IT関連企業の経営者である真柴義孝が、死体となって自宅で発見された。死因はコーヒーに混入したヒ素(亜ヒ酸)だった。真柴は妻の綾音と2人暮らしだったが、彼女は実家のある北海道に帰っていて、死亡推定時刻には完璧なアリバイがあった。そして、その少し前にある人物が真柴の自宅を訪ねて来たことが、警備会社により確認されていた。
綾音は北海道で友人と会っていた時に、夫の会社の社員から、夕方の会議に出席するはずの社長が現れないという連絡を受けていた。そして夫の死に遭遇した後、警察に、しばらくホテル住まいをしたいが、その前に丹精込めて育てたバラに水をやりたいという。しかしバラにやる水に、彼女はなぜか浄水器を通した水を使っていた。
岸谷美砂が湯川研究室に現れる。この件で湯川に協力を求めるが、湯川は物理学が絡む事件ではないと断る。そこで岸谷は、綾音がかつての湯川の同級生であることを打ち明ける。湯川は無理があると知りつつもこの事件の協力を受け入れ、まず真柴の葬儀が行われた教会に行って、綾音と言葉をかわし、湯川は自分のニックネームであるガリレオについて話す。ガリレオが地動説によりバチカンから謝罪を受けたのは1992年、公認されたのは2008年だった。これに対して綾音は、救済には時間がかかるものだと答える。
綾音は元々、ひまわり会という幼児教室を主催していたが、妊娠が分かってからは、他の物に教室をまかせていた。しかし自転車に当て逃げされて流産し、夫からは1年以内に子供ができないと離婚するといい渡されていた。そして1年が経ち、夫から離婚を切り出された直後の殺人だった。
綾音は湯川に、子供たちの興味を惹く実験をしてくれと頼むが、湯川は子供相手だと蕁麻疹ができると渋る。しかし結局、電気ポットの内側に色つきのゼラチンを貼り、ゼラチンの厚さによって色が変わる様子を子供たちに見せる。これは、彼自身が立てた、ヒ素混入の仮説だった。また、真柴が変死する前に訪ねて来た人物は、宗教の勧誘の人物であることが岸谷によりわかる。
湯川は、綾音になぜバラを育てているのかと訊く。綾音は元々とげのある花は嫌いだったのだが、真柴の影響で好きになっていた。それほどの夫を殺されて、悲しみにくれているという湯川に、綾音は自分が疑われているのと感じるが、湯川は今度は、教会の十字架の黄金比率について語り始める。
その後湯川は、綾音を博物館に誘い、恐竜の骨についた土をスキャンし、3D画像化することで、それまで謎だった恐竜の内臓がわかるようになったことを話し、長時間のトリックであるという。綾音は、それも自分を疑っているのかと冗談を込めて話す。しかしその傍ら、重要な事実が次々と明らかになっていた。
警察の調査では、真柴の家のヤカンにヒ素が盛られたのではないかということに加え、ミネラルウォーターが異常に速く減っていることが問題となっていた。また綾音は不妊治療に通っているといわれていたが、実際は避妊のためにクリニックに通っていた。これらの事実から湯川はある仮説を立て、北海道で綾音と落ち合う。
2人が出会ったのは、かつて自分たちが学び、廃校になることが決まった中学校だった。昔からあなたは理科が好きだったという綾音に、湯川は自分の仮説を話す、綾音は1年以内に子供が出来ないと離婚だと訊かされた時、浄水器のカートリッジにヒ素を仕込んだが、いきなり夫を殺すのではなく、夫が、もう子供は要らないと口にすることに一縷の望みを託し、1年間といういわば猶予期間を与えたのだった。
カートリッジは、浄水に切り替えた時点でヒ素が水に混入するようになっていた。しかし綾音は「猶予期間」の間は決して浄水を使わず、自分以外の誰もキッチンに入れないようにした。コーヒーや料理の水は、健康志向の強い夫のためにミネラルウォーターを使っていた。しかも、自宅で仕事をすることが多い夫が、浄水器を使わない様に監視するため、外出もせずあまり人も招かず、居間でタペストリーを作り続けていた。犯行直後、真柴家に来た岸谷が賞賛したタペストリーは、夫を監視を続けたことの賜物だった。
ミネラルウォーターの減りが速いのは、綾音が自分で処理をしたからだった。北海道に立つ前、コーヒー一杯分のミネラルウォーターを残し、その後は夫が浄水器の水を使うように仕向けて、自分のアリバイを完璧なものとしたのである。しかし、捜査で真柴家に出入りし、花の水やりもしていた太田川が、一部のバラが枯れているのを不思議に思いつつ、新しいバラを買って補充していた。
バラが枯れた理由は、ヒ素入りの水を与えていたからだった。カートリッジに仕掛けたヒ素は1人分の致死量だったが、それでも万全を期すため、浄水済みの水は花に与えていたのだった。この長時間を掛けた殺人に対して、湯川はいう、恐るべき意志の強さであると。そしてバラを植えていた土からもヒ素が発見され、綾音もすべてを自白した。