まず、本題に入る前に。松平元康が着ていた甲冑についてです。あの黄金の甲冑、当時の元康には贅沢すぎるのではないかと思われるほどですが、実はこれは現存します。昨年の4月の記事ですが、修復が終わったこの甲冑がお披露目されています。
家康着用の甲冑修理完了 久能山東照宮所蔵、静岡(産経ニュース)
金陀美具足と呼ばれるこの甲冑、記事中に「1560年の桶狭間の戦いの緒戦でも身にまとった可能性がある」とありますが、実際この大河では身にまとっていました。しかし元康の碁へののめり込み方、少々オタクぽいものがありますね。
では、第9回「桶狭間に死す」と『JINー仁ー』との共通点です。これはやはり「野戦病院」でしょう。『仁』では完結編で、上野戦争の負傷者の手当てが描かれます。この上野戦争における旧幕府方、彰義隊の扱いで勝海舟と医師たちの間に対立が生まれ、しかも咲が撃たれて負傷したことが原因で、仁が現代に戻ることになります。
『仁』の中ではペニシリンも外科手術もあるわけですが、もちろん『直虎』ではそのようなものはありません。それもこの場合は、正確には野戦病院でなく、帰り着いた先に「病院」があるわけです。そのため馬に乗れたか、歩いて帰って来られた者のみが、かろうじて手当を受けられる状態でした。
しかしこの場での登場人物の描かれ方は、興味深いものがあります。この中で主にセリフを口にするのは、次郎や傑山を除けば、奥山朝利、娘のなつ、そしてなつの義兄に当たる小野政次のみです。朝利は戦でこのような負傷をしたことを嘆き、なつと政次は玄蕃の死を嘆きます。
つまりなつは、朝利の娘であると同時に小野の人間であり、これが本編の終盤の伏線となっているわけです。実は『仁』でも、咲の兄の恭太郎が彰義隊に入りますが、上野戦争が終わった後、仁はこのように言います。
「あなたが守ろうとしているのは徳川の家ではなく、橘の家ではないのでしょうか」
大河の本編終盤では、娘と孫が小野の人質になっていると、政次に主張する朝利に対して、政次が幾分揶揄するような口調で、それでは御方様が悲しまれると答え、さらにこのように続けます。
「新野様も中野様も、かような大事の時に奥山殿は、寝床の中で己が家のことばかり考えていると失望なされましょう」
仁の言い方を借りれば
「あなたが守ろうとしているのは井伊の家ではなくて、奥山の家ではないのでしょうか」となるわけです。
またこの後、仁が咲の手紙を読み、涙を流すシーンがあります。これも置かれた立場こそ違うとはいえ、次郎が母千賀の手紙を読むシーンとどこか重なります。