『風林火山』、いよいよ大詰めです。自らの失策を実感した勘助は、足軽を引き連れて相手陣へと攻め込みます。様々な思いが頭をよぎる中、渾身の力を振り絞って戦い、やがて川中島に散ることになります。
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武田軍は勘助が提案した啄木鳥戦法により、妻女山の上杉軍を攻め落とすべく別動隊を送り込み、下って来たところを八幡原で討ち取る作戦を立てた。しかし上杉軍は既に下山しており、しかも武田に取って不利な車懸の陣を敷いた。別動隊が来るまでの時間稼ぎのため、信繁も諸角虎定も相手陣へ攻め込み、討ち取られた。勘助は失策であったことを後悔しつつ、かつて大井夫人が、いつになれば戦は終わる、何のために御仏はおられると聞き、御仏とてこの世に立てば戦と無縁ではないと答えた時の、「そなたは悲しく生まれついた」という言葉を思い返していた。
勘助は信玄に、間もなく援軍が参りますと伝えるが、信玄はこう言った。
「守るだけでは足らぬ。勝つのじゃ」
勘助は自分も前へ出る決意を市、義信に本陣を任せ、駒井正武に、お屋形様をお頼み申すと言って出て行った。その頃三条夫人は於琴姫を訪ね、空に浮かぶ雲のように、風に乗って流れて行きたいと言い、さらにその風を起こすことを、お屋形様や勘助は定めとしているようであるとも話す。
一方上杉陣では宇佐美定満が、武田の別動隊が山を下りてくる頃であり、そろそろ陣を退くように促すが、政虎は、敵が逃げ出さぬ限り信玄の首は取れる、悪しき夢に取り込まれた天地を解き放つと言ってそのまま攻めに入った。その時春日山城では、姉の桃姫と嫡男の卯松、後の景勝が政虎の勝利を祈願していた。一方上杉攻めに向かう勘助に、百足衆が敵の本軍が向かって来ていることを伝え、勘助はすぐに本陣にそれを伝えるよう命じる。そして自身は伝兵衛と太吉に足軽衆を率いさせ、攻め込む覚悟でいた。
するとその時義信がやって来て、自分が敵の本陣を突くと言い出した。勘助は、貴方様は武田家の嫡子、それがしとは命の重みが違います、命を粗末になさいますなと説得して本陣へ戻らせ、さらに勝頼のことを頼むとも伝えた。勘助の頭の中で、甘利虎泰の
「何を得、何を失うか」、
そして板垣信方の
「お屋形様を照らし続け、真の軍師になるのじゃ」
といった言葉が渦巻いていた。また由布姫の幻らしきものが現れ、死んではならぬと勘助を止めようとする。以前の幻は自分を止めようとしていたことを悟った勘助は、まだ生きておりまする、天下をお屋形様の物となるまで諦めないと叫ぶ。
一方別動隊のうち真田軍は、妻女山から千曲川へと下りて来た。しかしそこで対岸に村上義清の軍を見て、双方馬を川に乗り入れ、斬り合いとなる。そして八幡原の上杉軍は、宇佐美が本陣を手薄にするなと家臣たちに命じていた。また上杉陣で奮戦する山本勘助に、退くように命じる。
「一国を滅ぼしてまで何のために戦うのか」
その時政虎が馬を走らせ、武田本陣の方へ駆けて行った。これは兵たちを驚かせ、宇佐美と勘助も、期せずして政虎に道を空ける格好になった。
その直後勘助は政虎を追う。その政虎は信玄のみとなった本陣へ赴いて馬上から太刀を浴びせる。それを軍配で受け止める信玄。兵たちが戻り、一人が政虎の馬を槍で突いたため、この敵将はそのまま自陣の方へ戻って行った。身を案ずる武将や兵たちに、信玄は軍配を見せ、自分は三太刀受け止めたが、軍配には七太刀の傷が残っていた、あのような戦をするとは正に越後の竜神よと言う。その政虎の首を狙う勘助は奮戦を続けていた。宇佐美の「一国を滅ぼしてまで…」の言葉が脳裏をよぎり、勘助は心の内で、わが思う人のためであると答えていた。
その時直江実綱の馬が勘助に近づいて兜を落とし、勘助は不意を食らって落馬し、眼帯が落ちた。しかし勘助の目に、孫子の旗がはっきりと見えた。かつて勘助は、自分が天下への道がはっきり見えたと当時の晴信に告げたこと、そして日本海と太平洋、両方の海を支配するように進言したことを思い出す。勘助は満身創痍となりながら、なおも戦い続けた。かなたには白馬に跨った政虎が見えたが、もはや勘助はその政虎に追いつけなかった。少しでも近づこうとしたが途端、政虎は上杉本陣の方へと去って行った。
その勘助を狙っている上杉方の兵がいた、それは平蔵であった。勘助はそれが誰であるかをみとめ、自分の首を取るように言って摩利支天を渡そうとする。しかしその平蔵に矢が当たり、その場に崩れてしまう。なおも戦に執着する勘助に、今度は真田の六連戦が見えた。別動隊が戻って来たのだった。
「お屋形様、我らが勝ちにございまする」
その時上杉の兵が近づき、みしるし頂戴つかまつるとの声と同時に、勘助は首を取られた。
同じ頃勘助の屋敷では、おくまがリツの摩利支天が見当たらないのを不思議に思っていた、その時外から帰って来たリツは、摩利支天が縁側にあるのを見て、何らかの異変を悟る。リツはかつて勘助が「いつまでもそなたを見守っておる」と言ったのを思い出し、涙を流す。結局戦は午前が上杉、午後は武田が優勢となったが勝負はつかず、また多くの死傷者を出した。善光寺の上杉陣では、髻山で首実検を行うと政虎が伝える。我らの勝ちにございましょうと直江が問うも、まだ戦は終わらぬと答え、この乱世も一睡の夢のようなものだと言う政虎。
しかし信繁、諸角の首はとうに武田方により取り戻されていた。かつて父信虎を追放する時に、よく決意してくださったと同意した信繁を思い出し、信玄は涙する。その時駒井が、かなたから走ってくる人影を見つけた。それは勘助の首なし死体を背負った伝兵衛だった。
「山本勘助にございまする~~」
そして太吉も、勘助の首を抱えて戻って来た。間違いありませんとの太吉の言葉に「あのつらじゃ間違えようがあるまい」と馬場信春は言い、勘助の胴と、笑顔を見せている首とをつなげ、家臣たちは勝鬨を上げる。
申の刻(午後4時)、武田信玄は陣を退いた。その頃越後ではヒサが、子供たちに食事をさせ、平蔵の分も準備していた。その平蔵は戦場を槍にすがって歩きながら、もう戦はいい、早く帰りたいと独り言を言いつつ歩いていた。戦場には戦死した兵たちの甲冑、あるいは刀剣を金に換えるための百姓たちがやって来ており、その中にはおふくの姿もあった。平蔵はいつ帰り着くともしれないほど、遅々とした歩みで、死なねえぞと言いつつ越後を目指していた。
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本編はこれで終わりですが、その後最終回の定番ともいえる主人公のここまでの足取り、さらにミツのセリフに加えて、「見果てぬ夢を追うものはとわに咲く一凛の花の如し」のナレ、そして白い花と同時に終わります。他にも平蔵といい伝兵衛といい、はたまた太吉といい、何やら第一回に回帰して行くような終わり方になっています。また紀行でその後の武田家が紹介され、義信事件と飯富虎昌の連座、三条夫人死去、信玄死去、長篠の戦い、謙信死去と来て、最後は勝頼の自害で終わっています。
しかしこのエピ全体が、勘助や信玄と、彼らを取り巻く人々の回想や言葉を中心に構成されています。締めの回ということで、恐らくはこのような形になったのでしょう。それにしても上杉政虎、義のために戦を行う人物は、言うことも浮世離れしています。また宇佐美が、武田は修羅の道を歩くといった意味のことを言っていますし、実際上杉に取ってはそのように映るのでしょうが、ならば織田信長は何なのだと言いたくもなります。やはり彼は魔王なのでしょうか。