多美子の入内が近づき、安全に父の屋敷へ移すために、ある方法を採ることになります。しかし多美子が乗ったはずの牛車は、百鬼夜行に出くわしてしまうのですが…。
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転倒した牛車に乗っていたのは長谷雄だった。紀豊城はお前は間男か、女守って死ぬのが趣味かと言って斬りかかろうとする。そこへ在原業平や検非違使たちがやって来る。長谷雄は遅いですよおと泣き叫びながら、多美子の無事を確認する。これを計画したのはやはり道真だった。道真はまず、多美子を阿弥陀堂への荷物の中に紛れ込ませるよう、業平に忠告する。
その荷物を積んだ車は当然寄進も積んでおり、大きな車を使っても、警備をつけても怪しまれないと道真は踏んでいた。さらにいくら何でも、白昼堂々阿弥陀堂への車を、襲う者もいないと考えたのである。今のままではどこかに留まる方が危険だと道真は言い、阿弥陀堂への車は明日の警備のためということで、検非違使をつけたまま、多美子の父良相の屋敷へ向かわせることにした。
そして日没後、多美子を乗せたと見せかけた牛車が出発したが、実際に乗っていたのは長谷雄だった。道真が肩入れしてくれたことに業平は礼を言うが、道真は淡々と、一族の道具にされているなど多美子に気づかせない方がいいからだと答える。多美子は白梅から、決して外をのぞかないように、経文を入れた葛籠に入っているように、そのようなしきたりであると言われてその通りにする。
多美子は葛籠の中で眠ってしまい、父良相の声で目を覚ます。その後正式に入内の運びとなった。道真は見物の人々から離れ、昨日牛車が襲われた場所へ向かう。不思議そうな顔の長谷雄を尻目に、異国の言葉を話す奇妙な行列、しかも豊城とその行列は関係がなく、さらにちぎれた紐が落ちていたことから思考を巡らす。
常行は業平に、多美子が無事であったことの礼を言い、女人と秘め事はお前に頼るのが一番だと戯言を言う。さらに、この計画には他の者が関わっていたのかと聞き、業平は返答に窮するが、常行は気に留めず去って行く。一方基経から多美子入内のことを聞いた高子は、第一皇子はそなたが産むものだと言う基経に、自分がいなければ政もできぬとはと兄に反論し、自分が男なら兄上のその首を掻き切るであろうとまで言う。
基経は去り際に高子に多美子の手紙を渡す。それには入内してからの日々が綴られており、帝と幸せに暮らしていること、高子のことをよく話すこと、そして高子も早く入内すればいいといった旨のことが書かれていた。高子は複雑な気持ちになり、自嘲気味に笑う。
貝合わせの道具の会話がきっかけで、帝と多美子はしばらく高子の話をする。部屋にはまだ片付いていない荷物もあった。多美子は葛籠を見せ、悪鬼を防ぐために、葛籠に入って父の屋敷へ向かったことも話す。帝は自分もそんな話は初めてだと言い、鬼は出たかと多美子に尋ねる。多美子は答えた。
「鬼などどこにもおりませんでしたの!」
急に雨が激しく降り出し、菅原邸は大騒ぎになった。その前に出かけた道真も雨に遭う。道真を待っていた長谷雄は、びしょ濡れの姿を見て、菅三殿ともあろう人が驚く。長谷雄はこれを見て対策をしてきたと言って、新作暦を道真に渡す。
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多美子の入内は滞りなく終わりました。しかし藤原良房や基経の邪魔が入ることから、道真はかなり奇抜な方法を思いつきます。多美子を阿弥陀堂へ向かう車に乗せ、本来多美子が乗る車には、長谷雄を囮として乗せるという方法でした。さらにこの多美子を狙っていたのは基経たちばかりではなく、紀豊城もまた同じでした。長谷雄は転倒した車から出ようとして、昭姫の店で会った豊城と再び出会い、恐れおののきます。
さて多美子は入内後、高子に手紙を送ります。これを見る限り、多美子は心から高子を慕っているように見えますし、無論自分が政争の道具となっていることも知らないようです。だからこそ、白梅が言う「(偽の)しきたり」にも素直に従ったのでしょう。しかし自分がそうであることを知り過ぎている高子にしてみれば、多美子の純真さは羨ましくもあり、妬ましいものであったかとも思われます。
そして道真が見つけたちぎれた紐、これは何を意味しているのでしょうか。そして長谷雄が見せてくれた新作暦が、次の新しいテーマになりそうです。それにしても、この計画に他の者も関与しているのかと尋ねた常行もなかなか鋭いです。百鬼夜行の正体もこれで見破ることができました。今後はこの人物も、道真に関わってくることになるのでしょうか。