『花神』DVDの最終巻である第四巻を観て。この巻は高杉晋作の葬儀から始まります。まず思想家である吉田松陰が現れ、次に行動を起こす高杉晋作の時代となり、そしてこの巻で、技術をもって総仕上げをする大村益次郎の出番となるわけです。この高杉の死から半年後に大政奉還となり、江戸幕府は終焉を迎え、その後薩長は兵を出して、幕府とそれに味方する藩の追討に乗り出します。いわゆる戊辰戦争で、鳥羽伏見の戦いに端を発し、その後北越戦争となって行きます。その頃、越後長岡藩の家老河井継之助は、藩を中立的な独立国とするべく奔走し、薩長軍に嘆願書を提出します。しかしこの時やって来たのが、さほどの経歴もないのに、軍監という肩書を持っていた土佐出身の岩村精一郎でした。岩村は河井の話をろくに聞こうともせず、ついに交渉は決裂し、長岡藩は幕府軍の一員となります。
その後河井は負傷し、その傷がもとで落命します。その一方で、北越戦争に従軍していた長州の時山直八、さらには天堂晋助も亡くなり、晋助の遺髪がお里の元に届けられます。墓を建てるお里の元に来たのは、彼を婚約者の敵として追っていた粟屋帯刀の娘の菊絵でした。そして江戸では、大村益次郎が指揮官として、上野に籠る彰義隊と一戦を交えることになりますが、この時既に江戸入りしていた薩摩藩士の海江田信義(有村俊斎)は、連盟を結んだとはいえ、仲がいいとは言い難い長州の、それも村医者上がりの大村益次郎にいい思いを抱いておらず、しかも、大村が理論通りにことを運んであとは泰然自若としているのも、海江田の性分に合わなかったようです。しかも大村の元々の愛想のなさもあり、いよいよ憎悪の念を強くして行きます。最終的に海江田は、長州の刺客である神代直人を使って、軍事のことで大坂に行き、京に泊まっていた大村益次郎を襲わせます。これは、大村の大坂行きを強く案じていた桂小五郎に大きなショックを与えました。
大村はその後、大坂へ高瀬舟で搬送され、右太ももの傷が大きかったため手術を受けることになります。この時手術に立ち会ったのは、負傷の件を聞きつけてやって来たイネ・シーボルトでした。手術後しばらくは小康状態を保ったものの、やがて敗血症を起こして世を去ります。享年四十六でした。その翌日妻のお琴がやって来ます。初めて顔を合わせたイネに、お琴は、イネが知っている大村益次郎を彼女は知らず、彼女が知っている大村益次郎をイネは知らないといい、こうつぶやきます。
「あたしたち、違う男を好いちょったんじゃねえ」
大村の遺体はお琴と共に帰郷し、イネはそれを見送ります。時あたかも、長年日本の医学を支えて来たオランダ医学が廃れ始め、ドイツ医学が勃興し始める時代となっていました。
最後に、主な登場人物のハイライトシーンが紹介されます。吉田松陰、高杉晋作、大村益次郎に加え、山県狂介や伊藤俊輔、井上聞多も登場します。この伊藤と井上は、ご存知の方も多いと思いますが、英国留学の際に、海軍(ネイビー)を学びに行くというべきところを、ナビゲーション(航海術)を学びたいと言ったため、船員になりたいのかと思われ、イギリスに向かう間、甲板の掃除をさせられます。この場面は総集編そのものには入っていないので、このハイライトシーンのみでの登場となります。
ところで大政奉還の少し前に、薩長は京都でのクーデターを計画していました。しかし坂本竜馬がお膳立てをした大政奉還により、この計画が中止となったわけです。薩長に取って面白くはありません。しかもその後、京都において合議的な政体を作るという手筈まで整えていたわけで、これが実現すれば、戊辰戦争も、それによる明治政府も成立していなかったでしょう。その後竜馬は、盟友中岡慎太郎と共に暗殺されます。犯人は幕府側の見廻組といわれていますが、竜馬の暗殺に謎めいた部分があるのは、こういういきさつがあるのかもしれません。
それにしても、松崎真さん(『笑点』で座布団を配っていた人といえばわかりやすいでしょうか)が壺振りとか、中岡慎太郎役がかつて国会議員だった横光克彦さんとか、神代直人を演じたのが、先日ちょっと触れた『風に立つライオン』で、主人公の上司役の石橋蓮司さんとか、今回も結構発見がありました。まあ何といっても、河井継之助役の高橋英樹さんが、『花燃ゆ』で井伊直弼を演じているわけですが。
ちなみに、このDVDの構成は
第一巻 総集編第一編 革命幻想
第二巻 総集編第二編 攘夷の嵐、第三編 崩れゆく長州
第三巻 総集編第四編 徳川を討て
第四巻 総集編第五編 維新回天
となっています。
しかしこれを観て気づいたのですが、『花燃ゆ』、あるいはその他の近年の幕末物で耳にする「新しい時代」と言うセリフを、この当時は殆ど聞きません。高杉晋作が一度口にする程度です。この辺りの違いも興味を惹かれます。
『花神』主役の村田蔵六、後の大村益次郎(中村梅之助)とイネ・シーボルト(浅岡ルリ子)、『NHK大河ドラマストーリー 花神』より