以前3名のスポーツライターの記事を比較したことがありました。今回はその内の2名、生島淳氏と戸塚啓氏の、ワールドカップ前とワールドカップ決勝トーナメント、それぞれの南ア戦の『NumberWeb』の記事をご紹介しておきます。そのため、リンクが多くなっていることをお断りしておきます。個人的には、やはり戸塚氏の記事の方が受け入れられます。
まず生島氏の記事からです。
まるで日本攻略のための「教則本」。
ラグビーW杯直前の南ア戦は正解?
ベスト8の戦いはやはり未知だった。
南ア戦でジャパンが持ち帰った経験。
生島氏らしいといえばそうですが、ワールドカップ前の南ア戦の記事、試合を忠実にレポートするというよりは、自身のブログ投稿あるいはエッセーのような、決めてかかるが如き姿勢がどうにも気になります。しかもリーチ主将の
「本当にこの試合をやってよかったと思います。改めて世界の強さ、ティア1の圧力が分かりました。ジャパンのディテールの精度が落ちた時にやられたので、そこを修正していきたい。このチームは修正能力が高いから、大丈夫」
というコメントに対し、主将としてはこう答えるしかないと言うにとどめ、このコメントに見られるキャプテンとしての気負いも、本番に向けての姿勢も一切触れないまま。そして最後のこの文章、
「ああ、それにしても対戦成績を五分に戻されたのは、なんとも悔しくて仕方がない。」
何やら、2015年大会の南ア戦の白星(それはそれで評価すべきものですが)を引きずり過ぎではないかと思うのですが。この試合でケガ人が出たことについての「だから言わんこっちゃない」もやはりどうかとは思います。
それに比べると、ワールドカップの南ア戦の方はもう少し抑えた感はあります。しかし最初から南アを出してくる辺り、勝った側の南アの視点という印象を受けましたし、恐らく、生島氏があまり評価していないであろうジョセフHCの名前は登場しません。
それにしても
「後半の後半に南アフリカはバテるはずだ。行けるのではないか」
と本気で考えていたのならちょっと疑問ではあります。寧ろ後半の途中までは五分で、日本を突き放したのはその後半の後半でした。
それと稲垣啓太選手の「やることいっぱいありますよね」というコメントを紹介しつつ、本番前のテストのリーチ主将の言葉にはいささかそっけない印象だったのもどうかなとは思います。また最後の、4年後にいないメンバーの中に「田村」とありますが、彼は引退を発表してはいないと思うのですが。
では戸塚氏です。
南アフリカ戦完敗に悲観は必要ない。
W杯前にジャパンが確認できたこと。
涙も年齢も力の差も受け止めて。
田中史朗が若者に託す「もっと上」。
生島氏の記事の後に戸塚氏の記事を読むと、試合運びが具体的に語られている分、すんなり入り込むことができます。ここではまずリーチ主将のコメントを最初に持って来て、それから試合展開、田村優選手のコメントの紹介、ジョセフHCのスクラム評価(この試合では南アに押し負けなかった)、中村亮土選手のプレイなどにも触れられています。田村選手も当然というか「ティア1と日本との違い」を指摘しています。そして最後に福岡、マフィ選手の負傷及び合宿中に負傷した堀江、姫野両選手にも言及していますし、負傷は大したことはないと、期待を持たせた形で締めくくられていて、ネガティブな気持ちに染まる選手はいないという表現と呼応しています。
負傷した選手に関しても、この人は間違っても「だから言わんこっちゃない」などという表現は使いません。対戦成績が五分に戻されたとも、無論この南ア戦は正解だったのかなどという表現もありません。冷静に見極めれば結果は妥当とあり、しかも悲観は必要ないと、チームの背中を押す形に仕上がっています。
南ア戦の方は、田中史朗選手をメインにした展開になっていますので、生島氏の記事と単純に比較することはできません。ただ
「時間の経過とともにスコアを広げられて」
とあり、時間が経つに連れて南アが有利になったことはちゃんと書かれています。この記事にもジョセフHCは登場しませんが、田中選手によって語られる「今回こうやって世界と戦えることを証明できた」に、ジョセフ体制になってからの強化の在り方を感じ取ることはできます。無論田中選手がスコットランド戦と南ア戦では出番が少なかったことも、本人の口を借りて伝えられていますし、またワールドカップ後、キヤノンで田村選手とタッグを組む点も最後の部分で触れられています。
尚生島氏の、スコットランド戦関係の記事でもう一つ、
宿沢さん、これが2019年の日本です。
スコットランドに挑み続けた30年。
https://number.bunshun.jp/articles/-/841111
この中で
「しかしこの夜ばかりは、ジェイミー・ジョセフという指揮官を信じていい気がしていた。」
とあります。要はスコットランドに勝てるという予感がしたということなのでしょうが、生島氏の場合、やはりジョセフHCをあまり買っていないのだろうなというのが、この一文で裏付けられるようにも思えます。
生島氏も宿沢氏やエディ・ジョーンズ氏は評価していると思えますし、その姿勢を示すかのように、生島氏のワールドカップ終盤の記事はジョーンズ氏関連が目につきます。
しかしこれで不思議に思う点があります。それは、2003年のワールドカップのスコットランド戦に触れられていないことです。この時は向井昭吾氏が監督で、もちろん勝ててはいません。しかし日本代表の異名であるブレイブ・ブロッサムズという呼び名は、このスコットランド戦での健闘で生まれたこと、さらに宿沢氏がこの時強化委員長を務めていたことを考えれば、いくらかでも言及してもよかったかとは思います。
これらのかなり趣が異なった2つの記事は、メディアの企画としてはうなずけます。しかし戸塚氏の衒いのない記事に共感を覚える身としては、似たようなテーマの、しかも対照的といえる生島氏の記事にはやはり違和感を覚えざるを得ないのです。
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