和都は221Bでシャーロックと同居を始めますが、常人とは違ったやり方に戸惑います。一方ゲイブルズ美術館の展覧会で、舞原鞠子所有の幸子像が悪戯書きの被害に遭います。この裏には額縁を巡る数名の思惑がありました。
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シャーロックとルームシェアを始めた和都は、波多野君枝に手伝ってもらい、張り切って朝食を作っていた。しかしチェロを弾いていたシャーロックは、にべもなく朝食は要らない、コーヒーだけでいいと言い、さらに221Bで生活するためのルールをプリントアウトして渡す。それには勝手に朝食を作らない、コーヒーは82度のお湯で淹れろ、片付けはするななどといったことが、何ページにもわたって書かれていた。そこへ君枝の友人、舞原鞠子がやって来る。かつて骨董品の売買に携わっていた亡き夫が、20年前の銀婚式に買ってくれた岸田実篤の「幸子像」を、美術展のため貸し出していたところ、いたずら書きをされたというのである。
そのゲイブルズ美術館で、幸子像にヒゲを描いた男は、逃げる途中トラックにはねられて意識不明だと言う。シャーロックは、その男が身分証明となる物を持たなかったことから、名作にいたずらをしたことをひけらかすのでなく、単なる実行犯であると睨む。また手に53と書かれていたが、それは幸子像の作品番号だった。鞠子は美術館警備の点で苦情を言い、同行したシャーロックと和都は、柳沢英介なる画商がその絵を買い取りたいと申し出たが、鞠子が断ったことを知る。幸子像は修復されることになり、その後シャーロックと和都は甘味処で会話をしていた。シャーロックは自分が頼んだ菓子には手も付けず、和都のあんみつを食べたがっていた。その後和都はカウンセリングで入川真理子を訪れ、生活環境が変わったことと、それによるストレスについて話す。
その後柳沢が飛び降り自殺をしたことがわかった。礼紋と篠田は柳沢の画廊を訪れるが、そこへシャーロックも現れる。目撃者によればその時不審者はおらず、また柳沢のデスクには睡眠導入剤があった。シャーロックは、犯人が柳沢のオフィスを密室のように装い、それを飲ませて殺した、つまり他殺と断定する。犯人は睡眠導入剤を飲ませた後、屋上の縁に寝かせて、柳沢が目を覚ました時点で落ちるようにしていたのである。そのため柳沢の遺体の背中には白の塗料が付着し、しかも屋上には、犯人が落としたものと思しき破片が落ちていた。さらに柳沢のデスクには、ストラディヴァリウスの本もあった。礼紋はこれから人間ドックに行くといい、シャーロックの要求を篠田にまかせる。
篠田はシャーロックに頼まれ、美術館付近でピアスを探す。実行犯の男の耳にはピアスの跡があった。やっと見つかったピアスはカスタムオーダーで、その男は美術関係の運搬のフリーター、来島であることがわかる。一方で柳沢が絵を買おうとしたのは、貴倉リゾートの社長森岡から依頼を受けたためだった。この会社は強引な開発をするので有名だった。犯行当時は創立記念パーティーに出ていたと言うその社長は美術品収集家でもあり、オフィスの踊り子の絵を見せる。和都は221Bで、あの幸子像は岸田実篤の最期の作品であり、それが如何にもロマンチックだと感じるが、シャーロックは愛人がいた罪滅ぼしとか他にも理由がある、あなたは本当に単純だと言い、和都の服装やメーク、メールチェックの習慣などから男っ気がないことを決めつける。
歩きながら自分の推理を和都(貫地谷しほり、左)に話して聞かせるシャーロック(竹内結子)
(hulu公式サイトより)
シャーロックが屋上で見つけた破片は、植物樹脂のマニラコーパルであることがわかる。それは幸子像を修復している、桑原のアトリエにもあった。桑原は絵を売るため、好きでもない絵を描いており、個展の予定が立ち消えになったことを2人に話す。また犯行時はコンビニに行ったので、アリバイがあることを話した。シャーロックと和都は、221Bでピザやら中華、寿司を並べて食べながら、木島と桑畑と柳沢が、裏でつながっていると語り合う。そして、柳沢が殺された背景にはストラディヴァリウスの存在があったことも浮かび上がる。その時ゲイの大柄な男が現れた。この男は、贋作犯人探しでシャーロックと知り合った、ミッキーと呼ばれる鑑定家だった。贋作家の本職は修復家というミッキーの言葉に、和都の脳裏にあることが閃く。
翌日桑畑のアトリエを訪れた和都は、その幸子像は贋作だと言い、ミッキーに鑑定を頼む。しかしそれは本物だった。桑畑は腹を立てながら絵を梱包するが、シャーロックは別な視点から、この事件の本筋が何であるかを理解する。そして2人は鞠子を訪れ、売買記録を調べる。片や桑畑は梱包した幸子像を貴倉リゾートに持参し、自分のバックアップをしてもらうように念を押す。桑畑はかつて、柳沢から約束を反故にされた経験があった。しかしそこへシャーロックと和都が現れた。実は桑畑が持参したのは絵ではなく、額縁の方だったのである。その額縁はアントニオ・ストラディヴァリが作ったもので、貴倉リゾート所有の、バイオリンに合わせて踊る踊り子の絵につけられていた。しかし、歳月を経るうちに絵と額縁は離れ離れになって行った。
貴倉社長は幸子像にその額縁がつけられていたことを知り、幸子像にひげを描く役割を木島に命じて、本来は柳沢が桑畑に個展を開かせるのと引き換えに、額縁のみを踊り子像を保有する貴倉リゾートに戻す予定だった。要するに額縁のすり替え工作だったのだが、シャーロックは桑畑に、貴倉に頼んでも支援なんかしてくれないと言い、さらにこうも言う。
「売れる画家を夢見るのはいいけど、もう少し人を見る目を磨いた方がいいんじゃない」
貴倉と桑畑は警察に連行され、最終的に絵も額縁も鞠子の許に戻った。シャーロックは部屋で一人、チェロで『バッハ無伴奏チェロ組曲 第1番 プレリュード』を演奏していると、君枝がやって来て、鞠子は絵の価値を共有するために再びそれを貸し出したと話す。今度は鞠子自身が自分が幸子像の監視員となった。そして和都はカウンセリングで、真理子にこの事件のことを話す。
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ゲイブルズ美術館という美術館名、そして依頼人が「舞原鞠子」でしかも裕福な未亡人という点などから、『三破風館』の影響が感じられます。2作目ということもあり、シャーロック・ホームズの聖典中に登場する
あなたは見るだけで観察してない
ある問題からありえないことを排除して行けば、残った物が真実
が、この中で登場します。
その他にも、自分と同居するためのルールとして、あれこれ細かい要求を押し付けて来るーしかも、和都が頑張って作った朝食まで無視するーシャーロックに、流石に和都もストレスが溜まってはいたようです。さらに岸田実篤(岸田劉生+武者小路実篤?)に関しても、とかくロマンチックな感情に浸りがちな和都に対して、ずけずけとこう言います。
「そういう感情的な物は冷静な理性の邪魔をする」
しかしストラディヴァリといえば、正典でもホームズがここのバイオリンを弾く場面があります。シャーロックのチェロもそれを踏まえてのことでしょう。
ところでこのエピソード、ちょっと『相棒』シーズン15の「ブルーピカソ」を連想させます。こちらの方はといえば、オークション会場である画家が自作を駄作呼ばわりし、オークションを拒否します。しかしその本人が転落死し、警視庁が捜査に乗り出しますが、この画家と、オークション会社の社長との間に確執があったことが判明します。さらに今度はピカソの「青の時代」の作品とされる絵画が、かつて贋作とすり替えられていたものだとわかります。これに関しては本物の可能性が高いと、オークション会社の社員は主張するのですが…。これも録画していたと思いますので、もう一度確認のために観てみようと思っています。