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ベイカー寮221B/Baker House 221B

パペットホームズ、大河ドラマなどの好きなテレビ番組やラグビーについて書いています。アフィリエイトはやっていません。/Welcome to my blog. I write about some Japanese TV programmes including NHK puppetry and Taiga Drama, Sherlock Holmes and rugby. I don't do affiliate marketing.
ベイカー寮221B/Baker House 221B TOP  >  応天の門

『応天の門』 藤原基経、道真と会遇する事

実に久々に『応天の門』です。道真と基経の出会いが描かれます。


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道真が出会ったのは藤原基経だった。吉祥丸の弟かと基経は問いかけ、道真は兄に関係あるのかと思うが、兄の日記に基経の名はなかった。病で身罷られたのは残念よと基経は言うが、その兄を殺したのは当の藤原だった。

基経は話しかける。
「余に問う 何の意ぞ碧山に棲むと
笑って答えず 心自ずから閑なり」
道真が後を引き取る。
「桃花流水杳然として去る
別に天地の人間(じんかん)に非ざる有り」

昔そなたの兄に習ったと基経は言い、道真に対し。忠臣はまだ子供と言っておったが、なかなか鋭い目をしていると言う。
忠臣と聞いた道真は、これが基経かと悟り、なぜ兄のことをと尋ねようとするも、そこへ常行が現れる。常行が基経と呼ぶのを聞き、この人物は間違いなく基経であることがわかる。

常行は車を出すため基経を呼びに来たのだが、その基経と道真の取り合わせを不思議がる。道真も車の所へ戻ったが、父是善は泥酔しており、お前はこのような所に来てはいかんと強く言う。しかし才を役立てるには力が必要だった。是善を女官たちに任せ、道真は兄の日記を見る。それには手古という名がしたためられていた。基経のことである。これが闘犬に噛まれる前日のことだった。しかし基経に関する記述はそれのみだった。

吉祥丸は基経の兄たちに仕えていたものの、その扱いはひどいものであり、元服の後見ほしさとしか見られていなかった。少し離れた場で、その吉祥丸を見ていたのが手古だった。その手古は叔父良房から、自分の養子になるように勧められる。それには心身共に健やかであらねばならぬと、良房は手古の衣装を脱がせ、裸で立たせる。自分をどう思うかとの問いに、父上とは違うと答え、兄たちを超えたいかとの問いに、兄たちに興味はないと手古は言う。

良房はそなたを稚児のようにはせぬ、衣を着ていいと手古に言い、その度胸のよさを褒めて、褒美として特別に良い物をやろうと言う。それは「藤原」だった。

手古は兄たちとも行動を共にせず、蔵に閉じこもっていた。そこへ吉祥丸が現れる。彼の兄たちから置いてきぼりにされたのだった。出世したいのなら兄たちより自分に媚びろと言い。何ができるかと言われた吉祥丸は、父が学者なので手習いをしている、ただし学者になるだけの才はないと答える。ならばそれでよい、私は賢いから父に捨てられるのだと手古。そして吉祥丸に詩を教えろと言う。その詩こそ、道真との会話に登場したあの詩だった。

その詩の半分ほどを吟じたところで、国経と遠経がやってくる。詩を習っていたと言う手古に、格下から何を習うのだと兄たちは嘲笑うが、兄上たちこそ学を身に着けるべきと手古は言い、それが兄たちには面白くなかった。ともあれ、彼らは吉祥丸を連れ戻しに来たわけで、詩の残りの半分はまた教えてくれと手古は言う。吉祥丸もそれを約束するが、二度と現れることはなかった。

手古は思っていた。しばらく後病で倒れたと聞いたが、あるいは兄共が原因であろう。かわいそうなことを。

時代は戻る。基経は屋敷に戻り、そこに控えていた島田忠臣に、「あれ」は見つかったかと尋ねる。忠臣の返事だと、まだ見つかっていないようだった。基経は、異国のものは目立つ、目立つのはあまり好ましくないと言い、忠臣に手駒は好きに使うように言う。

基経はまた、菅家の道真に会ったと言う。そして詩の後半の部分を吟じ、そういう歌だったのだなと言う。忠臣は、それが李白の『山中問答』であることを理解していた。そして自分は休む、そなたも下がれと言うが、忠臣は何か思うものがあるようだった。

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基経と亡き兄との関係、そして養子である基経自身の境遇などが明らかになります。道真の兄、吉祥丸をいじめていたのは、基経の兄である国常と遠経で、手古と呼ばれていた基経自身は、この兄たちからは一線を引いていたようです。

それが原因なのでしょう。基経はその後、島田忠臣と何者かを探しているようです。しかも「異国の者」と言っています。異国と言えば、かつて道真がその正体を暴いた百鬼夜行を思い出しますが、どうやらそれと関係あるようで、手駒を好きに使えと言う辺り、その者を処分しようと考えてもいるようです。

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[ 2023/03/30 01:00 ] 応天の門 | TB(-) | CM(0)

『応天の門』源融、別邸にて宴を催す事

久々にというか、「今年初めて」の『応天の門』関連投稿です。

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源融の別邸の庭が完成した。融は「この世の極楽」を謳い、在原業平や、主だった者たちを招待しようとする。

しかし藤原良房は、子の基経を出席させることにした。融は菅原是善に、道真も連れて来るように言う。道真はまだ文章生であり、是善は頭を抱えるが、融は庭作りに道真が貢献しているため、是非庭を見てほしいとも言うのだった。

是善は屋敷に戻り、融に何をしたのか道真に問いただす。実はその前に業平から文が来ており、父是善と話を合わせるように書かれていたため、融が桜の植え替えについて困っていたので、助言をしたのだと答える。道真も融の屋敷の宴には乗り気ではなく、是善は宴の間中、牛車の中で待つようにと言う。

融は藤原の者共に、美とは何かを見せつけてやると息巻いていた。基経も出席し、國経や遠経といった兄たちとも顔を合わせるが、最早基経は彼等を兄とも、上の立場とも思っていなかった。何よりも良房は融の宴に出席する機など微塵もなく、世辞を言うつもりもなかった。基経を名代にしたのはそのためだったのである。

また藤原良相は子の常行に、帝のおられぬ宴などどれだけ人を集めようが意味はないと言い、その帝は今多美子と清涼殿におられること、誰が庭を作ろうが、どう足掻こうが、多美子が男児を生めば次の帝になると言い放つ。宴は融への様々な社交辞令であふれており、魑魅魍魎の集まりといった感じで、是善は道真を連れてこなくてよかったと安心する。

その道真は牛車の中で書物を広げており、宴には関心はないが、桜がどうなったのかが気になっていた。さらに尿意を催し、車を降りて用を足したところ、車の牛追いたちが何事かを争っていた。小石の山から一度に3個を上限に石を取り、最後の1個を取った方が勝ちで、負けた方が何かを渡すという一種の賭けだった。

道真はその様子を見ていて、自分も参加することにするが、この遊びは後手が必ず勝つようになっているのがわかる。小石は全部で48個、4の倍数だった。3個までの石を上限にするのなら、石は全部で48個あるため、先手が取った数と合計して一度に4個ずつを取って行けば、先手がいくつ取っても最後の1個は必ず後手に来て、後手の勝ちとなるのである。

しかし道真は先に1個を取った。この方法だと最後に1個取る方法は難しくなり、牛追いは負けて面白くなさそうだった。自分が今度は負けたということは、この遊びの必勝法だけ教わったのかと道真はあっさりと言う。この牛追いはその言葉にかちんと来て、自分の主は学者だと言うものの、道真は色々な家の人物が来ており、名前を出すと厄介なことになると窘め、賭けで取り上げた物を戻すように言う。

道真はさらに言う。知識をどう使うかはそれぞれで、バカが自滅するのは勝手だが、学問や知は知らぬ者から奪うためにふるうものではない、自分は違うと言う。牛追いは捨て台詞を残して走り去っていくが、道真も車に戻らなければならず、屋敷の中をさまよっている内に、ある男と出会う。

その男の身なりのよさ、年齢と振舞いからして、藤原一門の人物であることはできた。道真は自己紹介をする。是善の嫡子であることに、その男、基経は思うところがあり、こう口にする。
「吉祥丸の弟か」

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前半部分、これは例の古桜を植える件で、道真の助けを借りた源融が、自分の庭を特に藤原氏の人々に自慢したいわけです。しかし道真は、そういう宴会ははなから興味がなく、また是善も、道真をそのような場に出すことにあまり乗り気ではありませんでした。それにしても業平さん、父上と話を合わせておけと文を送るところはなかなかのものです。

融の屋敷では宴が繰り広げられ、このような場に姿を見せたくもなく、社交辞令も言いたくない藤原良房は、基経を代わりに行かせます。その基経は久々に兄たちに会いますが、心の内では彼らのことなどどうでもよさそうです。また良相は、帝がおられないのなら意味がない、多美子が男児を生めば自分たちに権力が転がり込んでくると考えており、藤原氏内部の軋轢が垣間見えます。

さて道真。牛車の中にいたものの用を足したくなり、外へ出て戻る途中、牛追いの童たちが何かやっているのに気づきます。それは小石の山から上限3個を選び取り、最後の1個を引いた方が勝ちという遊びでした。なぜか一方の牛追いが勝ちっぱなしで、もう1人は既に昼食の餅と牛角の小刀を取られていました。

道真はこのトリックを見破ります。つまり小石の総数は4の倍数の48個で、上限を3個として引いて行くというルールのもと、先手が取った数と合わせて、一度に4個分がなくなって行けばいいわけです。つまり
牛追いA(先手)3 3 3 3 3 3 3 …3
牛追いB(後手)1 1 1 1 1 1 1 …1
と、先手が3個ずつ引いて行けば、後手は1を引いて合計で4個を引くことになります。あとは先手が3個を引く限り、後手は1個ずつ引いて行けば、最後の1個は必ず後手の物になり、賭けに勝つわけです。

しかし勝ちっぱなしだったその牛追いも、必勝法のみを教えて貰っており、いざ立場が変わるとなすすべなしのようでした。相手が3個引いてくれていたおかげで、自分は難なく最後の1個を手にしていたのですが、勝手が変わったため、最後に4個残ってしまい、最後の1個を引けなくなったのです。牛追いはキレてしまい、バーカと捨て台詞を残して去っていきます。道真も牛車に戻ろうとしますが、屋敷内に迷い込み、ある人物と対面します。その人物こそ藤原基経で、道真が「吉祥丸」の弟であることを知る人物でした。

[ 2022/05/16 00:15 ] 応天の門 | TB(-) | CM(0)

『応天の門』禍いを呼ぶ男の童の事 二

実に久々に『応天の門』です。武市丸関連で周囲が色めき立ち、その結果不思議な事件が立て続けに起こります。

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業平は例の不思議な少年、武市丸についての相談を道真に持ちかける。しかし道真は、牛車が燃えたくらいでと素っ気ない。業平はそれ以外にも事件が起こっていると話すが、道真は、それは検非違使の仕事だと切り返す。しかし武市丸自身も病にかかり、人死にまで出ている以上、業平も道真を頼らざるをえなかった。しかし道真は、自分が口を挟んでいい事件なのかと逆に尋ねる。

ともかく道真は、まず燃えた牛車を調べることにした。煤の中に油染みがあったことがわかり、道真が車の下を調べたところ、石を発見する。それは温石(おんじゃく)だった。元々は体を温めるのが目的の温石だが、それを使うような季節でもなく、また石は高温で焼かれたらしくひびが入っていた。すぐに火をつけるというよりは、その石の埋み火を利用して牛車を燃やしたと道真は考える。道真は業平に、その日の衣に焦げがないか確認するように勧める。

これで業平は、やはり武市丸に近づくなという、自分への警告のためだったことに気づく。さらにその後、牛車を止めていたそばに寝ていた宿無し者が、事件当日に現場近くで怪しい者を見ていたことがわかる。その者によれば、男は日野家の門の火事の後は姿を消しており、しかも汚い身なりをしていたものの、ヒゲをきれいに剃っていたらしい。素人の変装であると道真は見抜く。

その時業平の配下の者たちが、急にあちこちがかゆいと言い出した。道真は、それはたぶんノミだから、塩を溶いた湯で身体を洗った後、強い酒で拭くようにと言い、また具合が悪い時は、首の後ろを炙って温めるといいと教える。配下の者たちは、驚きながらも彼の言を受け入れる。そして汚い身なりのヒゲのない男というのは、橘治臣(おさおみ)と考えて間違いなかった。放火の原因は不明であるにせよ、病人がいるところにぼろを着て一晩いれば当然感染もするし、実際火を放った後帰ってから具合が悪くなり、亡くなったのである。

そして牛車を燃やした犯人は日野唯兼だった、唯兼は武市丸を愛しており、それを業平に奪われたことに腹を立てていたのである。屋敷の門が焼かれたこともあり、火災があったとしても、自分が疑われることはないと踏んでの犯行で、業平が諦めてくればそれでよしとしていたのである。これで万事解決かと思われたが、その時小雪の屋敷では、武市丸を一目見ようと大勢の者たちがつめかけていた。武市丸は何も口にしようとせず引きこもり、姉の小雪もなすすべがなかった。

ついに武市丸は群衆に向かって
「うるさい、色ボケジジイども!」
と一喝し、自分は文章生になるから引き取るようにと声を荒げる。

実は武市丸は声変わりを迎えており、そのため病と称して屋敷にいたのである。業平は、今回の件は周囲が勝手に殴り合ったようなものであるから気にしなくていいと言い、また武市丸は、最初は死のうと思ったが、自分の尻を狙う奴らのために死ぬなど、馬鹿らしくなってしまったと答える。声変わりを迎えたことで、自分でも強くなった気がすると武市丸は言い、その後も文が届くことはあったが、突っぱねているようだった。

そして業平は常行に、多美子のことについて尋ねる。その常行は多美子に会いに行くところだった。多美子は小雪の話を面白がり、会いたいというが、その多美子の枕に呪詛が縫い込められていたことがわかる。入内前の屋敷の床裏の人形共々、女官の玉枝の仕業らしかった。宮中で穢れは出せないため、多美子には、玉枝に縁談が来たという理由で里下りをさせたが、黒幕は「染殿」、常行に取って伯父に当たる良房のようだった。常行は最早内裏のしきたりはどうでもいい、多美子にあだなす者は自分が斬り捨てると決意する。

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事件の取り調べは検非違使の仕事であると一度は断り、その後調査に加わることになった道真ですが、相変わらず色恋沙汰も関心なく、例によって淡々と調査を行います。しかもノミに食われた時の治療方法を伝授したため、業平の配下の者たちは、学者らしいぞと噂します。というか、一種の変人扱いといった方が正しいかも知れません。

しかしこの武市丸を巡る事件、要は武市丸が愛しい周囲のおじさまたちが、勝手に互いを貶めようとしたその結果でした。当の武市丸に取っては迷惑な話で、幸い一連の事件も落ち着いたこと、さらに声変わりが始まったことから、自分も文章生として生き、役職につく道を選びます。

そして入内した多美子の身の回りに、またも怪しげな事件が起きます。入内前の床裏にも呪詛の人形があり、こちらは毒を盛った深雪という女の仕業と思われていましたが、実は玉枝という女官がやったことでした。

多美子はこれに関しては何も知らされず、別の女官が気を利かせて玉枝を里下りさせますが、この件の黒幕はどうやら基経の父、藤原良房のようです。異母兄で、この入内にも関与した常行は気が気ではありません。多美子に何かあった場合は、実力行使に出ることを考えます。

さてこの次の回ですが、久々に源融が登場します。

[ 2021/12/31 01:30 ] 応天の門 | TB(-) | CM(0)

『応天の門』禍いを呼ぶ男の童の事 一

まずこの『応天の門』は、「漫画・アニメ」カテゴリではなく、今まで通り独自カテゴリになっています。さて大師=青海尼の件が一段落したものの、今度はとある美少年を巡って別の事件が持ち上がります。

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ある日、ある場所で少年が乱暴そうな男に押し倒されていた。そこへ通りがかった別の男が、その少年を助ける。容貌の美しさのため、女と間違えられていたのだった。

使いに出て戻るところだったその少年は、姉と使用人とに出迎えられる。少年を救った男、藤原常行は挨拶をするが、実はその姉に見覚えがあった。そこへ武市丸という名のその少年が
「またです」
と言って割り入って来る。

宮中。在原業平が長岡へ足を伸ばしていたことを知った貴族たちは、女を探しに行ったのかと噂する。その業平は、常行から呼び出された。常行は
「お前を稀代の色男と見込んで、相談があるんだが…こういうことは得意だろうと思ってな…」
と切り出す。そしてあろうことか
「モテない秘訣を教えて欲しいのだ」
と言う。しかもある屋敷へ行くことになっているのだが、目立たない格好で来いと念を押される。

業平はわけがわからないながら、常行が通い続ける姫のことであろうと思い、
「人の恋路を垣間見るのもまた一興」
と思い、常行からとある屋敷の前に連れて行かれる。そこは、武市丸という例の少年の住居だった。実は常行は、この武市丸のことで相談したかったのである。

業平は、この見目の美しさなら、常行が通っているであろう、姉の姫も美しかろうと思う。しかしそれに関しては、常行から
「何が会っても姫を口説くな」
と釘を刺されていた。

元服前の武市丸は、何名かの貴族から、稚児として行儀見習いをしないかと文を貰っていた。武市丸も、勉強と思って返事をよこしていたが、しかしその貴族たちの身に次々と不幸が起こり、武市丸は自分が元凶なのではと案ずる。彼は出家も考えていたが、常行は、このような子をむくつけき男だらけの寺に放り込むのはよしとしなかった。常行は仕官の世話も考えており、お前は小雪姫の弟だから身内同然と言うが、武市丸は姉に頼ることなく、立派な役人になりたいと言う。

常行の口添えがあれば大丈夫だと業平は言うが、あくまでもまともなところならという前提であった。実際武市丸への手紙を出したのは、常行曰く稚児狂いのヒヒジジイであり、尼寺からもなぜか文が来ていた。

常行の言う「モテない秘訣」とは、武市丸がモテなくなるようにする秘訣のことだった。彼は長男ではなく、両親は地方に赴いており、稚児とは身にあまる話だが、自分が元凶なら最早死ぬべきかとまで口にする。
そんな武市丸に業平は、物事には裏があると言い、背後を調べることになる。常行は、多美子の入内前夜、百鬼夜行に遭ってもお前はビビらなかった、肝が据わっているのか、あいつらが何であるのか知っていたのかと言いかけるが、そこへ姫が現れる。

その姫は、業平が予想していたのとはまるで違う女性だった。常行は彼女が愛おしいらしく、業平は空気を読んで帰ることにする。車の中で業平は、確かに武市丸は美しいと洩らす。姉に関しては、あの常行が通うのだから、よほどいい女に違いないと独り言をつぶやくのだった。

やがて業平は検非違使を連れ、貴族たちに事情を聞いて回る。最初に訪れた左中便元亮(もとあき)は落馬をして臥せていたが、武市丸に入れあげたため妻に出て行かれてしまっていた。さらに屋敷が不審火に見舞われた日野唯兼は、その元亮に罪をかぶせていた。2人とも武市丸に並々ならぬ愛情を抱いているののは間違いなかった。そして病にかかった橘治臣は亡くなっていた。

これらの事件と武市丸が無関係であることを、業平は証明しなければならず、その時ふと人の気配を感じるものの気に留めなかった。従者の是則は、道真の力を借りないのかと言うが、あの唐変木にわかるはずもないと業平は見くびるが、その時業平の牛車から出火する。牛追童は牛に飼い葉をやっていて、車の方がおろそかになっていた。業平は自分が狙われたことを知り、やはり道真に相談することにした。

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「またです」とは、たて続けに3人の身に不幸が起こったことのようですが、かなり事件性があると考えていいでしょう。業平は当初自分だけで解決するつもりでしたが、自分の牛車にまで火がつけられたため、道真の力を借りることになります。ところで従者の是則さん、久々の登場です。

常行が足しげく通う小雪姫、姉弟である以上、凛々しげで色気も漂う武市丸とそっくりと思いきや、それとはかなり違っており、おかめのような顔とでも言うべきでしょうか。尤も平安時代の一時期は、こういう顔が美女とされていた頃もあったようなのですが…。


[ 2021/06/08 23:45 ] 応天の門 | TB(-) | CM(0)

『応天の門』菅原道真、遊行する比丘尼と会う事四

『応天の門』、前回で死体で見つかったはずの大師こと青海尼は、実は生きていました。

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大師は長岡の菅原家の別荘で目を覚ます。そこへ在原業平がやって来て、大師と青海尼が同一人物であることを見抜く。化粧を取った大師は、正に青海尼であった。清原定成は財産を殆ど大師につぎ込んでしまい、また他の貴族の子弟、彼女に言わせれば「馬鹿な公達」も色々褒美をくれたので、それを元手に貧しい者たちに金や米を与えていたのである。

何故そのようなことをするのか、いぶかる道真に、大師は今までのことを話して聞かせる。かつて長岡京で、内教坊に勤めていた舞姫が密かに子を産み、その子に色々な芸を教えた。やがてその子も舞姫となって都へ出、人々はあの舞姫の再来と騒いだ。それが彼女の祖母だった。その祖母は出家をし、やはり舞姫である自分の娘が持ち帰った褒美を、金や米に変え、長岡の人々に分け与えるようになり、青海尼と呼ばれるようになった。

その娘の、そのまた娘がこの大師=青海尼だった。流行り病で母と双子の姉は亡くなり、自分ひとりで大師と青海尼を引き継いだのである。大師は節会の舞を教える仕事がある、遊行の身ではあるが、仕事はきっちり片をつけたいと言う。定成に見つかる危険もあったが、舞の師匠としての務めをこのまま終わらせるわけにも行かなかった。

そんな大師に道真は、彼女が不老不死の天女と言われていることを逆手に取って、ある秘策を授ける。大師は再び清原家へ戻って、残った8日分の褒美の対価として引き続き定成の相手を務める。

しかし定成は怨霊だと言い、ならば切ってみますかと刀を大師は差し出す。定成は誤ってそれで彼女を差してしまい、大いにうろたえるが、実はこれこそ道真の秘策だった。これであと何度か死んでみせれば、清原様も懲りるでしょうと大師は言い、若様はいつもこんないたずらをなさるのかと問う。しかし道真はいたずらではなく恩義を感じていたのだった。そもそもなぜ大師が、そこまで長岡の民に尽くせるのかが疑問だった。

大師は容姿の美しさを武器にして、皆の幸せのために使おうと思ったこと、大師を続けることで、亡き母も姉も記憶の中にいられるのだと話す。そして道真は普通の貴族と違うと言って迫ってくるが、道真は断る。

その後内裏で大師の舞が披露される。これを見た定成はひどく狼狽し、あの女は死んだ、自分が殺したのだと言って、周囲の貴族たちの顰蹙を買う。大師は業平に、恐らくはこれで話に尾ひれがつくだろうし、しばらくする内に、他の大師が現れるかも知れないと言い、今後は引退して尼として諸国を回ることに決めていた。実はかつて業平は彼女に文を送ったこともあった。今でも口説いてくれるかと言う彼女に、持ち合わせがないと業平は残念そうだった。

青海尼は長岡から姿を消した。道真が彼女のことを気にかけていたため、業平は、宣来子どのに言いつけてやろうか、それとも出家するかとからかう。道真は大師が、生まれながらの才を使わないのは愚かだと言ったことを噛みしめ、自分が才だと思っていたのは家柄によるものであり、才やその使い方については、未熟であったことを思い知る。業平は、お前は自分の道を選べるのだから遠慮するな、才ある者は才を役立てろと励ます。

しかし道真は、才ある者には力がなければならないと答える。業平は一瞬沈黙するが、その業平に対して道真は、あなたはやりたいことをやっている、寧ろ謳歌していますよねと揶揄する。その業平は、彼女も今後どちらかを選ぶのだろうが、ああいう女は強い、したたかに生きるのだろうと言う。

その頃源信は、高価な絹反物の請求が来たことに腹を立てていた。弟の融が、大師に与えるために買ったもので、庭といい絹といい、無駄遣いするなと信は憤るが、融は清原が余計なことをするから、大師が消えたとため息をつく。しかしその信は、美しい比丘尼に会っており、御仏のためなら、助力は惜しまないと約束する。

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少し長めですが、青海尼関連の最終話です。やはり大師と青海尼は同一人物でした。祖母、母の跡を継いで大師と青海尼を、一人二役でこなしていたのです。元々彼女には双子の姉がいて、母亡き後はどちらかが舞姫、そしてどちらかが尼となるはずでしたが、うち一人が子供の頃に亡くなり、両方の役目を引き受けざるを得なくなりました。しかしそうすることで、母と姉が記憶の中にいられると彼女は言います。

その大師、舞姫とは表向きで、貴族に体を売る商売もしていたわけですが、これも尼としての活動を助けるうえでは大事でした。もちろんあくまでも仕事であり、懇意の清原定成のことを、クソジジイ呼ばわりするのを見て道真は驚きます。

しかしその道真は、普通の貴族とはちょっと違うと思った大師は、一度私とと誘うものの道真は当然拒み、普通の傲慢な貴族は嫌だと言いますが、大師はではどんな貴族になりたいのかと探りを入れます。こういう相手には、道真もたじたじです。

その大師が、恐らくは本当に尊敬していた貴族が在原業平でした。彼女は業平に別れを告げ、道真は道真で、本を読んだだけの知識は知ではない、それをどう活かすかなどとも考えていなかったと、彼にしてはしおらしいことを言います。とどのつまり道真は、才ある者が才を発揮するには、力がないとどうしようもないと言いたいわけです。

一方で、俗世間にまみれたような源信と融の兄弟は、大師に貢いだ貢がないで口論になっていました。その信も、とある比丘尼に助力を惜しまないと約束するのですが、その比丘尼はどう見ても青海尼のようです。それにしてもこの件で一番馬鹿を見たのは、自業自得とはいえ、大師にうつつを抜かした清原定成であると言えるでしょう。

[ 2021/06/03 00:45 ] 応天の門 | TB(-) | CM(0)

『応天の門』菅原道真、遊行する比丘尼と会う事三

『応天の門』、道真と業平は、怪しげかつ妖しげな比丘尼の青海尼と出会います。彼女が超人的とも言えるからくりを村人たちに披露し、道真がそのからくりを解き明かした時、早馬がやって来て、宮中での諍いを知らせます。

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源融が重傷を負ったとの知らせを受け、業平は融の屋敷へ駆けつける。門前のものものしさは只事ではなく、業平は屋敷の中へ入るが、実は融は鼻から多少出血しただけだった。右大臣清原定成の笏が当たったせいだったが、そもそもは定成が融につかみかかったのが原因だった。なぜつかみかかったのか、それは融が、かの大師に宴で舞うように所望したためで、大師に入れあげてた定成は融を中傷し、屋敷の門前に牛糞を積み上げていたのである。門前が騒がしいのはそのためだった。

定成は謹慎となったが、融の怒りは収まらず、融の兄信(まこと)から、大事にならぬよう取り計ってくれと依頼された業平は検非違使庁へ向かう。一方落馬した道真は、青海尼の例の手品のような行為が気になっていたが、その青海尼は既に菅原家の別荘を出て行ってしまっていた。道真は柏木に、かつて彼女が見たことのある青海尼は、本当に昨日の青海尼と同一人物だったのかと尋ねる。柏木はその当時の、二人の童女を連れていた青海尼と同じであったと答える。

道真は下男と共に鷹の鋼丸を空中に放してやる。折しも青海尼は村人たちといたが、たちのよくない男たちに絡まれていた。鋼丸がその男たちを襲い、青海尼は事なきを得て道真に礼を言う。その時菅原の若様と青海尼が口にしたため、村人たちは一斉に驚く。しかし道真は、この尼がどうしても不老不死の仙女とは思えないだけでなく、なぜわざわざ手品のようなことをするのかを問いただし、さらになぜ寺を持たぬのかと言うが、青海尼は自分はいやしき身の上だからと答える。

しかしその割にはかなりの砂金を村人に与えたり、言うことと行うこととがかなり矛盾しており、そこが道真の腑に落ちない点だった。さらに道真は、青海尼は貴女で何人目なのだと尋ねるも、青海尼は曖昧な答え方をするのみで、その場を立ち去ってしまう。その頃都では清原定成が、謹慎中であるにもかかわらず、大師をしきりに求めていた。しかも贅の限りを尽くした品を贈り、節会の舞を三条の姫君に教えると言う大師の言葉にも耳を貸さず、彼女を独り占めしょうとする。

その後こっそり屋敷を出て行った大師を、定成は無理やり引き止めようとする。定成は大師を無理に連れ帰ろうとし、挙句の果ては彼女の首に手を回し、橋げたに押し付ける。その時大師の体が宙を舞い、川の中に落ちてしまったのを見て、定成は大いにあわてるが、それ以上は何もできず、屋敷に帰らざるを得なくなる。しかしそばを通っていた業平が水音に気づき、女の死体を発見する。それは言うまでもなく大師だった。

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宮中での諍いは、源徹が宴席で大師の舞を所望したのに対する、清原定成の嫌がらせが発端でした。定成は謹慎処分となります。一方で道真は、例の青海尼がどこか怪しいとにらんでいました。彼女が砂金を出す方法などは、昭姫の手品そっくりであり、しかも柏木がかつて見た青海尼と、目の前の青海尼が同一人物なのかも不明でした。しかし青海尼ははっきり答えることもなく、その場を去って行きます。

一方で謹慎中にもかかわらず、定成は大師を屋敷に呼ばせ、睦言を交わしていました。しかし定成が寝入った隙に大師は出て行き、定成は驚いて後を追います。そして意地でも大師を我が物にせんと思うのですが、大師は橋げたから川へ落ちてしまい、助けようとするものの定成は屋敷に連れ戻されてしまいます。その時近くにいた業平が見たのは、大師とおぼしき女の死体でした。

[ 2021/02/25 00:30 ] 応天の門 | TB(-) | CM(0)

『応天の門』菅原道真、遊行する比丘尼と会う事ニ

『応天の門』、この間の投稿から2か月以上経ってしまいました。長岡京を訪れた道真と業平ですが、そこで、青海尼と名乗る尼僧に出会います。

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指の間から黄金や米を出し、村人に施す青海尼に業平は見覚えがあるようだった。そんな業平に道真は、まさか尼にまで手を出しているのかと気色ばむ。しかし業平は、彼女の香の匂いに覚えがあっただけだった。青海尼は業平の牛車の牛まで自由に操り、2人に背を向けたままその場を去る。やがて菅原家の別荘では、桂木(菅原家の女官柏木の姉)と下男が出迎えてくれた。業平は下男に馬を準備させ、水を飲ませた後門前につないでおくように命じる。

道真は、業平の鷹狩は翌日の予定であると聞いていたため、このことを不審に思う。そして業平と道真はまたも連れだって出かけるが、その場に猪が現れる。このため道真は落馬し、腰を打った上に、馬が走り去ろうとする。するとあの青海尼が現れ、馬を鎮めて一同を驚かせる。青海尼は道真が指摘した通り、吉草根(カノコソウの根)の香りで馬を落ち着かせていた。業平からどこの寺にいるのか尋ねられた青海尼は、自分は遊行の身だと答える。

そこで道真は、この辺りは野生動物も多いことから、自己紹介をし、菅原家の別荘にお泊めしたいと申し出る。青海尼はそれを承諾し、業平はいつからそんなに信心深くなったと訊かれる。しかし道真の真意は信心ではなく、なぜ遊行の尼僧にふさわしくない高価な吉草根を持っているのかということ、そして、馬を鎮めた時の身のこなしが普通の尼僧ではないこと、この2つの理由を知りたかったのだった。

柏木と下男は、青海尼をまるで仏でもあるかのように迎え入れ、道真は傷の手当てをして貰いながら、柏木にその理由を尋ねる。柏木は青海尼は御仏の化身、生き神様であると言う。実際下男も、青海尼が起こした不思議な出来事を業平に話して聞かせる。また年齢は二百歳とも言われ、道真がそれを否定すると、柏木は本気になって腹を立てた。

青海尼は元々仙女の血を引くと言われ、1人の時もあれば、御仏の守りの化身である、瓜二つの童女を連れている時もあった。さらに村が危機に瀕している時には、必ず現れるとも言われていた。青海尼は薄粥と白湯を口にしただけで休んだと柏木は言い、物は食べるのかと道真は納得する。さらに彼女が神仏であれば、この傷も治してほしいと言う道真に、柏木は、御仏のお力があればこそこの程度で済んだと答える。結局尼の前で殺生はできないと、業平は鷹狩を延期し、また青海尼が不老不死の美女であることから、かの国師と尼とがだぶって仕方ないようだった。

その後業平は道真の許を訪れるが、道真は急にこれを見てくれと右手を突き出す。道真は多少手こずっていたようだが、やがて指の間から砂を出して見せた。道真によれば、要は青海尼は固めた穀物や砂金を握り、指でほぐすことで、あたかも米や黄金が出て来るように見せているのだと言い、かつて昭姫が同じようなことをしていたと話す。しかも芸として見せるのではなく、単に貧しい者に施すなら、何もこのようなことをしなくても、米や金を与えればいいわけで、道真はその点に引っ掛かっていた。

その時京から早馬が来た。宮中で諍いがあり、源融が重傷を負ったと言う。一命は取り留めたものの、すぐ業平に戻ってきてほしいという知らせだった。

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さて青海尼、如何にも霊験あらたかといった振舞いで、村人の尊敬と信頼を集めています。別荘の柏木と下男に取っては、この尼はさながら生き神に等しい存在のようですが、それが道真は気になって仕方ないようです。しかも尼が行っていた「奇跡」は、昭姫の手品と似たようなものでした。なぜこのようなことをするのか、そして高い吉草根をなぜ持っているのか、馬の扱いに慣れているのはどうしてなのかと疑問に思う道真。

そして業平もまた、この尼と国師が似ていることが気になるようです。以前嗅いだ香りと似ているというのは、国師の香と同じであるとも考えられます。さらに道真が、恐らくは青海尼が使っている手品のからくりを見せた時、京から早馬がやって来ます。源融が宮中の諍いで、重傷を負ったということでした。何やら血なまぐさい事件のようですが、このことと青海尼、そして国師は何か関係があるのでしょうか。

[ 2020/11/25 00:30 ] 応天の門 | TB(-) | CM(0)

『応天の門』菅原道真、遊行する比丘尼と会う事一

久々に『応天の門』です。試に落ちた道真は、書倉で貪るように本を読みまくります。

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道真が書庫に籠るようになって五日目、白梅は食事を摂るように懇願していた。彼女が書倉の外に置いた食事は時々手を付けた跡があり、父是善はならば心配ないと言う。是善は試験官に、少しでも至らぬところがあれば遠慮なく落とせと口添えしており、あとは息子に、自分が何が足りないかを自身で探求させるつもりだった。

その一方で、内教坊(宮中で舞姫のための楽舞を教えた場所)に大師と呼ばれる伎女が、舞の指導のために来ていた。この大師の美しさは有名で、仙女の娘であるとか、天女であるともささやかれており、かの業平も振られたことを告白する。またこの大師を、夜の伽の相手として、大枚はたいて買った大納言が、二日で寝込んでしまったなどという噂もあった。

業平は鷹狩をしようと考えていた。そこで菅原家の別荘を借りようと菅原邸を訪れ、是善直々に書庫の道真を呼び出してもらった。業平はそろそろ外へ出たくなったのではないかと言い、道真を誘おうとする。また是善も、書倉で少々調べ物があるので、そなたの出入りはしばらく禁ずると言い、道真は長岡の別荘へ、業平と向かわざるを得なくなる。しかしこの是善は、以前鷹狩はならぬと道真に忠告してもいた。

かつて都があった長岡も今は荒れ果てており、別荘など名ばかりだと道真は道中口にする。そんな折、行き倒れか病人と思しき者を道真は見つける。田畑は荒れ、水しか口にできないというその男の側に尼がいて、御仏はお見捨てにならないと、手から何かを出し、持って行かせた。その男も仲間の農民たちも驚き、奇跡であると叫ぶ。

業平は一見米のようにも見えるそれが、何であるのかを知りたがる。青海尼と呼ばれる、農民たちを救ったその尼は、まだ若く美しかった。

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のっけから国師なる伎女が登場します。舞を教えるのみならず売春もやっているようですが、その美しさはこの世のものとも思えぬと官人たちは一様に口にします。

片や道真は試に落ちた後書庫に籠りきりでしたが、業平が鷹狩のために菅原家の別荘を使いたいとやって来ます。また父是善も、自分が書庫を使うからと、道真を業平に同行させてしまいます。鷹狩はいけないと言っていたはずなのですが、どうにかして息子を外に出したいようです。別荘など名ばかりと言う道真は、荒れ果てた長岡に業平とやって来ますが、そこは作物ができず、青海尼なる尼僧が農民を救おうと「奇跡」を起こすのを目の当たりにします。

[ 2020/09/11 23:30 ] 応天の門 | TB(-) | CM(0)

『応天の門』大学寮にて騒ぎが起こる事三

かなりさぼってしまいましたが、『応天の門』続きです。己の才をどのように使うかで道真は悩みます。そして業平が通う女の家でちょっとした事件が起こり、是則が相談にやって来ます。

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業平の従者是則がもちかけた相談事とは、業平が通っている女の家の出来事だった。この手のことに興味がない道真は、さして乗り気のしないまま話を聞くが、その家で牛車を止めていると、必ずと言っていいほど牛が眠り込んでしまうと是則は言う。おかげで業平の滞在も長くなりがちだった。道真は誰も困っていないようだからと帰りかけるが、是則によると、その女は以前自分が付き合っていた相手だった。

道真は最早どうでもよかったのだが、是則は、世の中の不思議なことには仕組みがあると言ったこと、この裏にも何かあるのではないかと言うことから、道真への相談を決意したのだった。道真は仕方なく是則の頼みを引き受けるが、どう考えても主業平より家来の是則の方が、この手のことに理解があるようだった。

その女の家に向かった道真は、植えてあるのが薬草ばかりであることに気づく。そのせいか牛には飼葉が別に与えられており、是則が持って来たその中には紫陽花の葉が刻んで混ぜられていた。この植物は牛馬には有毒であり、故意に混ぜたのではないかと是則に話していたところ、業平が姿を現す。

事情を聞いた業平は、あろうことか是則の以前の女と知りながら通っていた。実は是則もその家で酔いつぶれたことがあり、業平は彼女を怒らせないよう穏便に姿をくらますことにする。業平は道真の試についても尋ねた。この試は知識量を試されるだけの形式的なもので、業平もその在り方に首をかしげる。一方で是則は、道真に密かに礼を言った。

さて試の結果発表の当日、道真と長谷雄は有兼が荷物を背負って出て行くのを目にする。有兼は「ただあなたが羨ましい」と言って出て行き、そして2人とも結果は不合格だった。橘広相は有兼が、自ら不正をしたと申し出て去ったことを伝える。

一方道真は、自分が不合格なのは贔屓と思われたくないが故の判断と言うが、要はただの実力不足であり、書かれていたのは書にある知識だけで、己で得た答えではないと一喝される。確かに菅原是善の子ともなれば、おのずと基準が厳しくなることもあるが、まだこの点では若さゆえの弱み、世間知らずが出てしまっていた。

道真は今まで出会った人々に言われたことを思い返し、さらにこれからまだ伸びると言われたことから、踵を返して大学寮を出ようとする。講義が始まるぞとの忠告にもかかわらず、道真はこう言った。
「学びに」

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この第8巻は、大学寮中心で物語が進み、道真は自分の才を如何に使うかで悩むことになります。実際業平も、学問よりもお前とやっていることの方が面白いと言っていたのに加え、暦の件で会った陰陽頭家原郷好からは、才とは機に恵まれるものと言われたこと、さらに、その偽の暦を作った古川幹麻呂の「お前には何でもできるだろうよ」というセリフなどなどが彼の脳裏をよぎります。このようないきさつから、道真は、学問とは何のためにあるのか、自分には何が足りないのか、考えを巡らせます。

その一方で、都では伎女の舞師の妖艶さが人々の話題となります。そして菅原家の別荘がある長岡では、美しく怪しげな尼僧が現れます。どちらも何やらいわく付きのようです。

[ 2020/06/06 23:30 ] 応天の門 | TB(-) | CM(0)

『応天の門』大学寮にて騒ぎが起こる事二

久々に『応天の門』です。道真と安野有兼は試を受けることになります。その前の大学寮の火事で、道真はこの有兼を庇っていますが、相変わらず他の学生たちは、道真のことをよく言いません。

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普段大学寮に来ない道真と、貧乏ながら真面目な有兼が一緒に試を受けることになり、周囲の者は道真のことをとやかく言っていた。有兼はこの試に合格し、紀元道で身を立てるつもりでいた。ただ有兼は道真に助けられた件で、菅家に取り入ったといわれており、そのことを気にしているようだった。道真ははっきりと、自分は政治にも富にも興味がないと言う。

しかしなおも大学寮では、父是善が事前に問題を教えるのでないかと囁き合う者たちもいた。しかし是善は今回の試には関わっていなかった。道真も自分の力を見るためと割り切り、あたふた試験勉強をすることもなく試に臨む。そして試が始まった。道真は有兼が、よどみなく筆を動かすのに驚く。そして最初の試が終わり、しばし休憩となった。

道真は有兼に話しかけるが、有兼はしきりに左袖左の汚れを気にしているようだった。道真はそれを不審に思う。そして再び試が始まり、やはり有兼は躊躇することなく筆を動かしていた。しかしその最中に、文字を書きつけるための木簡が落ち、有兼は慌ててそれを右手で拾った。しかし左側に落ちたのだから、この場合は左手で拾うのが自然であった。

試が終わり、道真は有兼に木簡の件に加えて、書く速度が速く、しかも誤字を削るための小刀の使用が少ないことを問いただす。そして左袖の汚れは、実はあらかじめ書いてあった文字を消したことを見抜く。しかし有兼は開き直り、自分には後ろ盾もないからこうするしかない、あなたとは違うんだと答える。道真はこう言って有兼と別れる。「残念です」

一人家路をたどる道真に長谷雄が話しかけて来る。これで認められて、もう一つ上の試験である対策を受けることになったら、自分から離れて行くようで寂しいと長谷雄は言う。しかしその一方で呑気に、偉くなっても遊んでくれと言う長谷雄に、道真は一人で考え事をしたいと伝えて帰途につくが、その時業平の従者是則が話しかけて来た。

道真は、業平には忙しいと言ってくれと是則に頼むが、是則は業平のことではなく、個人的に相談したいことがあると言う。しかもそれは、業平には内密にしてほしいということだった。

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滅多に大学寮に来ない、しかも是善の子の道真がいきなり試を受ける、しかも真面目で努力型の有兼と一緒ということで、大学寮の学生の多くは有兼に同乗していました。そして道真も、有兼の能力は認めてはいたのです。しかし、試の最中に不正、所謂カンニングをやっていたことがわかり、道真はがっかりします。しかし貧しくて後ろ盾もない有兼は、こうするしかなかった、あなたとは違うと言います。これは暦の時と同じパターンです。尚この当時は木簡に文字を書き、誤字は小刀で削って書き直しました。「刀筆の吏」という言葉の通りです。

[ 2019/11/12 23:15 ] 応天の門 | TB(-) | CM(0)
プロフィール

aK

Author:aK
まず、一部の記事関連でレイアウトが崩れるようですので修復していますが、何かおかしな点があれば指摘していただけると幸いです。それから当ブログでは、相互リンクは受け付けておりませんので悪しからずご了承ください。

『西郷どん』復習の投稿をアップしている一方で、『鎌倉殿の13人』の感想も書いています。そしてパペットホームズの続編ですが、これも『鎌倉殿の13人』終了後に三谷氏にお願いしたいところです。

他にも国内外の文化や歴史、刑事ドラマについても、時々思い出したように書いています。ラグビー関連も週1またはそれ以上でアップしています。2019年、日本でのワールドカップで代表は見事ベスト8に進出し、2022年秋には強豪フランス代表、そしてイングランド代表との試合も予定されています。そして2023年は次のワールドカップ、今後さらに上を目指してほしいものです。

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