では第12回「人質」のあらすじです。信繁が上杉景勝の元へ人質として行くのみならず、梅の妊娠と出産もあり、いっぽう昌幸への刺客作戦が失敗した家康は爪を噛んで、阿茶局にたしなめられます。
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室賀正武を返り討ちにした昌幸は、小県を平定した。そして信繁は上田城の櫓で、きりに祝言の夜の言葉の礼を述べた。この先を決めかねていた信繁だが、きりはどこまでもついて行くとおどけたように答える。一方家康は小牧・長久手の戦いで羽柴秀吉に実質勝利したものの、真田への刺客作戦の失敗により、北条への沼田領を取り戻そうとしていた。もし北条を敵に回せば、西に羽柴、東に北条とという強敵のはざまで、窮地に陥ることになるからだった。家康は真田が上杉につくことを考え、先手を打とうとする。
実際昌幸は何度も上杉に書状を送っていたが、期待するような返事は得られなかった。背後を突かれないためにも、上杉とは友好関係を取り戻したかったのだが、ならば人質を送るようにといわれてしまう。そこで信繁に白羽の矢が立った。信繁は父昌幸とはしばらく離れたいと考えており、また人質だからこそできることもあると口にする。さらに、上杉景勝という人物に好意を持っていることから、生まれてくる子の顔を見るためにも生きて帰ろうと決意して、三十郎と旅立って行った。
信繁に、もしもの時には、立派な真田の男として子を育てるようにいわれた梅だが、実は彼女もまだ妊娠を確信していなかった。しかしそう言わないと、信繁がいつまでも決心しないと考えており、これはいわば梅の策であった。きりはそれを聞いて驚く。そして信繁と三十郎は春日山城に到着するが、城には陳情に訪れた漁師たちが数多くいて、信繁たちは、漁師の治兵衛と又吉の次に、景勝に目通りを許されることになった。
景勝はかつて春日山城を訪れ、薙刀部隊に囲まれつつも自らを主張してみせ、また先代の謙信が唱えた「義」の戦いを、戦芝居によって実現した信繁に好感を抱いていた。義を忘れた人物はどうなるのかと問う信繁に、景勝は織田信長を例に挙げ、死に方は生き方を映す鏡だと教える。しかし上杉家の家老、直江兼続は、沼田城は元々上杉のものであるとして返上を迫り、父昌幸の書状で信繁はそれを知る。もっとも景勝自身はそれには関与しておらず、兼続に掛け合うと約束する。信繁は、真田の本気度を示すために、兼続がわざとこのようなことをしているのではと疑うが、景勝は、その用心深さが上杉を支えて来たのも事実であることを認める。
その後、景勝が話を聞いてやった治兵衛と又吉の判決が、まだなされていないことがわかる。景勝は漁民の言い分を聞くものの、その処理が戦続きのせいもあって追いつかない。しかも兼続は沼田城を渡さないのであれば、真田と同盟する必要はないとまで言い切る。そんなある日、春日山城から外を眺めていた景勝は、信繁に、直江津の港をかつての姿に戻したいと話し、三十郎共々馬で城下に出る。しかしある神社の前で、治兵衛と又吉がまたもめているのを見て、信繁と三十郎は馬を下り、景勝に顔を隠すように自分の笠を渡す。
2人は鉄火起請、つまり赤く焼けた鉄の塊を手で持ち、指定された位置まで運ぶことでの決着をつけようとしていた。しかしこれでは正しい裁きは得られないと信繁は言い、それに反発する奉行に、ならば私とあなたでやってみようと持ちかける。そして、信繁が鉄の塊を持とうとした時、景勝が進み出る。お屋形様直々の登場に一同は驚くが、これは自分に責任があること、そして治兵衛と又吉が漁でもめている件にも解決策を与え、2人を大いに喜ばせた。景勝は国づくりや兵の育成のためにも、民の声を聞くことが大事であると悟り、信繁のような息子がいればと望むようになる。上杉と真田の同盟は結局うまく行き、沼田と小県は真田領として認められた。
しかし真田から手を切られた家康はこれに怒る。自分に味方していた真田があっさり裏切ったため、いわば、自分の金で敵に城を与えたようなものだったからだ。すると阿茶局がこう口にする。
「お潰しになっては如何です?」
家康は、鳥居元忠率いる兵を上田城に向かわせた。上田合戦の始まりである。その上田城では、梅がすえという女児を出産し、その一方で人質ながら父や兄の加勢を許され、しかも少人数ながら上杉の援軍を得ることができた信繁は、三十郎と共に海津城へ急ぐ。
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上杉へ人質として赴くものの客分の扱いを受け、しかも景勝からはかなり気に入られると同時に、自分の子供も誕生して、人質ながらかなり充実した日々を送る信繁です。しかし家康にしてみれば刺客は殺されるわ、自分が建てたはずの上田城が、自分に矛を向けるための真田の砦となってしまうわ、しかも上杉と手を結ばれるわで、結構散々な目に遭ってしまいます。そこへ阿茶局の「潰してしまえば」は決定打となったといっていいかもしれません。しかもその上田で昌幸に策を弄され、徳川軍は窮地に陥ってしまうことになります。
しかしこの温厚な景勝と切れる兼続のコンビは本当にいいです。この2人を主役に、『天地人』リメイクは無理でも、スピンオフを作ってほしいほどです。そういえば以前『天地人』の真田幸村に関して書いたことがありましたが、もう1度この回と比較したうえで書くかもしれません、とにかくあまりにも違いすぎますので。