『相棒』シーズン18第12回、青木年男拉致監禁の回です。監禁された中で彼は何をやっていたのでしょうか。
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ある朝サイバーセキュリティ対策本部の、土師太が特命にやって来た。青木年男が杉下右京から借りている本「蟻地獄図鑑」を返しに来たと言うが、杉下は心当たりがなかった。しかも青木は、緊急手術を受けるという電話をかけて来ていた。冠城が連絡しようとしても携帯はつながらず、さらに警視庁内部の資料に外部からログインした形跡があった。
青木の仕業と睨んだ杉下と冠城は、青木のマンションの外で、彼のカバンを発見し、何かで拉致されたと考える。刑事部長の内村は、アクセス権停止を命じるが、そうすると警察が気づいたことがばれ、青木の身に危険が迫る可能性があった。一方で、青木の性格からして素直に言うことを聞くとは思えず、情報を易々と相手に渡すリスクも低いと考えられた。案の定青木は屁理屈を並べ、犯人に自分の主張を呑ませようとしていた。しかしもし殺されでもしたら、警察がマスコミの餌食になることは避けられず、また青木もそれを見越してわざとパスワード解析に時間をかけているように見えた。
外部に漏らすなという内村の命令のもと、捜査一課は現場へ向かい、特命はファイルにあった神田北署へ行った。2019年の事件ファイルをすべて見せてくれという要請に、神田北署刑事第一課係長の後藤は、怪訝な表情を浮かべる。それは署長の梅本も同じだった。結局木村という巡査がファイルを持ち出し、さらに後藤から2人を見張るように命じられる。
一方青木は、ナイフを突きつけられながらも、敢えてパスワード解析に時間がかかるふりをして、時間稼ぎをしていた。青木がログインしていたのは、金狼会幹部刺傷関連のファイルで、木村は杉下たちの要請ですべてのファイルをコピーする代わりに、木村は捜査の同行を願い出る。金狼会の広瀬は、銀龍会の組長黒川の愛人に手を出したことで、銀竜会の古参相良に刺殺されかけたと話すが、黒川はそれを真っ向から否定する。
組対5課の暇課長こと角田によると、相良は昔ながらの情に篤いヤクザで、だれかの身代わりをしているのではないかと言う。また木村はその前に、飲み屋で相良が、組の構成員河野を組から抜けさせようとしていたのを目にする。その河野は、黒川の息子龍臣から呼び出しを受けていたが、当日は黒川にも龍臣にもアリバイがあり、後藤はそのまま相良を送検してしまう。しかも相良は取り調べではかなり詳しく供述し、誰かを庇っているように見えた。
青木は別の資料ファイルにもログインを試みていた。杉下は土師の助けを借り、石井直久という人物が、息子琢也が事故で搬送されたと連絡を受けて病院へ急ぐ途中、石段で会社員の千葉義人を押しのけ、死亡させたことを知る。杉下と冠城は再び神田北署へ行き、木村に映像をチェックしたいと言うが、防犯カメラの映像はなく、神田北署ではこの石井の自供と千葉に同行していた浜崎、戸川の証言のみで送検し、石井は重過失致死罪となっていた。冤罪の可能性もあるというのに、石井本人もその事実を受け入れていた。
その後冠城の調査により、千葉はパワハラをしていたという事実が浮かび上がるが、調書にはそれは記載されていなかった。浜崎と戸川がパワハラを逆恨みし、それを利用して、転落した千葉の息の根を止めた可能性もあった。しかも木村はその操作を途中で降ろされていた。防犯カメラの映像があればという杉下に、冠城は何とか映像を調達する。そんな中、事件の関係者で所在がわからない人物が浮上する。それは石井の息子で、慶明大の学生の琢也だった。
就活を控えて、父親が犯罪者では具合が悪いからだと伊丹は言うが、もし琢也が犯人の場合、自分の犯行だとバレないように、他の事件のファイルにもアクセスをさせた可能性もあった。しかし杉下は別の可能性もあると指摘。その時土師から、青木が後藤個人のファイルにアクセスしたとの知らせが入る。そのデータが杉下のPCに送られて来たが、それは例の画像に映っていたタクシーのドラレコ映像で、事のなりゆきは石井の証言通りだった。これが犯人が知りたかったの映像だとすると、青木は…と冠城が言いかけた時、杉下の携帯が鳴る。
青木は犯人に脅されつつもファイルをすべて閉じようとするが、その時PCの画面にウイルスの警告メッセージが出る。これに怒った犯人は青木を押し倒してナイフを振るう。杉下たちは現場に行き、そこに倒れている青木を見つけるが、青木は目を開いてこう言った。
「もうちょっと寝させてくださいよ。僕、ずっとろくに寝てないんで」
そこへ木村がやって来た。しかし彼の目当ての石井琢也は既に警察に出頭していた。木村は青木が琢也を装って送った偽メールにつられ、現場へやって来たのである。そして青木はその場を去って行くが、自分を利用したことを一生恨むと捨て台詞を残して行く。
杉下たちは、神田北署に着いた直後に、青木が誘導するかのようにファイルにアクセスを始めたことから、署内に調べてほしい人物がいたと睨んでいた。木村は石井の事件を降ろされたにもかかわらず、事件に詳しいことから独自調査をしていたのである。相良の件もしかりだった。しかしキャリアである梅本は、操作効率を重視していたのである。木村は神田北署に来た琢也の訴えを聞き、琢也が無実照明のためなら何でも協力すると言ったこと、後藤が何か証拠をつかんでいることから、青木を使って冤罪を証明しようとしたのである。
また千葉の横暴があると立件し難いことから、それを敢えて後藤は隠したのだった。すべてを明らかにするべきと言う木村の理念に対し、杉下は琢也を犯罪者に言及した。しかも琢也は木村を庇っていた。琢也を死なせないために木村は急いだが、彼にこのようなことをさせたのは自分だとわかっていたからだった。杉下は警察官としてそれを恥じるようにと言い、さらにこうも言った。
「もっとも君がこの先、警察官でいられるなんの保証もありませんがね」
木村は最後に一つだけ頼みがあると言った。杉下と冠城はまたも神田北署を訪れる。実は、後藤も木村と同じ考えであり、また広瀬が刺された件も木村は独自に調べていた。一方捜査一課は、龍臣を真犯人と睨んでいた。その証拠も挙がっており、龍臣が何と言い訳しようが、相良に身代わりをさせたことに変わりなかった。
最後に青木が特命にやってくる。杉下のおかげで土師に借りができたこと、あのウイルスの件も気づいていたのではないかと問い詰め、早々に救助に向かわなかったことで、真相究明を自分の命より重視する気かと声を張り上げた後、実際には杉下は借りていなかった「蟻地獄図鑑」を持ち帰る。
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犯人からナイフを突きつけられる青木年男(テレビ朝日公式サイト)
青木年男、上層部からも捜査一課からも「あの青木だから」で片づけられるのには笑ってしまいます。しかも杉下右京から借りた本が「蟻地獄図鑑」などというのも、この人物らしさを感じさせます。またウイルスの警告が出る際には、恐らくそのことを知っていたと思われますが、犯人が慌てているのにしらばっくれる辺り、また冠城が心配して駆け寄っても、「寝かせてくださいよ」などと堂々と言う辺りも如何にもです。杉下を自分と同等に見たがるところは、中の人が同じという点ということもありますが、正にパペットホームズの
ベインズと一緒です。このベインズも物言いはねちっこくて時に嫌味で、しかもホームズを勝手に自分のライバルとみなし、ホームズと知恵比べまでやってのける人物ですので。
この回は、本人の自供のみで送検させてしまう神田北署と、それに疑いを持つ木村巡査の対比が描かれています。事の真相を知りたい木村は、自ら捜査に同行させてくれと頼むのですが、その木村が最後の最後で、琢也に犯罪を起こさせることになってしまいます。善意が仇となるということか、行き過ぎた正義感と言うべきなのか。結局金狼会の広瀬を刺したのは、相良ではなく、河野を呼び出した黒川の息子龍臣であることが判明しましたが、琢也の父直久は冤罪になるわけでもなく、重過失致死罪が重くのしかかることになります。
しかし冠城亘も内村刑事部長に対し、このことが衣笠副総監にばれたらなどと揺さぶる辺り、特命らしくなって来たものです。一方で土師太、この人物がまたどこか変わっています。組対5課の方から特命を覗き込んでいることで、初めて気づかれるわけですが、しかし土師にしてみれば「出戻り青木」に大いに恩を売れるので嬉しい限りでしょう。無論青木に取っては、それが癪で仕方ないわけですが。
ところで先日『麒麟がくる』の松平広忠が暗殺されるのと、この回の青木が、こちらもまた中の人が同じということもあり、ダブると書いています。これ、広忠が相手に連行されて、あれこれ駆け引きを持ちかけるような展開であれば、さらに似ていたのですが…あちらはちょっと呆気なかったですね。
それから先日、コロナウイルスによるテレワークに関するニュースで、ハッキングに注意するようにと、こちらは本物の警視庁サイバーセキュリティ対策本部の方が警告していましたが、どうにもこうにも『相棒』がダブってしまいました。