『はたらく細胞BLACK』第7巻です。
<無敗、否定、凶変。>
身体のうつの症状も治まり、赤血球たちは仕事に励んでいた。この状態を、自ら糖化して死んだQJ0076にも見せたかったと話していた彼らは、とある一角で、キラーT細胞やNK細胞、さらに白血球が集まっているのを見る。この光景は、前の身体でも見たものだった。AA2153が白血球1196に尋ねてみたところ、案の定がん細胞が発見されていた。
キラーT細胞のうちナイーブ細胞はかなり強気で、俺たちに任せておけ、重要なのは早期発見だと豪語するものの、1196から実戦経験がないことを指摘される。その後すぐ近くにがん細胞がいることがわかり、ナイーブ細胞は無謀にも一人駆けだして、危うくなったところを、樹状細胞から敵の位置を教えられ(活性化され)、一人前のキラーT細胞となって敵を倒す。そんなキラーT細胞を見ながら1196は言う。
「がん細胞も元々は我々と同じ細胞…しかし容赦することは許されない…」
「免疫細胞なら誰しも通る道だ…」
1196は、がん細胞がこの身体の免疫力を上回るほどに成長することを懸念する。その頃、肺細胞の面接試験に落ちた例の細胞は、頭の中で不思議な声がするのに気づき、引き寄せられるようにダクトを通ってその場所へ向かう。そこには自分と同じ顔かたちの者が何人もたむろしており、一目でコピーであることがわかった。彼らは気分が悪そうで、酸素と栄養素を持って来てくれと頼む。
AA2153たちは頼まれてその場所へ向かうが、入り口がわからず、新しく血管を作ることにする。その場所では「外に出るな」「静かに」といった張り紙が目についた。例の細胞は、なぜこのような所で肩を寄せ合うようにしているのか不思議に思っていたが、そこに例の不採用通知が山ほどあるのを目にする。彼自身も含めたこの細胞たちは、エラーがそのままコピーされたバグ、つまりがん細胞だった。例の細胞はそれを受け入れられずにいたが、やがて自分の体が変化して行くのを感じ、その勢いで赤血球の一人、SS1404を刺し殺してしまう。
<無残、一敗、挺身。>
結局赤血球たちは、彼をおいて逃げるしかなかった。働くことが楽しくなって来た、その矢先のことだった。肺ではナイーブから進化した新米キラーT細胞が、勇み足を班長に詫びるものの、がん細胞など大したことはないと大きな口を叩く。その彼に班長は、がん細胞は1日5000体も生まれるが、我々はそれを倒し続けていると教える。圧勝の負けなしだと言う新米だが、実は負けなしではなく、「負けられない」のである。一敗でもしようものなら、それはこの身体の命に関わることだった。
その時AA2153たちが、がん細胞が向こうにもいると走って来る。彼らの威力はすさまじく、大挙してやってきては酸素をほしがっていた。このがんは、喫煙との関係が大きい扁平上皮がんだった。肺を乗っ取らんばかりの勢いで圧倒して来るがん細胞に、赤血球たちはなすすべもなかった。その時外から光が照射(X線撮影)される。とにかく早く肺から酸素を運び出そうというAA2153の提案で、二手に分かれて酸素を運ぶことになるが、後輩NC8429はその気力を失い、もうまっぴらだと仕事を投げ出す。
AA2153は、こんなことは僕たちの代で終わらせると、彼を安全な場所へ逃がす。白血球たちもまた、がん細胞はキラーTとNKにまかせ、自分たちは合併症を防ぐためにスタンバイしていた。肺ではキラーT細胞や肺細胞のために酸素の運搬が行われていたが、新米のキラーT細胞は負傷し、残りのキラーTたちもがん細胞に及び腰の状態だった。その時大きな音がして、壁が崩れて行った。がんの周辺の組織が、外科手術によって切り離されようとしていたのである。AA2153の先輩、BD7599はまずいと思ったが、がん細胞を外に出すわけには行かず、危険を承知で取りあえず引き付けておくことにした。
<逃走、切除、強さ。>
BD7599はまだがん細胞を引き付けるべく、切断されつつある肺の中に留まっていた。そして結局その部分は、完全に切除されてしまう。それは彼に取ってもがん細胞に取っても、その場所が終焉の地であることを意味していた。先輩を失って嘆くAA2153だが、そこへ白血球が近寄ってくる。彼のすぐ近くに黄色ブドウ菌MRSAがいたのである。肺切除に伴って侵入して来たのだった。ともかく傷ついた肺と白血球に酸素を届けるべく、AA2153は動き出す。
一方病院にいた新米キラーTは、先輩からがん細胞が肺の上葉ごと切り取られたこと、しかし班長達も運命を共にしたことを聞かされる。また他の赤血球たちも、免疫細胞に酸素を運搬しており、DA4901は床に座り込んでいるツインテールの白血球を見つける。彼女は自信を失っていた。DA4901は、細菌が怖いのか、戦いが怖いのか、あるいは自分の無力さが怖いのかと問いかけ、かつての自分が判断を誤り、多くの赤血球を危険にさらしたことを打ち明ける。
その苦しみを恥じることはない、乗り越えて行けばいいとDA4901は彼女を励まし、酸素ボンベを置いて、自然と剣を触れる時が来たらまた働けばいい、その酸素はその時役立ててくれと言って去る。やがて彼女は立ち上がり、黄色ブドウ球菌退治へと向かって行って、苦戦する1196や仲間たちの助太刀をする。やがて黄色ブドウ球菌は全滅し、赤血球たちが集まっていた肝臓に活気が戻って来た。しかしその後がん細胞はリンパ管を移動し、転移して行くようになる。
ついに体内にがんが発生します。そのがんはキラーT細胞たちによって撃退されますが、彼らの存在はそこだけには留まりませんでした。例の何かと咳込んでいた若者は、実はがん細胞で、そのため肺のために働くことができずにいたのです。自分の運命を呪う彼は、しかしその気持ちとは裏腹にがん細胞として成長し、赤血球のSS1404を殺してしまいます。
そしてがん細胞たちは肺を占領するようになり、この身体の意志として、肺の一部を切除する手術が行われます。しかしそれは、赤血球や他の免疫細胞たちが、がん細胞たちと運命を共にすることを意味していました。
手術後は黄色ブドウ球菌が肺に押し寄せ、白血球たちが彼らを退治します。しかし例のツインテールの「白血球ちゃん」は、現場に向かうこともなく一人座り込んでいました。自信を失っている彼女に、DA4901は声をかけて励まし、酸素ボンベを置いて行きます。やがて彼女は立ち上がり、細菌退治へと向かって行きます。実際この時は、がん細胞や黄色ブドウ球菌と戦う免疫細胞に酸素を届けなければならず、赤血球たちも忙しさをきわめていました。
そしてAA2153の後輩、NC8429も気力を失っていました。
「こんな仕事、もうまっぴらだ」
それはかつて、AA2153自身が口にしたセリフでした。その後輩に彼は、こんなことは僕たちの代で終わらせると言い、彼を逃がします。
ところでDA4901が、自分の判断ミスを白血球に語る場面があります。網膜に酸素を届ける際に、新生血管を掘った経験のことですが、この冒頭でもがん細胞の要求に応えるべく、赤血球たちは新生血管を掘って、酸素を届けようとします。実際がん細胞は酸素を求めて新生血管を作り、赤血球を誘導するといわれています。
そして1196のこの言葉
「がん細胞も元々は我々と同じ細胞…しかし容赦することは許されない…」
「免疫細胞なら誰しも通る道だ…」
本編の白血球1146も同じようなことを口にしますが、意味合いが随分違っています。こちらは、容赦することは許されないときっぱり言い切っており、その点が、やはりBLACKが本編より魅力的に感じられる一因といえるでしょう。
しかしがん細胞が、そう簡単に退散するわけもありませんでした。彼らはリンパ管を通ってあちこちへ転移して行きます。