『武将ジャパン』大河コラムの、第26回後半部分に関する疑問です。
鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第26回「悲しむ前に」 - BUSHOO!JAPAN(武将ジャパン)
https://bushoojapan.com/taiga/kamakura13/2022/07/04/169379
1.一体なんなんでしょう、当時の日本仏教って。
本人の意思も何もない状態で出家させ、それでどうにかなると思っているのでしょうか?
宗教の形骸化を感じるところであり、そんな雑なやり方で極楽往生を得ようってさすがに虫が良すぎるでしょう。
こうした感想は何も私だけのものではありません。
当時は栄西らが「変えなくちゃ、日本の仏教!」とばかりに鎌倉仏教を形成していきました。
『鎌倉殿の13人』は、当時のそういう行き詰まった空気まで掬い取り、なぜそうなったか?まで理解できるようにストーリーが進んでいるようにも思えます。秀逸ですね。
2.政子は初めて頼朝と会ったときに出したものを運んでいこうとします。
そこへ実衣がせかせかと来て、話があると言い出す。
食べるのかと実衣に聞かれ、わからないけど置いておけば何かできるかもしれないと政子。
3.疲れた政子がうとうとしていると、頼朝が起きあがり、皿を持ちこう言います。
「これは何ですか?」
政子は喜び、人を呼びにいきます。
しかし政子が見たのは、床に倒れ動かなくなった頼朝。
4.鎌倉御家人は武勇に重点を置きすぎですね。
武士にも、そうでない人にも、多くの評価基準が用意されてしかるべきであり、とにかく武芸がイケていれば良いってものでもないでしょう。
5.頼朝には、冗談みたいな約束通り侍所別当に指名してもらったり、あれだけ世話になっておいて、落馬くらいでここまで言われるのはさすがに酷い。忠義ってもんがないのよねー。
1、まず鎌倉仏教と臨終出家について、武者さんがどのくらいご存知なのか疑問です。
本人の意識(意思とありますが意識のことでしょう)がないのは、たまたま頼朝が脳卒中であっただけで、実際には病で余命いくばくもない人々により、これより前の時代から病による出家、あるいは臨終出家は行われていました。かの藤原道長もそうであったと言われています。
それから鎌倉仏教の形成には栄西だけではなく、道元、日蓮、そして浄土宗系の法然や親鸞も含まれます。
この頼朝の臨終出家は、行き詰まった空気がどうこうと言うより、その前の時代から行われていた習慣を踏まえたものであり、都の、そういう習慣に詳しい三善康信や大江広元がそれを持ち出したわけです。
2、例の木の実が、冬であるこの季節にあったかどうかは触れられていません。これが昨年であれば、現場は何をやっているのだと散々叩いたでしょうね。
3、これだと微動だにせず横たわっていた頼朝が起き上がり、皿を持って縁側に腰かけたかのようです。政子が目にしたのは、既に皿を持ち、縁側に腰かけている頼朝(の幻)だったのですが。
4、そもそも今まで幕府という統括機構がないわけですから、どうしてもそうなるでしょう。それにこの当時、多様な評価基準なるものがあったかどうかは不明で、それがあれば、義盛も重忠も粛清されなかったのではないでしょうか。
5、頼朝を担ぐというのは、平家の支配から逃れるという意味が多分にあったはずです。その後、特に鎌倉幕府が成立した後に関しては、頼朝に不満を持つこともあったでしょう。
6.重忠ですら、心底嘆き悲しんでいるのはお身内とごく一握りとか、冷淡に突き放すように言ってしまう。あわわわわ……。
7.下剋上どころじゃねえ。
坂東武者、そもそも上下意識ってもんがねえ!
8.父・頼朝が亡くなった時点で、頼家の年齢は18才。もしも十歳年上か、あるいは年下なら、コトはすんなり運ばれたでしょう。
9.しかし18才というのは、君主としてやっていけるかどうか、なかなか難しいところでして。
10.そう返す頼家ですが……このあと頼家は梶原景時に会い、「言われた通り一度は断った」と告げています。
んん?どういうこっちゃ?
と、思いきや、悪そうな顔のまま「それでいい」と返す景時。快諾したら節操がないと思われるから一度は断れ、と。
そして「これからは新しい鎌倉殿として思った通りに進めていけばよい」と語っています。
御家人の間で孤立しがちな景時には、自分を庇護する主君がどうしても必要だ。
頼家にとってなくてはならぬ存在であるために、動き出したようです。
6、「あわわわわ」じゃないですよ(苦笑)。そもそも畠山は平家の支配下にあり、一旦は頼朝を討ち取ろうとした人物でもあり、まして義盛同様、どこかしっくりいかないところもあったでしょう。
7、この時代「下剋上」と言えるほど、鎌倉幕府は確固たる存在であったかどうか疑問ですし、何より鎌倉時代初期と戦国時代をごっちゃにしていないでしょうか。
8、なぜ「十歳年上」となるのか、その根拠が不明なのですが。要は全成を摂政代わりにするなら、頼家が子供か、あるいはうんと大人で補佐役にするならいいということでしょうか。しかしこの当時、十代でも家督を継げる人物もいたでしょうし、本人の素質というのも関係しているでしょう。
9、ひとつ前に書いていますが、その人の天分にもよるかと。あとこの場合「君主」でなくて「主君」ですね。
10、あらすじと感想でも書いていますが、ひとつ前の回のこのコラムにあった
「こういう懐刀は、庇護する主君がいなくなれば脆い。すかさず頼家に取り入らねば、次なる政争に敗れて破滅が待っています」
という記述、やはり今回のこのシーンで持ってくるべきものだったでしょう。ただこの場合庇護を求めると言うよりは、景時が自分の側に取り込んでいる感じです。
11.「我らは先の右近衛大将、征夷大将軍の死を乗り越え、前へ進むのだ!」
そう言い切る頼家なのですが、どこか軽い。
重石となるにはまだまだ歳月が必要だと思ってしまう。
12.「父上は北条あっての鎌倉とお考えですか? 私は逆。鎌倉あっての北条。鎌倉が栄えてこそ、北条も栄えるのです」
「意味わかんねえ!」
義時が真摯に語っても、もはや何も通じないようだ。
13.彼女は頼家の弱点をよく理解しています。頼朝よりも気が強く、頼朝に似て女好き。いずれ必ずボロを出す。その時が北条にとって本当の勝負だ、と。
頼家がボロを出さなかったらどうする?と時政が尋ねると、そう仕向けるとりくが返す。
孫の失敗を願う、あるいは画策するなんて、どんな祖父なんだよ~!
14.義時はやっとかすかに微笑みます。我が子の聡明さを知ったのです。
頼時は先入観がない。和田義盛と比べるとわかりやすい。
義盛は「どーせ武士らしくねえ無様な落馬なんだろう!」という先入観、つまりはバイアスがかかっていました。
自分がなまじ武芸ができるだけに驕っている面もあり、このバイアスが頼朝への軽蔑心の現れてもある。
15.思考の【仮説形成(アブダクション)】というものですね。
これは何も一から作ったというわけでもなく、北条泰時は理詰めのことを言われると感動するタイプだったとか。
ストレスまみれの中、義時にとっても我が子の聡明さと善良さは癒しです。
後に、そこが対立の一因となりそうな予感もありますが……。
16.「頼家を助けてやってちょうだい」
そう言われても立ち上がり背を向ける弟に、姉は訴えます。
11、頼家はこのキャラ設定だと、歳月が経ってもそう変わらなかったかと思われます。
12、時政の場合は「鎌倉が栄える」ということに、比企の存在を感じ取っていたからであり、それが自分とりくの考えに反するようで、抵抗があったからではないでしょうか。
13、武者さんが好きな戦国時代でも、このようなケースは往々にしてあったのではないでしょうか。『独眼竜政宗』のように、祖父ならぬ母親が嫡男を疎んじる挙句、毒殺未遂までやってしまうとか。
14、少し前にも書いていますが、義盛とて頼朝に対する不満もあったでしょう。巴を側女にしたことも、あるいは関わっているかとは思います。
何よりも義盛は頼時と異なり、頼朝の着衣を見ていません。証拠となる物を見たか否かでは大きな違いがあります。それとこの頼時のシーン、パペットホームズに私はなぞらえていますが、頼時自身の登場のさせ方、謎解きにちょっと唐突な印象がありますね。
15、ここでまた「アプダクション」。
このコラムが大河レビューたりえていないのは、自分が書きたいことに大河を寄せる傾向があるせいかと思いますが、それはさておき。この場合仮説だ理詰めだと言う前に、落馬した瞬間に手をついたのに、着衣のその部分が汚れていないのであれば、落馬する前に気を失ったのではと普通思うのではないでしょうか。
16、これも嫌いな大河だったら、政子のこのセリフを、男に頼ってばかりでけしからんなどと批判したのではないでしょうか。武者さんは嫌いな大河だと、夫婦の当たり前の会話さえも叩くことがあるので。
その他にこういう箇所もあります。
中世は世界的にみて、近代以降よりも女性の権利が強かったことが指摘されます。
とありますが、なぜか日本と中国の例のみがあげられています。少なくともヨーロッパも入れないことには「世界的にみて」とはならないし、しかもこの場合近世が抜け落ちていますね。
結果、りくの夫・時政、実衣の夫・全成の主体性が薄れたようにも思えます。
そしてりくはともかく、実衣の政治的野心をクローズアップするための仕掛けが全成擁立策ではないかと思えるのです。
少なくともこの回の描写に於いては、一番権勢欲を求めていたのはりくだったのではないでしょうか、実衣には姉政子への対抗意識を感じるには感じますが。
しかし今回はあらすじにスペースを割いているせいか、MVPも総評も短めです。実は私もあらすじと感想を書いていて思ったのですが、頼朝の死から後が長く感じられたし、セリフも長めでした。
では続きはまた次の関連投稿にて。