先月に
直虎と風林火山と相棒、それぞれの作品の高橋一生さんという記事を投稿していますが、これに登場する「悪魔の囁き」の続編です。村木重雄に影響されて人を殺めた、高橋さん演じる安斉直太郎が、今度は自分が殺されるはめになります。
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精神科医、内田美咲の助手として、村木重雄のカウンセリングを行ううちに、彼に感化され、女性を殺しては片方の耳のピアスを奪うという凶行を繰り返していた安斉直太郎が、腹部を鋭利な刃物で刺されて殺害された。この安斉は、杉下と亀山によって逮捕され、精神鑑定の結果、刑事責任能力なしと判断されて不起訴になっていた。
しかしこれに、被害者の遺族をはじめ世間の批判が相次ぎ、安斉は検察によって強制入院させられていた。この事件は、退院が検討され、看護師と共に外出訓練をしていた矢先に起きたものだった。また、付き添いの看護師である堀切真帆も負傷していた。犯人に、外出訓練のことを知らせたのは誰なのか。
被害者の遺族の父親である、末次が警視庁に自首してきたが、証言は何ら体をなさないものだった。しかも看護師の堀切は、犯人の顔は見ていないらしい。末次が堀切から外出訓練のことを聞いたとも考えられるが、堀切と末次の接点がどこにあるのかは不明だった。
杉下と亀山の取り調べは難航する。そんな時2人は、内田美咲と再会する。彼女は、実は末次の治療を担当していたのだった。末次は、娘を殺されて精神面で不安定になり、安斉の人物像を知りたがっていた。内田は、安斉が犯罪に手を染めていたのを見抜けなかった、自身の責任を感じていた。
内田が提出した診療記録により、末次もまた責任能力なしで不起訴処分になりそうだった。しかしこれは、不起訴とすることで、内田が安斉への監督不十分を逃れるための策とも取れた。しかしもし末次が犯人だった場合、だれが情報源であるかが問題だった。2人は、内田が安斉の外出訓練予定を知っていたことを突き止め、彼女が教えたのではないかと問うが、内田は小さく笑っただけだった。
亀山の妻美和子も、この問題を取材しており、ケガが治って京都の実家にいる堀切に会いに行く予定だった。美和子が自分のと一緒に作った弁当を、杉下の隣でほおばっていた亀山が、ふとこのことを洩らし、亀山は杉下と共に京都へ向かうことになった。かつて堀切が勤務していた、関西の病院での訪問看護のリストに、牧百合江の名を2人は見つける。この人物もまた娘の死で精神を病んでいた。
しかも堀切は東京勤務となってからも、しばしば牧に接触していた。その際に、安斉が悔い改め、治療に励んでいることを話した結果、牧が犯行に及んだのだった。牧は再び自殺をはかっていたが、
一命を取り留め、逮捕となった。
その後内田の前に、杉下が姿を現す。そして亀山、堀切もやって来た。堀切は言う。
「安斉さんは優しい人でした」
牧百合江のことを話した時、安斉はできるだけ一緒にいて、一人にしてはいけないと堀切に忠告していた。それは医者としての言葉なのか、加害者としてのそれなのかと問う堀切に、安斉はこう言った。
「医者としての診断なのか、加害者としての言葉なのか、今の僕にはわかりません」
安斉の件で責任を感じ、職を辞そうとする内田に、杉下はこう言う。
「もう二度とこんな事件は起こさない。そういう気持ちで、続けることはできないんですか」
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いきなり刺される安斉。そして、安斉を殺したと自供する末定、実際に手を下した牧もまた精神を病んでおり、最終的には、美和子の精神鑑定に関する記事を、亀山が読むところで終わります。誰が犯人であるかをはっきりさせるというよりは、精神面でのハンディと、精神鑑定の何たるかを前面に押し出したエピソードといえます。
しかしこの中の
「医者としての診断なのか、加害者としての言葉なのか、今の僕にはわかりません」
は、安斉という人物の二面性を表す言葉として、なかなか示唆的でもあります。
一方大河で小野但馬守が、主である直虎を諫める時に
「目付としての忠告なのか、幼馴染としての言葉なのか、今の私にはわからない」
と言ってもおかしくなさそうですし、実際この2人とも、どちらともつかない微妙な立場に立たされているといえます。『直虎』の場合も、結局誰が彼の失脚の糸口を作ることになるのか、はなはだ曖昧模糊としそうです。