久々に『応天の門』です。都の神泉苑で魂鎮めの祭が行われますが、その時帝めがけて矢が射込まれ、祭は一旦中止となります。しかしその矢は帝ではなく、藤原氏の長良房を狙っていたようです。一方で、祭になんら興味を示さない道真の許へ、伴大納言善男の息子である中庸(なかつね)が尋ねて来ます。中庸の様子を見て、ただことでないことが察せられ、道真は善男の屋敷へ向かいます。そこで彼が目にしたのは、血反吐を吐いて苦しむ善男でした。祭の宴で酒を振る舞われ、その酒に毒が盛られていたのです。
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道真が毒を吐かせている間、一人の女が追われていた。その女は誰かに命令されて、酒に毒を盛ったのだが、結局消されてしまう。一方善男の甥豊城(とよき)は、相変わらず飲み歩いていて、祭で何が起こったのかも知らんふりを決め込む。そして藤原常行は、帝から武装を禁じられているにもかかわらず、私兵を出して良房の屋敷の防備を固めさせるも、良房にいわれて兵を退かせる。その良房は、最近の基経の行動、特に自分の私兵を使ったり、怪しい者を重用していることを訝しんでいた。
その頃在原業平をはじめとする検非違使たちは、矢が射込まれた理由を探す。業平は道真を呼びにやるが、道真は友人の所へ出掛けて留守だという。業平は、てっきり道真も祭に興味を示し、紀長谷雄の所へ出掛けて、祭りを楽しんでいるのだろと考える。しかしその道真は、伴家の屋敷で善男の治療に当たり、不眠不休の日々を送っていた。眠気覚ましに顔を洗う道真に、母屋の方から声が聞こえる。善男が意識を取り戻したのである。
善男は何とかして立ち上がろうとする。毒はかなり抜けたようだったが、しばらく安静にと言い、道真もその場に転がってしまう。善男は道真に、是善の所の阿呼(幼名)かと話しかけるが、道真はこう答える。
「もう阿呼じゃありません。今は道真です」
やがて祭りも終わり、再び公家たちが参内して来た。常行は業平にその後の様子を訊くが、業平は一向に下手人の手掛かりがつかめないと言う。しかも矢が放たれた場所からは、帝の高御座は見えないということだった。常行は、これでは藤原の自作自演と思われるかもと危ぶむ。
むやみやたらに対抗勢力を疑うこともしたくない、しかも当主が狙われたとあっては外聞が悪いということで、常行は証拠がはっきりするまで、帝には適当に取り繕うことにした。もし証拠が上がればとの業平の問いに、常行はこう答える。
「そのときは本当に根絶やしにできる」
業平は藤原の何たるかを見る思いで、背筋がぞっとした。しかし参内した貴族たちの中に、大納言である伴善男の姿は見えなかった。
一同があれこれ噂をしている所へ、当の伴善男が現れる。帝の顔色が悪いようだがとの問いに、善男は平然と、少々酒を過ごしたと答える。当てが外れた藤原基経。そして良房は如才なくこう言う。
「大納言殿はまず御酒を控えられよ」
その白々しい様子を目にする業平。帝は基経と常行の労をねぎらう。
そして都大路では、道真が長谷雄から祭の様子を聞かされていたが、道真は、自分も忙しかったのだと言う。事情を知らない長谷雄は、書を読むのに忙しかったのかと不思議がるが、その時一台の牛車が二人に近づいて来た。
車から顔を出したのは、他ならぬ伴善男だった。思いもかけない大納言に長谷雄は驚くが、善男は、道真に乗って行けと勧める。自分は歩くからと道真が答えると、車は遠ざかっていった。長谷雄は、なぜ道真が大納言と親しくなっているのか、祭の間に一体何があったのか、その理由を訊きたがる。色々あったのだと答える道真。長谷雄は納得しない様子で、色々あったとは何かとなおも訊きたがるのだった。
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伴善男に毒を盛ったのは、やはり基経でした。しかしその善男が、平気な顔で参内して来たため、肩透かしを食わされてしまいます。尤も、このまま引き下がるような人物ではないのは事実ですが、次はどのような手を打ってくるのでしょう。