『陽だまりの樹』番外編の3に「フェートン号事件」について書いています。この事件が起こったナポレオン戦争当時、ヨーロッパ大陸諸国の多くがナポレオンの支配下にあり、イギリスとにらみ合っていました。その対立構図が日本にまで持ち込まれたのが、この事件なわけですが、このフェートン号というのは、ナポレオン戦争の前に行われたフランス革命戦争中の、
栄光の6月1日と呼ばれる海戦でも活躍した軍艦でした。17世紀後半ごろからこのフランス革命戦争、そしてナポレオン戦争に至るまでの時期は、帆船による海戦が隆盛を極めた時期であり、その後、これらの戦いを題材にした海洋冒険小説も多く書かれるようになりました。
私が読んだことのあるのは
*ホーンブロワーシリーズ(セシル・スコット・フォレスター著)
*ジャック・オーブリ―シリーズ(パトリック・オブライアン著)
くらいですが、それ以外にも
*ボライソーシリーズ
*トマス・キッドシリーズ
*ラミジ艦長シリーズ
などがあります。詳しくは「帆桁亭」様、「Sail ho!」様といったサイトに情報があります。
ちなみにホーンブロワーシリーズは、TVドラマ化されて日本でもNHKBSで放送され、その後CSチャンネルで今も時々放送されています。無論DVDもあります。個人的には、第2話のペストが出て隔離され、トラブル続きの航海生活を送りながら海尉試験の準備をするところや、第5話の、かなり疑心暗鬼な艦長が海尉たちを信用せず、陰謀を企んでいると考え込む場面、第7話の、半給生活でお金に困って剣を質入れする場面などが印象に残っています。
(半給…海軍将校が戦争がない時期に、戦時の際の報酬の何割かを支給される制度)
また、ジャック・オーブリーが登場する『南太平洋、波乱の追撃戦』の上下は、ラッセル・クロウが主演した映画『マスター・アンド・コマンダー』の原作です。この映画はその当時の航海生活や海戦の様子がよく描かれていて、海戦の準備をする際の描写は圧巻です。主人公で如何にも軍人といった感じ、しかもチーズトーストが大好物のオーブリー艦長と、博物学オタクなところがあるマチュリン軍医は親友で、この2人も結構凸凹コンビです。ちなみにこのマチュリン先生が、甲板上で手術をする場面も出て来ます。船員たちが遠巻きに眺める中、頭蓋骨を割るわけですが、これはちょっと「仁先生」を連想します。またこの2人は音楽好きで、オーブリー艦長がバイオリン、マチュリン先生がチェロでしばしば合奏をしています。
日本の場合は、ちょうど鎖国(というか限定交易)の時代ということもあって、あまりこの手の小説は多くないのですが、ジョン万次郎及び咸臨丸関連や、ロシアをテーマにした井上靖著『おろしや国粋夢譚』、司馬遼太郎著『菜の花の沖』、そして『坂の上の雲』などには、船や軍艦を巡る記述が登場します。特に『坂の上の雲』の、日本の軍艦とロシア艦の違いや、帝国海軍の軍楽隊員で衛生兵であった方の話、そして、日本海海戦の前の各艦の雰囲気の描写には、かなり興味深いものがあります。
トラファルガーの海戦の旗艦ヴィクトリー(Wikimediaより)