久々にというか、「今年初めて」の『応天の門』関連投稿です。
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源融の別邸の庭が完成した。融は「この世の極楽」を謳い、在原業平や、主だった者たちを招待しようとする。
しかし藤原良房は、子の基経を出席させることにした。融は菅原是善に、道真も連れて来るように言う。道真はまだ文章生であり、是善は頭を抱えるが、融は庭作りに道真が貢献しているため、是非庭を見てほしいとも言うのだった。
是善は屋敷に戻り、融に何をしたのか道真に問いただす。実はその前に業平から文が来ており、父是善と話を合わせるように書かれていたため、融が桜の植え替えについて困っていたので、助言をしたのだと答える。道真も融の屋敷の宴には乗り気ではなく、是善は宴の間中、牛車の中で待つようにと言う。
融は藤原の者共に、美とは何かを見せつけてやると息巻いていた。基経も出席し、國経や遠経といった兄たちとも顔を合わせるが、最早基経は彼等を兄とも、上の立場とも思っていなかった。何よりも良房は融の宴に出席する機など微塵もなく、世辞を言うつもりもなかった。基経を名代にしたのはそのためだったのである。
また藤原良相は子の常行に、帝のおられぬ宴などどれだけ人を集めようが意味はないと言い、その帝は今多美子と清涼殿におられること、誰が庭を作ろうが、どう足掻こうが、多美子が男児を生めば次の帝になると言い放つ。宴は融への様々な社交辞令であふれており、魑魅魍魎の集まりといった感じで、是善は道真を連れてこなくてよかったと安心する。
その道真は牛車の中で書物を広げており、宴には関心はないが、桜がどうなったのかが気になっていた。さらに尿意を催し、車を降りて用を足したところ、車の牛追いたちが何事かを争っていた。小石の山から一度に3個を上限に石を取り、最後の1個を取った方が勝ちで、負けた方が何かを渡すという一種の賭けだった。
道真はその様子を見ていて、自分も参加することにするが、この遊びは後手が必ず勝つようになっているのがわかる。小石は全部で48個、4の倍数だった。3個までの石を上限にするのなら、石は全部で48個あるため、先手が取った数と合計して一度に4個ずつを取って行けば、先手がいくつ取っても最後の1個は必ず後手に来て、後手の勝ちとなるのである。
しかし道真は先に1個を取った。この方法だと最後に1個取る方法は難しくなり、牛追いは負けて面白くなさそうだった。自分が今度は負けたということは、この遊びの必勝法だけ教わったのかと道真はあっさりと言う。この牛追いはその言葉にかちんと来て、自分の主は学者だと言うものの、道真は色々な家の人物が来ており、名前を出すと厄介なことになると窘め、賭けで取り上げた物を戻すように言う。
道真はさらに言う。知識をどう使うかはそれぞれで、バカが自滅するのは勝手だが、学問や知は知らぬ者から奪うためにふるうものではない、自分は違うと言う。牛追いは捨て台詞を残して走り去っていくが、道真も車に戻らなければならず、屋敷の中をさまよっている内に、ある男と出会う。
その男の身なりのよさ、年齢と振舞いからして、藤原一門の人物であることはできた。道真は自己紹介をする。是善の嫡子であることに、その男、基経は思うところがあり、こう口にする。
「吉祥丸の弟か」
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前半部分、これは例の古桜を植える件で、道真の助けを借りた源融が、自分の庭を特に藤原氏の人々に自慢したいわけです。しかし道真は、そういう宴会ははなから興味がなく、また是善も、道真をそのような場に出すことにあまり乗り気ではありませんでした。それにしても業平さん、父上と話を合わせておけと文を送るところはなかなかのものです。
融の屋敷では宴が繰り広げられ、このような場に姿を見せたくもなく、社交辞令も言いたくない藤原良房は、基経を代わりに行かせます。その基経は久々に兄たちに会いますが、心の内では彼らのことなどどうでもよさそうです。また良相は、帝がおられないのなら意味がない、多美子が男児を生めば自分たちに権力が転がり込んでくると考えており、藤原氏内部の軋轢が垣間見えます。
さて道真。牛車の中にいたものの用を足したくなり、外へ出て戻る途中、牛追いの童たちが何かやっているのに気づきます。それは小石の山から上限3個を選び取り、最後の1個を引いた方が勝ちという遊びでした。なぜか一方の牛追いが勝ちっぱなしで、もう1人は既に昼食の餅と牛角の小刀を取られていました。
道真はこのトリックを見破ります。つまり小石の総数は4の倍数の48個で、上限を3個として引いて行くというルールのもと、先手が取った数と合わせて、一度に4個分がなくなって行けばいいわけです。つまり
牛追いA(先手)3 3 3 3 3 3 3 …3
牛追いB(後手)1 1 1 1 1 1 1 …1
と、先手が3個ずつ引いて行けば、後手は1を引いて合計で4個を引くことになります。あとは先手が3個を引く限り、後手は1個ずつ引いて行けば、最後の1個は必ず後手の物になり、賭けに勝つわけです。
しかし勝ちっぱなしだったその牛追いも、必勝法のみを教えて貰っており、いざ立場が変わるとなすすべなしのようでした。相手が3個引いてくれていたおかげで、自分は難なく最後の1個を手にしていたのですが、勝手が変わったため、最後に4個残ってしまい、最後の1個を引けなくなったのです。牛追いはキレてしまい、バーカと捨て台詞を残して去っていきます。道真も牛車に戻ろうとしますが、屋敷内に迷い込み、ある人物と対面します。その人物こそ藤原基経で、道真が「吉祥丸」の弟であることを知る人物でした。