先日、『新選組!』の池田屋事件、そして蛤御門の変の関連回を観ました。この『新選組!』も、結構三谷幸喜氏のカラーが強く出ていたこと、香取慎吾さんが主人公の近藤勇役だったことなどから、賛否両論があり、視聴率もそれほどではなかったのですが、しかしやはり、描くべきことはきちんと描かれていたと思います。大河ドラマは、せめてこのくらいの基準を満たしていてほしいものです。もちろん新選組が主人公ですから、長州や土佐に関してはそれほど詳しくないのは止むを得ません。しかし、主人公サイドのことは、多少創作を交えようとも、基本史実に沿った展開であってほしいものです。
まず池田屋の回ですが、長州側が、新選組に捕えられた仲間の古高俊太郎を取り戻そうと、京の市中に火を放とうと計画しているとの情報が届き、新選組がいくつかのグループに分かれて、主だった旅館を当たります。この描き方が如何にも三谷流というか、御用改めであると乗り込んだものの、ある旅籠では、裸の子供が騒ぎながら走り回っていて肩透かしをくらったり、また別の旅籠では客と間違えられ、女将が出て来ておこしやすと三つ指ついたりするのにはちょっと笑えます。結局近藤、永倉、沖田のいる、最強ともいえるグループが池田屋に押し掛け、武器が隠されているのを発見し、その後は斬り合いとなるわけです。
もちろんこの斬り合いにも、それ相応の時間を取っています。最終的には沖田の喀血、そして宮部鼎蔵の最期となるわけですが、この時も階段落下ではありませんでした。ただ例のセリフ、お前たちの時代も長くは続かないというのはきちんといわせていました。このくらい押さえてあれば、観る側としても納得は行くものです。少なくとも、『花燃ゆ』のやけに端折った池田屋の斬り合いから見れば、これは十分だといえます。また、蛤御門の変にしても、真木和泉がちゃんと登場しますし、久坂の自刃はありませんが、戦闘に至るまでの過程も描かれています。
これで不思議に思うのが、なぜ『花燃ゆ』は、主人公の側である長州が絡んでいても、やたらに端折るのかということです。敵方を端折るのであれば納得が行きますが、味方の側さえも大して描かれていない。これも、無名の女性を主人公とし、斬り合いをことさらに避けたがゆえのツケといえるでしょう。むしろ幕府方が主人公の『新選組!』の方が、長州もきちんと描いているのですから、実に奇妙なものです。それにしても、なぜ蛤御門の変に真木和泉が登場しなかったのか、全くもって不思議です。まあ、安政の大獄で徳川斉昭も山内容堂も、そして島津斉彬も登場せず、というより故意に登場させたがらない大河ですから、無理もないのでしょう。
話を『新選組!』に戻します。蛤御門の変の後、報奨金が出るわけですが、土方歳三は、それを実際に現場にいた隊士だけに配ろうとします。それに対して永倉は、すべてに配るべきと主張し、ここで軋轢が生じます。最終的には近藤が折れる形になるのですが、永倉、そして山南敬助も、近藤と土方にのみ力が集中するのをよく思いません。その後京都所司代である松平容保の命により、江戸に向かう近藤は、この件で謹慎中の永倉を同行させます。留守中の内部対立を防ぐためにも、これは正しい判断でした。
しかしその後、土方を陥れようとしたというかどである隊士が捕らえられ、隊規に背いたとして切腹を命じられます。一方山南は、近藤の為と称して土方が独裁的になることを懸念していました。それは沖田も似たような考えでした。結局山南も、隊規に反したため処罰されます。そして江戸では、将軍家茂の上洛を呼びかけるため近藤が奔走しますが、幕府は財政難で、なかなか承諾が得られませんでした。その傍ら家族や旧友とも会い、また沖田の体のことで、西洋医学所の松本良順の元へも足を運びます。
もちろんこの中には創作部分も含まれています。たとえば中村獅童さんが演じた滝本捨助の登場場面などは殆どがそうでしょう。しかし、史実をドラマとして展開するには、やはり創作が必要なこともあるわけで、この捨助の場面は、その意味では必要なのです。これによると、桂小五郎が池田屋事件を逃れたのは、捨助が桂の膳部を蹴り上げて着物を汚したからという設定ですし、また佐久間象山の従者も彼ということになっています。
この時の佐久間象山は石坂浩二さんが演じていましたが、「おーい、般若」と呼ばれるたびに、捨助が迷惑そうな顔で「俺は般若じゃないんですけど」と答えるところ、それに象山が「名前にこだわるのは中身に自信がないからだ」といい返す辺りもまた、如何にも三谷氏らしいです。それにしても、新選組隊士がやけに甘い物を食べたり、また焼きイカをぱくついたりするところが見られるのですが、これも恐らくは創作でしょうね。しかし文のお握りとは違い、スポット的に採り入れられているのでさほどくどくは感じません。
ちなみにこの大河には、人形劇関係の俳優さんや女優さんも登場しています。パペットホームズでべインズ役の浅利陽介さんが初々しい若武者谷周平の役、沖田総司役の藤原竜也さんはホズマ・エンジェル(ウィンディバンク)、そして何といっても寺田屋の女将、お登勢役の戸田恵子さんがイザドラ・ダンカンです。そして、池田屋や蛤御門よりも少し前に、オウムが喋る回がありますが、これは永倉新八役の山口智充さんの持ち芸だったとの由。パペットホームズで、動物役を1人でこなす山寺宏一さんを思い出します。
ところで本編後の「新選組を行く」で、池田屋が今はパチンコ店になっていると紹介されていましたが、『花燃ゆ』の方では、居酒屋チェーンになっていました。この辺りに時の流れを感じます。