうよく思われていない、しかし自分は認めてほしくて、大きな魚を釣って帰るというのは、ある種の承認欲求なのかと思ってしまいます。話し相手や相談相手がほしい、そしてそういう相手の前では自分をさらけ出せるという思いがあるようです。ただこの土田御前の思惑、信長と信勝を巡るお家騒動的なものでもあるのですが、その部分は前面に出て来るのでしょうか。あと久々に鉄砲が出て来て、光秀がこれは国友村の物だと言いますが、ちょっと唐突感があります。
ところで竹千代の大人びた姿勢、相棒好きとしては、やはり染谷さん出演の「目撃者」を思わせるものがあります。カミュの『異邦人』をどう思うなどと亀山薫に訊いて、亀山がこましゃくれたガキだと言っていますね。さらに信長の、一度顔を見たら忘れないというのには、「平成の毒婦」遠峰小夜子を思わせるものがあります。所謂「相貌認識能力」に優れている人物(ス-パーレコグナイザー)です。
それからこれはお知らせですが、今まで週1回アップしていた『麒麟がくる』関連投稿を不定期にします。一応10回観て来ましたが、段々放送時間が長く感じられるようになり、馴染めない部分もあるため、ちょっと悩んだものの少し間隔を空けて、ざっとした感想程度を投稿することにしました。無論ドラマの舞台には興味がありますし、好きな登場人物もいるので、視聴を止めるわけではありません。もし視聴を止める場合は、別途お知らせします。昨年は視聴を途中で止めたので今年は続けたいのですが、これは今後のドラマの展開次第になりそうです。